TC1000で予想外に効果が出たアンダーパネル.最近は市販車でも最初から装着される事が多くなってきたので,街乗りレベルの速度域でも効果があるのは間違いないのですが,得てして空力部品は効果を体感しにくいので,期待していなかった分,今回体感出来た事がちょっと驚きです.
・・・という事で,ここで一度アンダーパネル(≒フラットボトム化)の効果をおさらいしておこうと思います.
まず,クルマの床下(ボトム)は空気抵抗全体の20%を占めるそうです.

(トヨタ自動車:
自動車における空力開発と取り組み動向より)
床下の空気抵抗を減らすための基本的な考え方としては,床下を空気が通る際に,車両後方に向かってなるべく早く・キレイに流してやる事で空気がもっている運動エネルギー(速度)を減らさない事が重要なんだそうです.

(Honda DEEP LEANING:
NSX-GTの空力開発より)
空気をなるべく早く・キレイに流すためには,表面がデコボコしているよりもツルツルの真っ平な(フラットな)方が良いのは感覚的にも分かりますね.
さて,フラットボトム化によって抵抗が減る事は分かりましたが,ここから更にどうやってダウンフォースが生み出されるのか?です.その原理を理解するためには「ベンチュリ―効果」を理解する必要があります.
「ベンチュリ―効果」というのは,「流量が一定の時,流れの断面積を狭くすると流速が増加する」というものです.クルマで言うと,床下を流れる空気の量が同じであるならば,断面積(≒空気を取り込む部分の面積)が小さくなればなるほど,流速を上げられる,という意味になります.
「空気を取り込む部分の面積」というのは,上図(↑)の赤い部分になりますので,これはそのまま「車高」とも置き替えられます.言い替えると,「車高を下げれば下げる程,床下を流れる空気の流速を上げられる」という事になります.
次に,流速を上げるとどうなるか?ですが,こちらは「ベルヌーイの定理」より「流速が上がると圧力が下がる」という関係性になります.

(ムーンクラフトSTAFF BLOG:
CFD レーシングコラム ディフューザー編 ~その1~より)
「流速が上がると床下の圧力が下がる」ので,ダウンフォースが発生する訳です.ウイング等が上下の圧力差で上から押しつけられてクルマにダウンフォースを発生させるのに対し,フラットボトムは床下が負圧状態になってクルマが地面に吸い付けられるイメージになります.これが所謂ところの「グランドエフェクト」ですね.
上記2つの法則から,フラットボトム化でダウンフォースを得るためには,
①車高を下げれば下げるほど,ダウンフォースが得られる
②車速が上がれば上がるほど,ダウンフォースが得られる
という事が分かります.私が当初「アンダーパネルを付けてもTC1000レベルでは効果は得られない」と思っていた理由が,まさにこの2つのポイントに起因しており,私のEF8は車検対応で90mm以上と高いので①に当てはまらず,TC1000だとこの時期B16AではMAX:130km/hそこそこなので②にも当てはまらず,故に「効果は得られない」と思っていた訳です.
しかし,実際は車高は下がらずともアンダーパネルで床下の平滑化で流速は上がっており,車高90mmでもこれだけアンダーパネルの面積があれば100km/h台のコーナリングでも十分効果を得られる,という事だったようです.
ちなみに,なんでここでパネルの面積が出てくるのか?というと,先程の「ベルヌーイの定理」に出てくる単位が「圧力」だからです.
「圧力」というのは「単位面積当たりに働く力」を示しており,一方,ダウンフォースは「力」になります.
この「圧力」と「力」の関係性は単位換算から,
[力] = [圧力] × [面積]
となります.空気が流れる事によって得られる「圧力低下(負圧)」は,場所によって変わる事がないので,単純に「床下の面積が大きくなればなるほど,得られるダウンフォースも大きくなる」という原理な訳です.
余談ですが,F1のホイールベースがどんどん延びていった理由は,パワーユニットが大きくなった影響もありますが,ホイールベースを延ばして床下の面積を広げる事でダウンフォースの総量を増やそうとしている,という事もあります.
そういう意味では,CR-Xは発売当初からショートホイールベース車の代表格として挙げられるクルマですので,他のクルマに比べて不利な訳ですが,それでも体感出来た訳ですから,ロングホイールベースのクルマでやったら,もっと効果は大きいんでしょうね.
以上,フラットボトムのお勉強でした.
今回出てきた「ベルヌーイの定理」は,厳密には非圧縮性の流体(密度が変わらない流体)にしか当てはまらないそうで,液体はともかく気体(空気)に対してはそっくりそのまま当てはまらないそうです.
このため,ウイングのダウンフォース発生原理の引き合いに,この「ベルヌーイの定理」が出てくると,専門家は違和感を覚える(間違いではないが,それが主要因でもない,という感じ)というのを最近学んだのですが,一方でクルマの床下という限定空間だと,この「ベルヌーイの定理」はそのまま適用出来るんだそうです.この辺りの違いを私はまだちゃんと理解出来ていないのですが,今回はそのまま引き合いに出してみました.
ちなみに,フロアをフラットにするだけではダウンフォースを得るための施策として不十分である事は認識しており,後端にディフューザーを付ける事で完成となる点も理解しているのですが,諸々の事情があってCR-Xだとそれは簡単に出来ないので,今回のところはこれで終わりにしたいと思います.
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セッティング(空力) | 日記
Posted at
2022/05/06 00:03:59