
サーキットでタイムアタックにチャレンジしていると,やっぱり自分の実力がどの辺りなのか確認したくなるものです.一番良いのは自分と全く同じ仕様のクルマと競う事ですが,CR-Xという30年も前のクルマとなると,そんな機会は早々ありません.
そうなると,CR-Xに近い条件(以下のようなもの)を満たすクルマが他にいないか?という方向に自然と目が行きます.
・FF
・NA
・排気量1.6L以下
・全長4m以下
サーキット走行を本格的に始めた当時,この条件を満たすクルマは「スイフトスポーツ」でした(EG6やEK9は全長が4mを超える).ただ,VTECがついていない普通のNAエンジンなので,ZC32SのM16Aエンジンでも136PSと,EF8のB16A(160PS)よりは非力.「これじゃタイムは大した事ないだろ~」と思っていたら,とんでもタイムを出すZC32S乗りがいました.それが
(大)@みやう軍団さんです.
ブログに書かれるタイムを見る度に,そこには信じられない数字が並んでいて,「凄い!」の一言で尽きてしまいます.その後,TC1000のファミリー走行でご本人にお会いする機会があり,筑千職人GPを何度も制している様を目の当たりにして,「自分も何とかあのレベルにまで到達したいなぁ~」と思い,TC1000で走り込みを始めるきっかけの一つとなりました.
さて,外出自粛の要請が出る中,とある用事でTC1000に向かうと,その(大)@みやう軍団さんから突然「GPSロガーを貸してくんない?」と頼まれました.願ってもない機会なので用事そっちのけで(笑),ZC32Sにロガーを付けさせて頂き,データを取らせてもらいました.合わせて計測データの分析もご希望のようだったので,僭越ながら今回やれる範囲で分析させて頂きたいと思います.
まず1本目(B15枠).
GPSデータなので多少の誤差があるかもしれませんが,10周目にセッションベストの41.5秒をマークされています.ただ,LAP+(解析ソフト)オリジナルのセクター設定で見ると,SCT.1とSCT.2が「白(このセッションで最速ではない)」,SCT.3が「濃い赤(このセッションで最速)」,SCT.4が「やや薄い赤(このセッションで2番目に最速)」なので,まだ伸び代がありそうです.
・・・という事で細かく見ていきます.まずはLAP+オリジナルのセクター分けの確認です.
SCT.1 ・・・ スタートライン~1ヘアの手前
SCT.2 ・・・ 1ヘア
SCT.3 ・・・ インフィールド
SCT.4 ・・・ バックストレッチ明けの高速左~ゴールライン
次に,車速の波形です(青:ベストラップ 緑:セクターベストを繋いだもの).
SCT.1(スタートライン~1ヘアの手前)
ベストラップ(青)は127.4km/hの最高速をマークしています(1つ目の赤丸).それに対し,セクターベスト(緑)は,ほんの少しだけ進入を抑えた時のようで1km/h低い126.4km/hでした.そして,この「ほんの少し」の差が大きいようで,ボトムスピードはセクターベスト(緑)の方が1.6km/h高く,アクセルも早く踏めているようです(2つ目の赤丸).この「アクセルを早く踏む」の効果はやはり絶大で,1ヘアの進入までに0.2秒稼ぎだしています(2コーナーが速い).
この「ほんの少し」の要因は何なのか? 今度はライン取りから分析してみます.
色がコロコロ変わって申し訳ありませんが,赤がベストラップ,青がセクターベストです.上段が1コーナー進入の位置取り,下段が1コーナー通過後の位置取り(どれくらい外に膨らんだか?)を示しているのですが,上段を見るとセクターベスト(青)の方がコース幅いっぱいまで外側から進入している事が分かります.そして,外から進入すれば,その分ライン取りが楽になるので,1コーナーの出口では外に膨らまず,セクターベスト(青)の方が小さくコーナリング出来ている様子が下段から分かります.
当たり前と言えば当たり前の話なのですが,やはりコース幅を目一杯使って,如何にスピードを落とし過ぎないか?(ボトムを上げられるか?)が軽量級のFFには重要なようです.
ちなみに,どんなに早くアクセルを踏めても,2コーナーでタイヤのグリップを使い切って失速するのでは意味がないのですが,(大)さんのZC32Sは苦も無く加速していきますね・・・.確か1本目はRE-12Dを履いていたと記憶していますが,さすがのグリップ力といったところでしょうか.あと,2コーナーのコーナリング中,104~106km/h付近で僅かに車速が伸びが鈍る瞬間があるのですが,もしやコーナリング中にシフトアップしているのでしょうか? このZC32Sのギヤ比は存じ上げていないのですが,横Gが1Gかかっている状態でシフトアップするのは,なかなか勇気が要りそうです・・・.
SCT.2(1ヘア)
ベストラップ(青)とセクターベスト(緑)でほとんど差がないのですが,またも「ほんの僅か」だけ,セクターベストの方が1ヘア進入のブレーキングで抑えているようです(3つ目の赤丸).そして,これまたグラフに表れないくらい,ほんの僅かな差なのですが,アクセルONのタイミングがセクターベスト(緑)の方が早いようです.そして,その「ほんの僅か」な差がインフィールド進入までに0.1秒を稼ぎ出しています.また,ライン取りを確認してみましょう.
赤がベストラップ,青がセクターベストです.セクターベスト(青)の方がイン側に寄っている(縁石に乗っている?)のが分かると思います.チョット進入を抑えた結果,チョット小回りが利いて,チョット早くアクセルが踏める,という構図です.でもこの「チョット」で0.1秒の差が生まれるのですから,タイムアタックのドライビングって,やはりシビアですね・・・.
SCT.3(インフィールド)
ここはベストラップ=セクターベストなので,ベストラップ時のドライビングのどこが優れていたのか?を見てみます.ちなみにベストラップの時は他のラップに比べて0.2秒速いです.
赤がセクター最速(ベストラップ),青が2番目に速いラップです.ライン取りはほぼ一緒なので,ベストラップ時はタイヤのグリップを上手く引き出してアンダーを上手く殺しているようです.細かく見てみると,ベストラップ時(赤)の方がブレーキング開始のタイミングが奥で,かつブレーキリリースのタイミングも早く,それでいて小さく回れている事から,強く・短く止めて,急峻な荷重移動により一瞬でタイヤを潰し,それによって引き出したグリップを使って小回りしているようです.2番目のラップも決して失敗と言えるようなラップではないのですが,この絶妙なブレーキングコントロールが0.2秒を生み出しているようです.見習いたいですね.
SCT.4(バックストレッチ明けの高速左~ゴールライン)
ベストラップ時は,ここのセクターは最速ではありませんでしたが,その差は0.04秒.計測誤差レベルだと思います.
一応,ベストラップ(赤)とセクターベスト(青)のライン取りを比較してみると,セクターベスト時(青)の方が最終コーナーの縁石をカットするようなライン取りが出来ているので,よりクルマの向きを変えられた,という事なのかもしれません.
これらの差により,セクターベストを繋いだタラレバベストでは,41.183 でした.最高速が120km/h台半ばのパワーで41秒前半なのですから,やっぱり(大)さんは凄いです!
次に2本目(D枠).
このセッションではタイヤをA052に変えられたようですが,タイムはほぼ同等の41.5秒でした(1本目の方が1/100秒の世界で速い程度).路面温度が上昇したにも関わらず,ほぼ同等のタイムが出ているという事は実質的にはこちらの方が速かったのかな?とも思えます.
ちなみに,セクター毎に細かく比較をしてみると,唯一SCT.2(1ヘア)だけ2本目の方が速かったのですが,
これまた「ほんの少し」だけ,立ち上がりの加速で上手くスピードを乗せられたという事のようです(青線の方).ブレーキリリースのタイミングと量,ステアリングの戻しとアクセルを開く加減,それらの妙なので,恐らく乗っている本人でなければ分からない世界の話だと思います.
以上,分析結果でした.
このあと,3本目にもう一つイベントがあるのですが,大分長くなってしまったので,ここで一旦切ります.
ご本人曰く「データを取られるので色々やった」と仰っていましたが,本当に微妙な違いで様々な工夫をされているのがデータから見て取れました.そういった微妙な差を感じ取る感覚と,その差を作り出せるコントロール能力,(大)@みやう軍団さんの高い技量を知る事が出来た貴重なデータでした.
(大)@みやう軍団さん,大変勉強になりました.有難う御座います!
後編に続く.