
EF8が入院中で今週末はする事がなく「暇だなぁ~」とSNSを眺めていたら,ホンダのウェルカムプラザ青山で「Encore! TOKYO AUTO SALON 2025」と銘打って,先週幕張メッセで展示されたものの一部が再展示されるとの事で行って来ました.
オートサロン時にHRCは「RA621Hを初公開!」と言っていたのですが,RA621Hなんて既にアチコチで展示してないか・・・?と意味が分からず,アレコレ考えてみた結果,どうやら「This is Motor racingした時の現物を初公開!」という事だったようですね.
「RA621H」は
2022年にも同じくここウェルカムプラザ青山で見ているのですが,今回はガラスケースもなく,かなり近い距離で見学出来るとの事で期待しながら向かいました.
ウェルカムプラザに到着して早速見に行くと,
ワァ~オ! 本当に真近で見れる.オートサロンの時はステージの横で「ちょっと遠い」という不満もあったようですが,こちらは本当に近い! これならジロジロとたっぷり見れる(笑)とスマホ片手に写真をパシャパシャ撮り始めました.
最初に目につくのは,やはり大きな「ES(Energy Storage)」ですが(↓),
アンチEVな私は興味がないのでスルーして(笑),「ICE(Internal Combustion Engine)」の方へ向かい,最初に目に付いたのは「IGV(Intake Guide Vane)」.
「TC(Turbo Charger)」のコンプレッサー側に付いている可変式のベーン(羽)です.この「RA621H」には一般的なバタフライ式のスロットルが付いていないので,この「IGV」をスロットルの代わりと言う人もいるようですが,ホンダ自身が「トルク制御は燃料噴射量によって行っている」と言っている通り,もはや現代のレーシングエンジンはディーゼルエンジンにコンセプトが近く(副室燃焼やら,市販車の3倍近い高Pmaxからもそれが窺える),スロットルレスといった方が正しいんじゃないかなぁ~と思っています.
じゃあ,この「IGV」は何なの?と調べてみると,空気量を制御しているというより,コンプレッサーの仕事量を制御するために付いているようで,どちらかと言えば「VNT(Variable Nozzle Turbo)」に近い考え方なんじゃないのかなぁ~と思っています(「VNT」はコンプレッサー側ではなく,タービン側ですけど).ホンダのF1エンジンはアノ手コノ手でエネルギーマネジメントをしているので,「IGV」もその一環で付いていると理解した方がスッキリする気がしました.
いきなり3文字略語のオンパレードで興味ない人をブッチぎってますが(笑),「RA621H」の情報なんて既に世の中に出回っているので,今回はとことんマニアックに行きます.お次はブロックサイド(↓).
フォーミュラ用のエンジンなので,エンジン本体もストレスメンバーとなっており,2本の補強バーがヘッド上面に付いている訳なのですが,従来のエンジンが上下2本太い棒が付いていたのに対し,この「RA621H」では下側の方のバーがなくなっています.これは車体側のカウル形状の自由度を増やすためだったそうなのですが,「だったら,先端(図の左側)の突起状のところもなくしちゃえばいいんじゃね?」と思って後で調べてみたら,レギュレーションで車体側の取付ポイントが指定されているそうで,この突起は削れなかったようですね.
そのまま後方に回ってみると,
タービン後ろのテールパイプとは別に,もう1つパイプがあるのが見えます.なんだこりゃ?と思って調べてみたら,どうやら「WGV(Waste Gate Valve)」の出口のようです.「ああ,そうか~」と思って眺めていたらビックリ.今時のエンジンは「WGV」が2個付いているんですね!
これは知らなかった・・・.「WGV」を1個にするか2個にするかはチーム側に選択権があるそうなのですが,どういう考え方で決めるんだろ?
そのタービンの下にはクランクの出力軸が(↓).
棒状のものがいっぱい突き出てますが,あまり他では見ない代物ですね.
エキマニの形状が左右で違うのは2年前にも確認した通り(↓).
そして,個人的にこの「RA621H」の最大の特徴ではないかと思っているプレナムチャンバー(↓).
この中には「Quad VIS(Variable Intake System)」というものが搭載されているそうです.
内部のシステムなので外から見ても分かるはずもなく,autosport webの画像をお借りするとこんな感じ(↓).

(autosport web:
F1の頂点を極めたホンダPUを世界初公開の写真とともに完全解明より)
所謂ところの「可変吸気管長システム」というヤツで,一般的に高回転域は大量に空気を吸い込みたいので,吸気管の長さは短ければ短いほど良いのですが(剥き出しの4連スロットルとかがそれですね),低回転側は吸い込む力が弱いため,空気の流れの慣性を使ってアシストしてやる必要があり,吸気管はなるべく長い方が良いと言われています.この矛盾を成り立たせるために吸気管そのものの長さを回転数に応じて可変にしてしまおう!というのが「可変吸気管長システム」になります.
「RA621H」の場合は,上の画像の通り,プレナムチャンバー内のファンネル(白い筒状のもの)が伸びたり・縮んだりしてこれを実現しています.最初「Quad(4つ)」の由来は,ファンネルが4段式だからなのか?と思っていたのですがどうやらそうではなく,プレナムチャンバーの入口(↓),
車体側の「CAC(Charge Air Cooler)」に繋がる部分の配管(この画像だと蓋がされている部分)が,4つ又になっている(内部で管が4つに分かれている)ためのようです.可変モードはざっくり「SUPER LONG」「LONG」「SHORT」の3段階あるそうで,「SUPER LONG」は8000rpm以下の低回転でのみ使われるそうですが(2021年のF1エンジンの最高回転数は15,000rpmなので約半分),「SUPER LONG」になった時のみ,通常集合管→各気筒に分岐しているものが,気筒毎に管を直結されるようになっているそうです.
「プレナムチャンバー」と聞くと,
吸気脈動を利用した吸気管くらいのイメージしかなかったのですが,現代ではこんな風に進化していたんですね.大変勉強になりました.
あ,ちなみにその「プレナムチャンバー」ですが,表面に温度シールが貼られていました(↓).
RACETECHという会社の「Temperature Indicator Strips」という製品のようです.機能的にはブレーキキャリパーに貼って温度を見るヤツと同じものだと思われます.貼られているシールの変色している位置を確認すると大体99℃くらい.インタークーラーで冷却されているとはいえ,ここまで温度が上がるって事ですね・・・.
こんなのが貼られたままというのは,まさしく実戦で使われた代物感がありますね.そう思ってよーく見ていくと(↓),
あ,管理番号のシールが貼られてる! おっ? 益々実戦っぽいと思ってアチコチ調べてみると,
FIAの公認番号だったり,油圧システムの校正日だったり,子部品の管理番号だったりと色々見つけられました.この中で一番印象深かったのが管理番号全てにQRコードが付いている点.1個1個の部品の使用履歴をこれで全て電子データで管理しているんだろうなぁ~と思いました.F1レベルであれば当たり前の事ではあるのですが,こんなの実物を見ないと気づけませんよね.
一度こんなのを見つけてしまうと,つい調子にのってしまい(笑),更にジロジロと眺めてみると,
「IGN 5」と貼られたケーブルを発見.多分「Ignition 5(5気筒用の点火信号)」ですね.
こちらセンサの集合部かな? 「KNOCK L」は左バンク用のノックセンサの信号,「PEX L」は左バンクの排気圧センサ,「TEX L」は同じく左バンクの排気温センサでしょうかね.「XWG L」の"X"は意味が分からないですけど,付いているデバイスからすると左側のウェイストゲートの駆動信号かな?
もう1つ別の箇所には「TCOMPOUT R」."T"は多分温度(Temperature)の"T"だろうから,右側の何らかのコンポーネント部品の温度センサかな? その下に"P"と"T"で始まるものは配線が繋がっていないので,最初見た時は何かしらのダイヤル調整機構か?と思ったのですが,改めて画像を見返すと歯車状の目クラが付いているだけですね・・・.
その他にも,車体との締結部位にこんなセンサが付いていたり(↓),
まさしく実戦仕様って感じだなぁ~と思いました.
(最初,温度センサかと思いましたが,位置的に多分振動センサでしょうね)
あとは,浮かして展示されていたので,エンジン底面を覗き見してみたり(↓),
この伸びてるパイプ(↓の左側)は何の配管だろう?と思って家に帰ってから調べたら,
実は燃料配管で,その先に50MPaの高圧燃料ポンプ(↑の右側)があった事を後で知ったり,
配管の先を追い掛ければ,その先にある燃料リストリクターを見れたかもしれない事を知って後悔したりしてました.
(やっぱ先にちゃんと調べてから行かないとダメですね・・・)
以上,RA621H再見学でした.
やっぱりこれだけ近くで見れると色々気づけて面白いですね.2度目でしたがわざわざ見に行って良かったです♪