
足回りの課題とセッティングの方向性が見えてきたので,その変更に合わせた空力の見直しも必要そうだとアレコレ考えている途中で,こんな記事(↓)を見つけました.
【海外技術情報】アウディ:e-tron Sモデルの革新的な空力コンセプトに迫る(Motor-Fan TECHより)
「e-tronなのでEVかぁ~」と思いつつ,読み始めたらなかなか興味深かったので,細かい部分が気になり,アレコレ調べていたらいつもの状態になっちゃいました(苦笑).という事で久方振りの空力調査です.
まず,e-tronは先述の通りAUDIのEVです.私は最初「その"S Model"という車種名なのかぁ~」とか思っちゃっていたのですが(テスラに洗脳されてますね・・・),AUDIがいつもスポーツモデルに使っている"S"モデルという意味でした.(´ー`A;) アセアセ
EVですから,駆動力面ではどうとでもスポーティに仕上げられるだろうと思いますが,驚きなのはクーペスタイルとはいえ,SUVなのにCd値(空気抵抗係数)が0.26と驚異的な数値を示している点です(ちなみに,CR-XのCd値は0.30).どんな工夫がされているのか? まずは動画を見てみます.
最初に出てきたのは「エアカーテン」.
欧州車お馴染みの技術なので,いつもの
アレだなぁ~という感じです.
面白かったのが次,「ホイールアーチトリム」.
ホイールアーチにスリットを設けて,そこを通過させる手法です.他で見た事ないなぁ~と思っていたのですが,この記事では「特許取得済み技術」と書かれているのでAUDIオリジナルなのでしょうね.狙いは「ホイールハウス内の破壊的なスワール制御」と書かれていますが,何の事か分からないので動画で確認してみたところ,こういう事(↓)のようです.
タイヤの手前からエアカーテン状に抜け出した空気を,タイヤ後端部に巻き込ませ(スワールさせ),それによってタイヤ部分をガードするかのような気流を作り,フロントバンパー側面を流れてきた空気をキレイに横へ逃がしてやる効果があるようです.
【スリットなし】
【スリットあり】
これにより,抵抗が減る(下段の点線部分参照)のだそうです.面白いですね.
さて,これがSモデル特有のデバイスですが,スタンダードのe-tronにも空力デバイスが色々付いています.
1つ目が「バーチャルミラー」.
【コンベンショナルミラー】
【バーチャルミラー】
これは見ればすぐ分かりますね.バーチャルミラーは鏡の代わりにカメラを使うので,明らかに小型化されているのが分かります.キレイな気流の中にデン!と突出している物体が小型化されるのですから,効果は容易に想像出来ますね.資料を読むと全幅で150mm短縮され,これだけでCd値は0.005改善したとの事です.さすがにカメラへの置換えは素人には難しいでしょうが,目で見てすぐ分かるデバイスですね.
1つ飛ばして次は「可変エアインレット」.
【クローズ状態】
【オープン状態】
フロントグリルに付いているルーバーを開閉する事によって空力効果を得る代物ですね.冷却性能とのトレードオフになるので,どれくらいの間閉めておけるのか分かりませんが,こちらはCd値が0.015改善するそうです.さすがは正面,効果が大きいですね.
ちなみに,私はこういったシャッターを見ると,旧DTMマシンを思い出します.
ストレートでシャッターが閉じると文字が浮かび上がるのが格好良かったですねぇ~.何でもアリだった当時のDTMにおいても,さすがに可変空力デバイスは禁止だったからと「冷却デバイス(ラジエターシャッター)」として申請して使用していた話も面白かったです.
最近はこのシャッターもそんなに珍しいデバイスでもなくなってきましたが,そもそもの起源はドコだったのかなぁ~?と思って調べてみたところ,何と驚き,世界初採用はAE86だったんですね!
AE86カローラ・レビンに採用された世界初の画期的な装備とは?(cliccar)
これは不勉強でした・・・.
さてさて,脱線した話を戻して,最後に途中で飛ばした「アンダーボディ」の話.
「フラットなアンダーボディカバーで覆って・・・」なんて謳い文句は,もはや当たり前過ぎて聞く気も失せてきますが,Cd値を0.017改善とやっぱり効果が大きいようです.「ええ,ええ,そうですよねー」なんて思って映像を見ていると,
「ん!? ちょっと待て」
どこがフラットなんだ? ボコボコじゃねーか!と思いつつ,資料を読んでみると「高電圧バッテリーをボディにボルト留めしているポイントにはゴルフボールのようなディンプル加工が施され,フラットな表面に比べてスムースなエアフロ―を実現します」なんて書いてあります.
確かにこれだけ大きなボルトでボディ(というかシャシー)と留めるのはEVならではなのでしょうが,普通は頭頂部がサラ形状のボルトを使って,何とかフラットにするものです.それをわざわざディンプル加工ですか・・・.
「ディンプル加工」というのは,ゴルフボールの表面のボコボコの事です.元々ゴルフボールはつるつるの表面だったそうですが,傷がついたり,凹んだりしたボールの方がよく飛ぶ事に気づいて今日の形状になったそうです.意味があってあの形状になった事は知っていたのですが,メカニズムまで細かく調べた事がなかったので,詳しい解説がないかなぁ~?と漁ってみたところ,空力解析の結果を見つけました.
パッと知りたい! 人と差がつく乱流と乱流モデル講座(Cradle)
第16回 16.1 ゴルフボールの流れ 解析概要、16.2 ゴルフボールの流れ 解析結果
ディンプル加工があると,ボール後方の渦の発生の仕方に違いがあるようですね.
更に読み進めると・・・,
第17回 17.1 ディンプルの影響
ディンプル加工がある方が気流の剥離が遅く,球の後ろに出来る渦の大きさが小さくなるようです.渦の大きさ≒抵抗ですので,小さな渦を多数作る事によって,大きな渦の発生を低減し,それが最終的に空気抵抗の低減に繋がる・・・というメカニズムのようですね.
空力における「渦流制御」の話は,F1ではよく聞く話ですが,いよいよ市販車でもそういった領域に踏み込み始めたという事なんですかね.さすがにこのレベルになると,素人にはさっぱり分からないと思いますが,何でもかんでも真っ平にすればいい訳じゃない,という考え方はなかなか新鮮でした.
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セッティング検討(空力) | 日記
Posted at
2020/10/13 01:19:36