
アップデート後にジムカーナをやったりして後回しになりましたが,先日行ったインジェクタ洗浄の「ReSpec」の性能レポートの熟読をしてみたいと思います.
「Respec」のレポートは,以前
EK9乗りのSさんから提供頂いて熟読した事があるので,どんな情報が得られるのか?は理解しているのですが,今回は自分が使っているインジェクタのレポートという事で数値の方も追い掛けてみたいと思います.
まず,一般論としてはのインジェクタ洗浄の効果ですが,インジェクタを使い続けた事で悪化した以下の性能が蘇るという話です.
①噴射量低下によるパワーダウン/トルクダウン
②スプレーパターン(噴霧形状)悪化による排ガスの悪化
③気筒間の噴射量バラツキの増大
④始動性の悪化
⑤燃費の悪化やアイドリングの不安定
私はフルコンを使っているので,上記の①・④・⑤の悪化分は自分でリセッティングして補正してしまっているため,今回体感出来る効果は②・③かな?と思っています.
さて,効果が分かったところでその洗浄ですが,インジェクタ本体が超音波で洗浄される事に加えて,以下の部品が交換されるそうです(↓).
そして,
洗浄後にパッと乗った時の印象としては,以下のような感じ(↓).
・アイドリング時の振動が微妙に変わった
⇒ 「振動が減った」という訳ではなく,振動の周波数が変わったような感じ
・ペダルを踏んでからトルクが立ち上がる際のタイムラグが短くなり,アクセルのツキが良くなった
⇒ 全体的にリッチ化されたせい?
このように,違いが「ある」事は間違いありませんが,変化量としてはそれほど大きくなく,何日か乗っていると分からなくなるレベルだと思います.
では,レポートを細かく読んでみます.まず性能試験は2400rpmで行われるそうで,Duty=100%の時は,
2400 [rpm] = 2400 [rev/min] = 2400/60 [rev/sec] = 2400 /(60×1000) [rev/ms]
⇒ 60 × 1000 / 2400 [ms/rev] = 25 [ms/rev]
という事で,インジェクタに「25ms」通電した時のデータだそうです(Duty=50%の時だと,半分なので「12.5ms」).
次に,リークテスト(漏れ検査)の結果としては,インジェクタの背後に3.5barの圧力(≒燃圧)を掛けて確認し,洗浄前の状態でも4本とも「OK(漏れなし)」でした.つまり「機械的に壊れていなかった」という事ですね.現役で使っているインジェクタなので,当たり前と言えば当たり前ですが,経年劣化で微妙な漏れが生じる可能性はあるので,証明して貰えると安心です.
なお,燃圧=燃料ポンプの吐出圧ですので,EF世代だと「2.55kg/cm2(2.5bar)」.
それよりも1bar高い状態で漏れなければ,通常使用では漏れる事はまず有り得ませんね.
続けて,インジェクタの「抵抗値」.インジェクタは内部にソレノイドコイルを持っており,このソレノイドに通電する事でニードルを上下動させて噴射しています(↓),
「抵抗値」と言っているのは,このソレノイドの抵抗値の事で,一般的に抵抗値が小さければ電流の立ち上がりが早くなる(レスポンス良くなる)ので,「無効噴射時間」が縮まる傾向になるはずです.
「無効噴射時間」というのは,インジェクタ内のソレノイドは電気が流れた瞬間に全開になって,すぐに噴射を開始する訳ではなく,インジェクタ先端のニードルが開くまでに僅かなタイムラグが生じます(↓).

(ジーイングテクノエンジニアリング:
Injector Study Roomより)
このタイムラグが生じている区間は「想定通りに噴射されない」という事なので,この区間を無効にする=「無効噴射時間」と考えて噴射量を補正します(無効噴射時間の分だけ通電時間を伸ばす).

(ジーイングテクノエンジニアリング:
Injector Study Roomより)
この「無効噴射時間」が正しく設定されないと,通電時間の絶対値が短い領域(≒アイドリング領域)で空燃比が合いません.
話を戻して,その「無効噴射時間」に繋がる「抵抗値」の計測結果ですが,25℃での値は以下でした.
#1気筒 ・・・ 11.86 [Ω]
#2気筒 ・・・ 11.93 [Ω]
#3気筒 ・・・ 11.91 [Ω]
#4気筒 ・・・ 11.89 [Ω]
中心点を「11.895Ω」と見なすと,±0.035Ω(2.9%)といった感じです.約3%のバラつきと言われると,量産品としてはそんなもんかなーという気がしますが,参考までにSさんのレポートを見てみると,
#1気筒 ・・・ 11.86 [Ω]
#2気筒 ・・・ 11.81 [Ω]
#3気筒 ・・・ 11.84 [Ω]
#4気筒 ・・・ 11.89 [Ω]
中心点は「11.850Ω」,±0.040Ω(3.3%)だったので,それと比べると4本の揃い具合としては良かったようですね.
そうそう,揃い具合と言えば,スプレーパターンの結果が洗浄前でも#4気筒だけ「◎」というのもありました.
スプレーパターンというのは,以下の4段階評価だそうで(↓),
◎:きわめて良好な理想的な噴霧
○:使用上問題の無い良好な噴霧
△:排気状態への影響が懸念される噴霧
×:性能への影響が懸念される噴霧
#1~#3気筒は上記の「○」だったので,年式相応に劣化していたのだと思いますが,#4気筒だけ「◎」なのが意外でした.中古品を入手して使っていたので,正直どんな素性のインジェクタなのか分からなかったのですが,この結果からすると,もしかしたら#4気筒だけ一度交換されているのかもしれませんね.
話を戻して「抵抗値」の件ですが,Sさんのインジェクタと比べると全体的に私の方が抵抗値が高く,「無効噴射時間」も大きそうです.IRSではレポートに「無効噴射の参考値」を付けてくれていて,燃圧:2.5bar,電圧:14Vの条件下でこのようになっていました(↓).
無効噴射(参考値):1.08±0.15 [ms]
現在LINK ECUで使っている「無効噴射時間」は,B16B用と思われるプリセット値を使っていて(↓),
14Vで「0.743ms」ですので,これと比べるとかなり値が大きいです.ちなみにSさんの「無効噴射時間」は以下となっており(↓),
無効噴射(参考値):0.97±0.12 [ms]
やはりSさんのインジェクタの方が,抵抗値が低い分だけ応答性が良さそうですが,やはりLINKの値とは違いそうです.
そうなると,IRSの「無効噴射時間」の求め方が気になるので調べてみたところ,燃圧:2.5bar下において,Duty=100%(オープンフロー)と50%(ハーフフロー)の2点を計測し,この2点から外挿する事で「無効噴射時間」を求めているそうです(↓).
なるほど,なるほど~という事で洗浄後の値を用いて計算してみたところ,
#1気筒 ・・・ 252.4 [cc/min](100%) → 120.2 [cc/min](50%)
#2気筒 ・・・ 253.6 [cc/min](100%) → 121.9 [cc/min](50%)
#3気筒 ・・・ 250.7 [cc/min](100%) → 119.6 [cc/min](50%)
#4気筒 ・・・ 254.8 [cc/min](100%) → 121.3 [cc/min](50%)
「無効噴射時間」は,横軸を噴射量にした時の切片に当たるので,
#1気筒 ・・・ 4.538 [%]
#2気筒 ・・・ 3.720 [%]
#3気筒 ・・・ 4.385 [%]
#4気筒 ・・・ 4.569 [%]
Duty=100%は通電時間:25msに相当するので,
#1気筒 ・・・ 4.538 [%] × 0.25 [ms/%] = 1.134 [ms]
#2気筒 ・・・ 3.720 [%] × 0.25 [ms/%] = 0.930 [ms]
#3気筒 ・・・ 4.385 [%] × 0.25 [ms/%] = 1.096 [ms]
#4気筒 ・・・ 4.569 [%] × 0.25 [ms/%] = 1.142 [ms]
となりました.IRSの参考値である「1.08±0.15」を中心点と見なすと,#1・#3・#4気筒はそこそこ近いですが,#2気筒は差が大きいですね.「無効噴射時間」として捉えると#2気筒が外れ(=バラつきの要因)となるので,これを近い特性のものに替えられるとアイドリングのバラつきが更に小さくなるんだと思いますが,B16Bのレベリングインジェクタなんてないので仕方ありませんね.
ちなみに,先述の「抵抗値」との相関で見てみると
「抵抗値が大きい程,無効噴射時間が小さくなる」という傾向になり,アレ? 理屈とは逆なような・・・とも思いましたが,ここではこれ以上踏み込まないでおきます.
なお,今回得られた「無効噴射時間」を使って
LINK ECUをリセッティングした結果,1000rpm以下の低回転域でこれまでどうしても合わなかった(MAPを滑らかに作れなかった)数値がキレイに揃うようになりました.やっぱり数字が揃わないのは,揃わないなりの理由があるんだなーと1つ勉強になりました.
さて,「無効噴射時間」で見た場合は,外れ品に思えた#2気筒のインジェクタですが,最大噴射量の領域で見ると,そうでもありません.Duty=100%,燃圧:2.5barの時の数値を見ると,
#1気筒 ・・・ 252.4 [cc/min]
#2気筒 ・・・ 253.8 [cc/min]
#3気筒 ・・・ 250.7 [cc/min]
#4気筒 ・・・ 254.8 [cc/min]
となり,一番噴けてないのは#3気筒のインジェクタでした.この傾向は燃圧を3.0barにした時も同様で,
#1気筒 ・・・ 278.7 [cc/min]
#2気筒 ・・・ 279.0 [cc/min]
#3気筒 ・・・ 276.2 [cc/min]
#4気筒 ・・・ 281.0 [cc/min]
インジェクタの最大性能の領域で考えると,#3気筒のインジェクタがやはりバラつき要因となるようです.ただ,私のB16Aのセッティングからすると,インジェクタの最大性能までは使わないので,Duty=50%時のバラつきを低減する方が効果が有りそうに思えたのですが,
#1気筒 ・・・ 120.2 [cc/min]
#2気筒 ・・・ 121.9 [cc/min]
#3気筒 ・・・ 119.6 [cc/min]
#4気筒 ・・・ 121.3 [cc/min]
ここで見ても,同じく#3気筒のインジェクタが低い結果となりました(中心点:120.75cc/min,±1.15cc/minで1.2%).
参考までにSさんのインジェクタを見ると,
#1気筒 ・・・ 123.7 [cc/min]
#2気筒 ・・・ 122.3 [cc/min]
#3気筒 ・・・ 124.4 [cc/min]
#4気筒 ・・・ 121.8 [cc/min]
中心点:123.05cc/min,±1.25cc/min(1.0%)なので,噴射量の絶対値で見ると結構違いますが,4本のバラつき具合として見ると大差なく,量産品としてはこんなもんなのかもしれませんね.
以上,ReSpec 性能レポートの熟読でした.