先月のTC1000で,
リアにヘルパースプリングを再投入し,狙い通りヘアピンでのスピン挙動(リバウンドストローク不足)の対策を出来た訳なのですが,その延長線上でフロントの減衰力を上げてみたところ,低反発スプリングの特性と相まって内輪が浮く(リバウンドストロークが不足している)症状が出ました.
「リアの次はフロントかい・・・」と溜め息が出ましたが,リアの場合と違ってピーキーな動きではないので,ドライビングでアジャストすればまだ何とかなる範疇ではあります.
ただ,片輪が浮くとトラクションの面でマイナスなのは明らかですし,ここのところコーナーの立ち上がりが遅かったり,トップスピードの伸びがイマイチだったりするのもコレが原因なんじゃないか?とも思い始めていて,対策方法が何かないかな~?と考え始めました.
一番手っ取り早いのは,リアと同じくヘルパースプリングを投入する方法なのですが(↓),
リアと違ってフロントはコーナリングのきっかけを作る(リアよりも大きな力が掛かる)部分ですし,何かしらの弊害が出そうだなぁ~と思い調べてみると,ブレーキング時などの高荷重領域(ヘルパースプリングが完全に潰れる領域)では問題ないが,アクセルOFFだけで抜けていくような低荷重領域(ヘルパースプリングが完全に潰れ切らない領域)では,フワフワとした感触となってフィーリングが相当悪いみたいです.
「やっぱりそうだよなぁ~.フロントにヘルパースプリングは有り得ないよなぁ~」と思っていたら,「
ヘルパースプリングを20キロのハイレート品にすれば良い」なんて話を目にしました.
( ・◇・) ハ???
「ナニヲイッテルンダ??」としばし思考がフリーズしたのですが,先日の
ジムカーナ練習会でも見かけたお店だったので,いい加減な話ではなさそう.中身を読む限り,ちゃんとトラクションを得つつフィーリングの悪化も抑えているようなのですが,これらが両立出来る理由として述べられている部分(↓)が今一つ理解出来ない・・・.
・14キロのメインスプリングに,20キロのヘルパースプリングを組合せた
・この組合せだとヘルパースプリングが縮まる前に,先にメインスプリングが縮まるのでは?と思っていた
・だが,計算してみたところ,ヘルパースプリングは1Gで線間密着する事に気づいた
・しかも,1Gギリギリのところで線間密着するので,1G以下の領域で素早く伸びてくれる
・1G以下→1Gに戻ったら密着するので,縮み側ではヘルパースプリングは影響しない
・故に,フィーリング的にはメインスプリングのみだった時と変わらない
ん~.ツインスプリングなんだから2本のスプリングの合成レートでしょ? 確かに両方とも固いスプリングだから縮み代は少ないかもしれないけど,やっぱり柔らかいスプリング(今回だとメインスプリング)の方から先に縮まるのでは・・・?

(HYPERCO:
ヘルパースプリング/テンダースプリング の必要性①より)
(-ω-;) ウーン
と唸っていたのですが,唸っているだけでは答えは出ないので更に調べてみると,
別のところでこんな文言を見つけました(↓).
・ハイレートアシストスプリングなら,1G以上ではメインスプリングレートに影響を与えない
・アシストスプリングは絶妙の設定となっており,加重がかかってる時の不安定さは一切ない
・スプリングレートという考え方ではなく,1輪加重の何キロでアシストスプリングが密着するかで設計している
・この設計が絶妙のバネレート特性を実現している
・自動車向けのスプリングメーカーでは対応出来ない設計理論/構造となっている
・人工衛星向けのスプリングメーカーと何ヶ月も協議し,シュミレーションを重ねて完成した
・ツインスプリングの合成レートだけで判断出来ない
・単純に繋げるだけでは固有振動によってお互いの力を打ち消し合い,望んだ効果は得られない
ん~,よく分からないけど,特殊な材料でも使ってるってコトなのかなぁ~? だったら真似出来ないし,専門家にやってもらわないと数値が決められないし,スルーするか・・・と閉じようとした時に,ツインスプリングの絵が再び目に入って(↓),

(HYPERCO:
ヘルパースプリング/テンダースプリング の必要性①より)
Σ(゚Д゚) アッ!
もしかして,このハイレートヘルパースプリングのポイントはヘルパースプリングの自由長にあるのかも?
ならば,試算してみるか~という事で,
古いデータを引っぱり出して,私のEF8のフロント軸重は644kgだとすると,片輪では,
644 / 2 = 322 [kg]
フロントのレバー比を
1.5と仮定すると,
322 × 1.5 = 483 [kg]
例えば,メインスプリングが14キロ,ヘルパースプリングが0.2キロ(自由長:101mm,密着高:11mm),両スプリング間に挟まるスペーサーの厚みが9mmだとすると,
メイン ・・・ 483 / 14 ≒ 35 [mm]
ヘルパー ・・・ 483 / 0.2 = 2415 [mm] ⇒ 101mmを超えているので線間密着し,11 [mm]
つまり,ダンパーとしての縮み代は以下となります.
35 + 9 + 11 = 55mm
これは1G状態では55mm車高が下がり,ヘルパースプリングは完全に潰れている(=スペーサー状態となっている)事を示している訳で,ここからクルマが浮いて1G→0Gとなった場合,メインスプリングの縮み代分(35mm)にヘルパースプリングの自由長分(101mm)が加わるので,
35 + 101 =136mm
という,とんでもなく長いリバウンドストロークになります.ただ実際のダンパーはこんなに長いストロークは確保出来ないので,ヘルパースプリングにプリロードが掛けて,強制的に長さを短くして入れる事になります.
という事は,現実のダンパーに入る長さまでヘルパースプリングの長さを短くし,ちょうど1Gの荷重で線径密着が起こるようなレートを設定すれば,1G状態ではスペーサー化しているが,1G→0Gとなった時には反力が発生して素早く伸びる,リバウンドストロークとステアリングレスポンスを両立したヘルパースプリングを生み出せる事になります.
試しに計算してみましょうか.今使っているAragostaの「
TYPE-S」のフロントは以下のような設計となっています(↓).
メインスプリングの自由長を5インチ(127mm)とすると以下となり,
176 - 127 = 49 [mm]
入れられる最長のヘルパースプリングは49mmである事が分かります.仮にこのヘルパースプリングの密着高が11mmだとして,これを1G状態でぴったり潰すためには,
483 / (49 - 11)= 12.7 [kgf/mm]
というハイレートなヘルパースプリングが必要になる事が分かります.なお,バネレートが12キロともなると,スプリングの線径を太くする必要があり,その厚みで密着高が倍になると仮定すれば,
483 / (49 - 22)= 17.8 [kgf/mm]
となり,なるほど「メインスプリングよりもハイレートなヘルパースプリング」という話はこういう事だったのですね.
そういえば,近年,HAL springsに
70mmのショートスプリングがラインナップされていたのですが(↓),
密着荷重が書いてありますし,これはそういう用途用のスプリングなんですかね?
(密着荷重:500kgf,許容ストローク:25mmの20キロがラインナップにある・・・)
ただ,密着前提で使おうとした場合は,スプリングは角断面形状(↓)じゃないとマズイ気もしますけど,

(HYPERCO:
HYPERCO TENDER SPRINGより)
HALのショートスプリングはそうなってないっぽいし,違うのかなぁ~? 先述の「
ESAアシストスプリング」の方を見ると「拘りの丸材」なんて書かれているので,丸断面でも問題ないのかなぁ~?
以上,メインスプリングよりもハイレートなヘルパースプリングはアリなのか?というお話でした.