
「良かれと思ってやった事が裏目に出る」というのはよくある事で,「大事なのはそこから何を学ぶかだよなぁ~」と何とかメンタルを保とうとしているOXです(何を言おうがダメなもんはダメなんですけど・・・).
さて,SNSを見ていたら「話のネタにどうぞ」と色々なクルマのねじれ剛性値のデータが流れてきたので,ふ~ん・・・と眺めていたのですが,相対値で示される事が多いこのデータを,絶対値で見ると色々興味深かったので纏めておきます.
クルマにおける「ねじり剛性」とは,雑巾を手で絞るかのようにボディにねじる力を加えた際に,どれくらい変形しないか?を表す指標です.

(ダイハツ:
COPENより)
一般的にはサスペンションが狙い通りに動くようになるので剛性は高い方が良いとされていますが,「
ボディが上手く捻じれるからこそ上手く走れる」という意見もあったりするので,なかなかにデリケートな分野です.
この「ねじり剛性」を表す単位としては「Nm/deg」が使われており,トルクをどれくらい掛けたら1度捻じれるか?という意味合いになっているようです.どうやって測定するのかな?と思って調べてみたら,こんなイメージのようです(↓).

(広島県立総合技術研究所:
自動車の車体剛性共同実験の紹介より)
クルマをホワイトボディにして,ダンパーの付け根部分に力を加えるシリンダーを取付け,前後・左右反対向きの方向に力を加える事でねじりを再現し,その際のボディの歪み具合(変位)を測定して「剛性値」として算出するようです.
このため,ルーフ部分が繋がっていないオープンカーは剛性が低くなる事が容易に想像がつくと思いますが,実際どれくらい違うんでしょう? 早速データを見てみたいと思います(元のSNSでは
2012年時点のデータだったのですが,調べてみたら2022年版のデータもあったので今回は
コチラを参照します).
分かり易いのは,クローズドボディとオープンボディの両方の設定がある車種でしょうから,パッ見で目に付いたのがBMWのZ4でした.
【BMW E85 Z4 クーペ:32,000Nm/deg】
【BMW E85 Z4 ロードスター:16,000Nm/deg】
クローズドボディであるクーペが32,000Nm/degであるのに対し,オープンボディであるロードスターは16,000Nm/degときっちり半分です.両者の車重はクーペ:1425kg,ロードスター:1430kgとむしろロードスターの方が重いので,それなりに補強はしているんだと思いますが,屋根が繋がっていないと剛性はここまで落ちるんですね・・・.
Z4が極端な例だったりしないかな?と思い,今度はポルシェの718ケイマンと718ボクスターで比較.
【718ケイマン:41,000Nm/deg】
【718ボクスター:19,000Nm/deg】
こちらもクローズドボディのケイマンが41,000Nm/degであるのに対し,オープンボディのボクスターは19,000Nm/degと半分以下でした・・・.
オープンの弱さが分かったところで,今度は反対に一番強いそうなレーシングなクルマ達の数値を見てみると,
Audi R8(2014–) ・・・ 40,000 Nm/deg
BMW E46 M3 GTR ・・・ 46,000 Nm/deg
Dodge Viper GTS-R ・・・ 25,082 Nm/deg
Ford GT ・・・ 27,100 Nm/deg
Lexus LFA ・・・ 39,130 Nm/deg
Lotus Elise 111s ・・・ 11,000 Nm/deg
McLaren F1 ・・・ 13,500 Nm/deg
Porsche 911 Coupe 991(2012-2018) ・・・ 30,359 Nm/deg
やっぱりドイツ車は固いなんだなぁ~というのが良く分かります.アメリカ車はこの中では比較的設計が古いの方なのでそれより若干劣る感じ.そして,イギリス車はやっぱり固さよりも軽さ!なんでしょうね.
(マクラーレンF1とか,これでよくル・マン24時間に出ようと思うよなぁ~って値です)
続けて,ソース元が海外なので日本車の情報は少ないのですが,気になった車種の数値を見てみると,
Honda Civic Hatchback(EK) ・・・ 10,700 Nm/deg
Honda S2000(AP1) ・・・ 7,100 Nm/deg
Mazda MX-5(NA,1990–1993) ・・・ 4,881 Nm/deg
Mazda MX-5(NA,1994–1998) ・・・ 5,152 Nm/deg
Mazda MX-5(NB,1999–2000) ・・・ 5,219 Nm/deg
Mazda MX-5(NB,2001–2005) ・・・ 6,367 Nm/deg
Mazda MX-5(NC,2006–2008) ・・・ 8,132 Nm/deg
Mazda RX-7(FD) ・・・ 15,000 Nm/deg
Mazda RX-8 ・・・ 30,000 Nm/deg
Nissan Micra 3-door(K11, 1992–2003) ・・・ 4,000 Nm/deg
Subaru Impreza WRX(2002–2007) ・・・ 23,000 Nm/deg
Toyota Celica(T230,2000–2005) ・・・ 13,600 Nm/deg
Toyota Starlet(80 Series) ・・・ 7,600 Nm/deg
Toyota Supra(A90) ・・・ 39,000 Nm/deg
いくら当時頑張ったとは言っても,やっぱりS2000の剛性は低いんですね.ロードスター(MX-5)はそのS2000の更に7割くらいしかありませんが,それでもモデルチェンジの度に涙ぐましい努力を経て徐々に上げていってる様子が窺えます.S2000から6~7年遅れくらいにはなっていますがNC世代で上回っているのが素晴らしいですね.ただ,これとプラットフォームを共有しているRX-8の数字を見ると,「オープンで剛性なんて語っちゃいけない」と言われそうですが・・・.
クローズドボディなのに,そのロードスターよりも剛性が低いK11マーチ(Micra)はやっぱりなぁ~という気がさせられますが,反対にGD世代のWRXの数値の高さも別な意味でやっぱりなぁ~という感じです.FFセリカ(T230)とEKシビックの値を見ると1万越えくらいが1990年代後半~2000年代初期の市販車の標準という感じでしょうか.そこから20年経ったA90スープラの数値は,前述のレーシングカー並みの値を示しており,技術の進歩を示すと共に「最近のクルマに剛性アップパーツは要らない」という話も納得出来ます.
EF世代のCR-Xの数値は分かりませんが,EKが1万ちょっと,EP8xのスターレットが7千半ばというのを踏まえると,8千行かないくらいかなぁ~? 私のEF8はグラストップなのでそれより確実に下回るでしょうから,良くてS2000と同等くらいですかね・・・.
最後に面白かったので,テスラに関して1つ.
Tesla Model 3(バッテリーなし) ・・・ 15,500 Nm/deg
Tesla Model 3(バッテリーあり) ・・・ 20,600 Nm/deg
これを見て,やっぱりバッテリーも剛性アップパーツなんだなぁ~と思いました(笑).
以上,ねじり剛性のお勉強でした.