前回,プロから頂いたフィードバック結果を元にフロントブレーキの問題点を整理しました.
この問題に対する対策として,ブレーキパッドの「μ/N特性」に着目し,読み解いてみた訳なのですが,ENDLESS以外にこういったパッドの摩擦係数特性を開示しているメーカーはないのかなぁ~?と調べていたら,IDIも開示していました.
早速見てみようと思ったのですが,その前にIDIがEK9用のパッドを出していないと調べても意味がないので,まずはマッチングリストをチェック.
ちゃんと型がありました.「よし,これなら大丈夫だなぁ~」と思いつつ,もしIDIを選ぶと後々ENDLESSの4POTキャリパーは入れられなくなるなぁ~と思い,第2の選択肢であるSPOON製の4POTキャリパーを再度確認してみると(↓),
「EK9純正同形状」との事で,キャリパーを変更する場合はコチラを選べば問題なさそうです.
これで調べても無駄にならない事が確認出来たので,本腰を入れてみてみます.
まず,IDIのブレーキパッドにはいくつか種類があるようなのですが,サーキットユースだと「ゼロクロス」シリーズというのがあるそうです(↓).
略称が「0X」だそうでイイですね(笑).そのシリーズの中で更に3つのグループに別れているそうで(↓),
CC ・・・ Carbon Composite metal (ロースチール~ハイスチール)
SC ・・・ Semi Composite metal (ミドルスチール~ハイスチール)
NF/NR ・・・ Non asbestos Front / Rear (ノンスチール~ロースチール)
「NF/NR」はロースチール(スチールファイバー等を10~30%しか含んでいない摩材)という事もあって対応温度域が低いため,今回の選択肢からは外れるのですが,FFのリア用アンチロックパッドとして「NR1」という製品があるようなので,これだけは頭の片隅に置いておこうと思います.

(EF8用の型がある事も確認↑)
次に「CC」と「SC」の違いですが,その名の通り積極的にカーボン被膜を形成してローターへの攻撃性を緩和したのが「CC」.カーボン被膜は形成するが「CC」ほどではないのが「SC」という位置づけのようです.カーボン被膜は確かにローター保護の面では良いのですが,熱によって被膜にムラが出来るとジャダーの元になったりするので,個人的にはあまり好きではありません・・・.なので,今回は「SC」の方で見てみたいと思います.

(IDI:
ZeroCrossブレーキパッドより)
今使っているパッドの作動温度域が「100~850℃」なので,これに近しいものだと「SC5」が相当しますね.
まずはこれから見てみましょうか.
中高温域に特化し,初期制動を抑えたコントロール重視のブレーキパッド
高温連続使用にも強く,耐摩耗性に優れるため耐久レース等にも使用可能な摩材
コレの摩擦係数特性はこんな感じ(↓).
作動温度域は「100~850℃」ですが,摩材の有効温度域である「300~900℃」の領域が開示されています.この間の摩擦係数は平均すると「0.48」といった感じでしょうか.温度に依存せず,かなり安定した特性で良いですね.
では次に1つランクを下げて「SC4」を見てみますか.
初期制動を高く設定した,中高温域で高い制動力を発揮するブレーキパッド
ブレーキ容量の足りない車両等に最適な摩材
こちらは「100~800℃」の領域が開示されています.100~300℃の領域は摩擦係数が0.49くらいでかなり効きが良さそうですが,それ以降は右肩下がりで高車速域では効きが弱そうですね.
これらの情報を頭に入れつつ,「SC4」と「SC5」のポイントを比較してみると,
総合制動 ・・・ SC4:8.5 SC5:9.0 (+0.5)
初期制動 ・・・ SC4:9.0 SC5:7.0 (-2.0)
摩耗 ・・・ SC4:3.5 SC5:8.5 (+5.0)
ローター保護 ・・・ SC4:5.0 SC5:5.0 (±0.0)
フェード ・・・ SC4:8.0 SC5:9.0 (+1.0)
コントロール ・・・ SC4:5.5 SC5:8.0 (+2.5)
ペダルタッチ ・・・ SC4:8.5 SC5:9.5 (+1.0)
なるほど,これでこのポイント表の読み取り方がなんとなく分かりました.
総合制動 ・・・ 高温域まで摩擦係数が維持されるとポイントアップ
初期制動 ・・・ 低温域で摩擦係数が高いとポイントアップ
摩耗 ・・・ パッドの摩材が硬いとポイントアップ(?)
ローター保護 ・・・ カーボン被膜量が多いとポイントアップ(?)
フェード ・・・ 高温域まで使えるとポイントアップ
コントロール ・・・ 摩擦係数の変化量が少ないとポイントアップ
ペダルタッチ ・・・ パッドの摩材が硬いとポイントアップ(?)
これを頭に入れつつ,今度は「SC6」を見てみます.
初期制動を高く設定した高温高制動型のブレーキパッド
高温時にも耐熱安定性が高く,過酷な状況下においても高い制動力を引き出す摩材
総合制動 ・・・ SC4:9.5 (+0.5)
初期制動 ・・・ SC4:9.0 (+2.0)
摩耗 ・・・ SC4:5.5 (-3.0)
ローター保護 ・・・ SC4:5.0 (±0.0)
フェード ・・・ SC4:9.0 (±0.0)
コントロール ・・・ SC4:7.5 (+0.5)
ペダルタッチ ・・・ SC4:9.5 (±0.0) ※( )内は「SC5」比
低温域の摩擦係数が高いので,「SC5」よりも「初期制動」のポイントが高いですね.高温域では摩擦係数が多少下がってはいますが,それでも「SC5」よりは高い値を示しているので「総合制動」で+0.5ポイントなのでしょう.ただ,その分だけ耐久性は低く,3ポイントも落ちると恐らく見て分かるレベルじゃないですかね? 「摩耗」だけがネックですが,それ以外は望んでいるパッド像にかなり近そうです.
「ふむ,ではIDIで選ぶ場合はSC6かなぁ~」と思っていたら,2024年8月に新しく「SC6.5」「SC7」「SC8」というのが出来たそうです(↓).
こちらは摩擦係数の特性が開示されていませんが,先述のポイントを見ると以下の通り.
総合制動 ・・・ SC6.5:9.5 SC7:10.0 SC8:10.0
初期制動 ・・・ SC6.5:8.0 SC7:10.0 SC8: 9.5
摩耗 ・・・ SC6.5:5.5 SC7: 5.5 SC8: 5.5
ローター保護 ・・・ SC6.5:5.0 SC7: 5.0 SC8: 5.0
フェード ・・・ SC6.5:9.0 SC7:10.0 SC8:10.0
コントロール ・・・ SC6.5:8.0 SC7: 7.5 SC8: 8.0
ペダルタッチ ・・・ SC6.5:9.5 SC7: 9.5 SC8: 9.5
【SC6.5】
SC6より更に高温高制動型のブレーキパッド
初期制動はマイルドで,高温時の効きの落ち込みを極力減らし,高温安定性を向上させた摩材
対応温度域:100~850℃
【SC7】
初期制動の効きが高く,高温高制動型のブレーキパッド
重量車向けで,高温高負荷時の高い制動力が特徴の摩材
対応温度域:50~850℃
【SC8】
SC7と比較して,初期制動を抑えた高温高制動型のブレーキパッド
重量車向けで制動力は高いのですが,初期制動を抑えたコントロール性の高い摩材
対応温度域:150~850℃
ポイントと概要のコメントから察するに,「SC6.5」は「SC6」の低温域の摩擦係数を少し下げ,逆に高温域の摩擦係数は上げたように読み取れるので,こんなイメージですかね?(↓)
「コントロール」のポイントも上がっているので,多分こんな感じの特性な気がするのですが,「SC6」より扱い易そうですね.対応温度域も広いし,そういう面で良さそうです.なお,「SC7」「SC8」に関してはENDLESSで言うところの「CC60」相当だと思うので,ここまでは要らない気がします.
以上,IDIのブレーキパッド特性を読み解いてみた結果でした.