
「バランススロットルとトレイルブレーキは,どっちがタイヤに優しい?」という文章を目にしたのですが,それを読んで「う~ん・・・どっちだろ?」と疑問に思いました.
私のイメージでは「バランススロットル」と「トレイルブレーキ」は使う領域が異なるので,「どちらかが良い・悪いはないんじゃないかなぁ~?」と思いつつ,「駆動方式によっても変わるよなぁ~」とも思いつつ,気になって夜しか眠れなくなりそうなので(笑),ここは1つ真面目に考えてみる事にしました.
まず,「バランススロットル」と「トレイルブレーキ」の違いですが,こんなイメージなんだそうです(↓).

(Beyond the Apex The Gran Turismo Magazine:
コーナリングの考え方より)
内側のブレーキング区間が短いものが「バランススロットル」,外側のブレーキング区間が長いものが「トレイルブレーキ」です.「バランススロットル」は強く・短く止めて,右足をアクセルに乗せながらコーナリングを始める走らせ方.対して「トレイルブレーキ」はコーナーのエイペックスまでブレーキを残す走らせ方.所謂ところの前者が「欧州式」,後者が「日本式」ですね(欧州式・日本式の話は
コチラ).
この図をパッと見た時の印象では,「バランススロットル」はアクセルを開けて後ろ荷重になっている時間が長いのでリアタイヤに厳しく,「トレイルブレーキ」はブレーキによって生じる前荷重の時間が長いのでフロントタイヤに厳しいんじゃないかなぁ~?と思いました.
そう思った時に「アレ? 前にもこんな話があったような・・・」と記憶を辿ってみたところ,
冬場にタイヤのウォームアップで苦しんでいた時に似たような話をしていた事を思い出しました.
イギリスのドライビングコーチであるロブ・ウイルソン氏曰く,
「例えるなら,熱々のオーブンへの触れ方の違いみたいなものだ.(トレイルブレーキは)エイペックスの一瞬だけ,極短時間だけ,高温のオーブンに触れる走らせ方だね.(バランススロットルのような)コーナーに対してU字型のラインを描くオーソドックスなドライバーの場合は,確かに温度の絶対値は低いかもしれない.しかし,タイヤをオーブンに長時間触れる走らせ方となってしまう.1000℃のオーブンに長時間触れるよりも2000℃のオーブンに一瞬だけ触れる方がダメージは少ないんだよ.だからタイヤに優しいし,タイヤがもつんだ」
・・・との事です.これをイメージにすると,こんな感じ(↓)でしょうか?
「タイヤへの優しさ=タイヤに熱を入れている時間の少なさ」と言えそうです.
そして,「タイヤに熱を入れている時間=タイヤがスライド(横滑り)している時間」とも言えそうです.
つまり,「バランススロットル」だろうが,「トレイルブレーキ」だろうが,タイヤをスライドさせなければタイヤに優しいし,スライドさせてしまえばタイヤに厳しくなる,という事になりそうです.
さて,ここで「スライド」というキーワードが出てきましたが,「スライドさせるとタイヤが傷む」という話はF1の中継を見ていると良く出てきます.同時に「○○はタイヤに優しいドライバー,××はタイヤに厳しいドライバー」といった表現もよく聞くのですが,果たして,彼らのドライビングの違いはどこにあるのでしょう?
似たような疑問を持つ方は私以外にもいらっしゃるようで,某所で「タイヤに優しい走らせ方って,どんな走らせ方?」と質問されている方に対して,こんな回答(↓)をされている方を見つけました.
「タイヤに優しい走らせ方? それは
スローイン・スローアウト だ!」
これを見て,なるほどなぁ~と思ってしまいました(笑).
一般的に言われる最速のコーナリングは「スローイン・ファストアウト」です.「バランススロットル」だろうが,「トレイルブレーキ」だろうが,コーナーの入口が「スローイン」である事は変わりがありません.だったら,違いが出るのはコーナーの出口部分.そこが「ファストアウト」であればタイヤに厳しくなるし,「スローアウト」であればタイヤに優しくなるだろ?って事を言い表しているんだと思います.
興味が湧いたので,データで確認してみましょう.
上のグラフは,先日行われたF1イタリアGPにおけるマックス・フェルスタッペン選手のラップタイムデータです.白線が予選(Q3)のラップ(=全力で「ファストアウト」しているラップ),青線が決勝(23周目)のラップ(=タイヤを労わって「スローアウト」しているラップ)になります.ちなみに,タイヤは両者共にソフトです.
一番上「Speed(車速)」を見ると,各セクションの最高速に歴然とした差があるのが良く分かりますが,この違いを生み出している原因はどこにあるのか?を調べてみると,2つある事に気づきました.
1つ目は,スロットルを早く戻している点.
真ん中の「Throttle(スロットル)」のグラフを見ると,青線(決勝)の方が白線(予選)よりも左側に来ており,決勝ではより早くスロットルを戻してる事が分かります.つまり,「スローイン」のスローを更にスローにして,タイヤを労わっているものと思われます(厳密には,燃費セーブを目的としたリフト&コーストの意味合いもあるんでしょうけれど).
2つ目は,スロットルをゆっくり開けている点.
同様に,真ん中の「Throttle(スロットル)」のグラフを見ると,先程とは逆で,青線(決勝)の方が白線(予選)よりも右側に来ており,決勝ではスロットルをゆっくり開けているのが分かります.つまり,「スローアウト」な訳ですね.
上記は言うなれば,「スロースローイン・スローアウト」といった走らせ方で,先述の格言(?)とも一致します.
ま,冷静に考えてみれば「そりゃそうだ」な結論なのかもしれません・・・.
ちなみに,上記のデータを見ていて興味深かったのは,予選(白線)・決勝(青線)共にブレーキングポイントがほぼ変わらない点(一番したの「Brake」のグラフを参照).これは「タイヤマネジメントをコーナーの入口ではなく,コーナーの出口だけで行っている」という事を表しているのだと思いますが,タイヤを労わりつつ,その中で出せる最速のラップを刻むテクニックというのが,きっとコレなんでしょうね.
300km/hオーバーからフルブレーキングする1コーナーなんて,下手すると40km/h近い車速差があったりするのですが,これだけ進入の車速が違うにも関わらず,ブレーキングポイントが全くズレない(毎回必ず同じところでピタリと合わせる)F1ドライバーの技量って,やっぱり凄いんだなぁ~と思いました.
以上,タイヤに優しい走らせ方でした.
纏めると,「バランススロットル」だろうが,「トレイルブレーキ」だろうが,スライドしてしまえばタイヤは傷むし,スライドさせなければタイヤに優しいと言えそうです.タイヤをスライドさせないためのキーとなるテクニックは,やはりアクセルワークで,タイヤを労わるためには,特にコーナー出口でゆっくりとした操作が求められるようです.
ちなみに「完璧なアクセルワークで全くスライドさせなかった場合は,どうなの?」という疑問に対しては,タイヤ4輪全てに負荷が掛かっている時間が長い方,つまり,「バランススロットル」の方がタイヤに厳しいんじゃないかなぁ~?と思いました.
ふぅ・・・これでスッキリした.さ,寝よ寝よ(笑).
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ドライビング理論 | 日記
Posted at
2022/09/29 04:06:01