LSDで次何をすれば良いのかが何となーく描けたので,モチベーションアップのために再びLSDのお勉強をしてみます.
「LSD(Limited Slip Differential)」は,その名の通り「デファレンシャルギヤ(Differential gear)の滑り(Slip)を制限(Limited)するもの」です.「デファレンシャルギヤ」はコーナリング中に内輪と外輪で動力に差をつけるためのものなので,「LSD」はこれの逆,すなわち「コーナリング中に内輪と外輪で動力に差がつかないようにするためのもの」という事になります.
簡単に言ってしまえば「タイヤを左右で直結(ロック率:100%)にする」という事ですが,1wayのLSDの場合,減速時はロック率がほぼ0%なので,実質的に加速時に駆動トルク(≒アクセル開度)に比例してロック率をコントロール出来るもの,という事になります.
では,コーナーの立ち上がりでアクセルをガバッ!と開けてLSDを作動させ,ロック率を100%(=直結)にした場合に,左右のタイヤはどんな状態になるのか?というと,
LSDはコーナリング中に作動するものなので,横Gが掛かって車体がロールし,内輪側に掛かっていた荷重の一部が抜けて,外輪側へと移動する事になります.例えば,静止状態では5:5だった左右の荷重の比率が,9:1といった形で外輪側に偏るようなイメージです.
この状況だと,当然外輪側の「9」の方が内輪側の「1」よりも大きな力を発揮出来ますので,外輪が内輪を押し切るような感じで,クルマが曲がろうとしている方向(図の右側)に向かって力が働きます.これが「LSDで曲がる(LSDのおかげで曲がる)」のメカニズムですね.
ではここで,ロールを抑制するためにバネレートを上げたらどうなるか?
厳密にはバネレートを上げても左右の荷重移動の量は変わらないのですが,リバウンドストロークが少ないサスペンションで9:1みたいな極端な荷重移動を起こすと,内輪側のタイヤが持ち上げられて(インリフトして)荷重が抜ける事になるので,ここでは,
バネレートを上げた ⇒ ロール角が減った ⇒ 内輪側が持ち上がらなくなった ⇒ 荷重が抜けなくなった
・・・という仮定で考えます.
この内輪側の荷重が抜けなくなった状態で,先程と同じような横Gを出してコーナリングしようとした結果,左右の荷重の比率は5:5 → 6:4 までしか移動しなかったとしましょう.
そうすると,先程の9:1の場合は圧倒的に外輪の方が力が強かったので,即座にクルマが曲がる方向に力を出せていましたが,今度の6:4の場合は差が僅かとなってしまったため,外輪が内輪を押し切るまでに時間が掛かってしまい,その間は先程と逆方向(=クルマを外側へ押し出す方向)に力が働く事になってしまいます.これが「LSDのせいで曲がらない」のメカニズムでしょうね.
つまり,バネレートを上げて左右の荷重移動を生じにくくすると,今までLSDのおかげで「曲げられる領域(ニュートラルステア⇒オーバーステア方向)」だったものが,一転して今度は「曲げさせない領域(ニュートラルステア⇒アンダーステア方向)」へと変わる訳ですね・・・.
こんな厄介な状況は当然回避したい訳なのですが,そのために重要となってくるのが「ロック率」です.
タイヤの外輪⇔内輪が直結している場合(ロック率:100%の場合),外輪⇔内輪で力の差が生まれないので,外輪が内輪を押し切るような状況には持ち込めません.従って,ロック率が100%に達するまでの時間をなるべく稼いで,少しでも押し切れる状況を増やす事が重要となり,故に「イニシャルトルクを下げる」という話が出てきます.
そして,更に話をややこしくしているのが,1wayのLSDは駆動トルクを掛けないと(=アクセルを踏まないと)力が出ない,という点です.
つまり,コーナーの立ち上がり初期(上の図のエイペックス付近~Exitに入るまでの領域)という限られた領域の中でこの時間を稼ぐ必要があり,それ故にカム角ではなく,イニシャルトルクでこれを実現すべきなんだろうなぁ~と思いました.
以上,LSDで曲がるメカニズムでした.
ここまでの話からLSDを使いこなすには,左右の荷重移動の量がポイントになってくる事が分かると思いますが,実はバネレートの他にこれをコントロールする要素がもう1つあります.

(VD講座:
第4回 荷重移動その3より)
それが「加速度(横G)」です.「タイヤの限界を超えない事」という条件はありますが,横Gを大きくすればするほど左右の荷重移動の量は増えるので,それを使って「LSDで曲がる」状況を作り出す事も出来ます.
故にボトムスピードを上げる事(↓)は大事だし,
プロはそれを狙ったドライビングをされているのだと思います.
また,B16Aのような回転数でトルクを絞り出すタイプのエンジンは,ボトムスピードを上げて,旋回中のエンジン回転数を出来るだけ高く保った方が立ち上がりのトルクも稼げますし,クルマの性能を全部引き出すという意味では,そういったドライビングに変えていかないと現状の壁は超えられないんだろうなぁ・・・と思いました.
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セッティング(駆動系) | 日記
Posted at
2024/07/25 01:00:41