aki@rsさんから「
コイルばねっと」というばね検討ソフトを紹介頂いたので,ちょっと遊んでみようと思います.
こちらのソフトは,兵庫に工場がある「東海バネ工業」という会社が公開しているもので,こちらの会社は完全受注生産方式のバネメーカーだそうです.バネ専業なので航空宇宙を始め,様々な分野向けのバネを製造されているようで,受注生産というスタイルからワンオフものに強そうですね.
では早速,「コイルばねっと」で遊んでみます.まず最初に以下のフォーマット(↓)に入力をするようなので,各項目の意味を確認します.
①横弾性係数
棒を捩じった時のひずみ量(伸びる量)の比率.固い素材であれば値が大きく,柔らかい素材であれば値が小さくなるそうです.本ソフトでは「一般用」と「耐食用」が選べますが,自動車用として一般的に使われているのは「熱間成形ばね材料」と呼ばれるもので,SUP6(シリコン・マンガン鋼),SUP9(マンガン・クロム鋼),SUP11A(マンガン・クロム・ボロン鋼)といった辺りになるとの事.ここではSUP10(クロム・バナジウム鋼)が含まれている「一般用」を選べば良さそうです.
②材料径
バネの直径ですね.
③中心径
「内径 + 材料径」だそうです.内径は図の通りバネの内側の直径なので,ID65=65mmですね.
④自由高さ
所謂ところの「自由長」ですね.
⑤有効巻数
「総巻数 - 座巻数」だそうです.
⑥総巻数
バネの巻かれている数だそうです.厳密に言うと,1回転して同じ位置に戻った時に1巻きとなります.
⑦座巻数
バネの両端の平らになっている部分です.通常は上下合わせて「2巻」ですね.
⑧バネ定数
上記の①~⑦の計算結果がココに示されます.
各項目の意味が分かったところで,お題としてHAL springsの「
12キロ(高反発)」の数値を入力してみます.
143.17 [Nm/mm] ≒ 14.6キロ という結果が得られました.バネレート(バネ定数)がカタログスペックに対して3キロ近く違いますが,材料が正確ではないのでしょうがありませんね.
では,今度は同じくHAL springsの「
12キロ(中反発)」.
138.43 [Nm/mm] ≒ 14.1キロ という結果が得られました.なるほど,高反発に比べて巻き数が多いため反発力が落ち,確かに「中反発」なようです.ただ,そのままだとバネレートが落ちるため,線径を僅かに太くしてそれを補っているという感じでしょうか.面白いですね.
ならば,同じ銘柄の「
14キロ(中反発)」を調べてみましょうか.
166.86 [Nm/mm] ≒ 17キロ となりました.仮に材料が同じであるとして,カタログスペック上は2キロアップのはずなのですが,2.9キロアップという結果になりました.12キロと比べると線径が太くなっており,巻き数が減っています.ここから察するに,レートは基本線径で表現していて,巻き数で帳尻を合わせている感じなのでしょうか?
こうなると「
14キロ(高反発)」も確認してみたいところですが,こちらはクルマに付いていて計測出来ないので,HYPERCOの「
14.3キロ」を引っぱり出してみます.
188.41 [Nm/mm] ≒ 19.2キロ となりました.スペック上のレートが0.3キロ高いとはいえ,HAL springsの中反発と比べると大幅に高いですね.仮に14キロの高反発が+0.5キロ程度だったとしても 17.5キロ.HYPERCOのバネ定数はそれより更に1.7キロ高い訳ですから「
HALの高反発はHYPERCOよりも低反発」という話は信憑性が出てきますね.
ただ,これはあくまでHYPERCOとHALのスプリングが同じ素材だった場合の話ですから,実際はそんな事があるはずないですし,私自身は自分の感覚(HALの高反発はHYPERCOよりも高反発)を信じようと思っています.
さて,色々遊んで理解が進んだので,最後にこの間の「
自由長を短くすると高反発になる」という話を調べてみましょう.仮にHAL springsの「14キロ(中反発)」の5インチ版(127mm)が,線径は同じ・有効巻き数が3.5巻だったとすると,
202.61 [Nm/mm] ≒ 20.6キロ となりました.7インチと比べると+3.6キロも上がってますね.
では仮に,ここから7インチと同等のバネ係数まで落とすには,線径をいくつにすれば良いのか?と求めてみると,
材料径:13.05mmとなりました.すなわち,7インチ版に対して材料径が0.75mm細ければ同等という事になるのですが,これくらいなら十分有り得そうですね.
以上,コイルばねっとで遊んでみた結果でした.
今回遊んでみて,「バネレートを上げる時は線径を測定しろ!」と仰る言葉の意味がよく分かりました.ただ,僅かコンマ数mmで結構大きな違いを生む一方,外見からこのコンマ数mmを識別するのは難しく(ノギス使わないと無理),手っ取り早く反発力を判断するには,やはり巻き数なのかなぁ~と思いました.また,その巻き数も意外と正確に測らないとダメで,単純な1巻,2巻・・・といった単位ではなく,2巻+最後の1/4巻,1/8巻といったところまで測らないと結構な差が生まれる事も理解出来ました.
反発力に関しては,まぁそもそも,開発者自ら「
バネ業界に"反発"なんて用語はない」と仰っている通り,反発力は外から見て分かる代物でもない訳なのですが,設計者側で線径と巻き数でバランスさせて「自由長は違えどバネレートは同じ」になるようにしてくれているのであれば,自由長の違いを正直あまり気にする必要はないのかもなぁ~と思いました.
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セッティング(ダンパー) | 日記
Posted at
2025/01/25 20:06:21