
パーキンソン病について
一昔前は「パーキンソン氏病」と呼ばれていました。
その名の通りパーキンソン(ジェームズ・パーキンソン)さんが見つけた病気です。
●高齢化に伴ってパーキンソン病患者は増加し60歳以上の100人に1人がパーキンソン病である。
遺伝性のパーキンソン病は全体の5~10%であり、大多数は遺伝的要因と環境的要因により発病している。環境的要因の最大のリスクは加齢である。
●パーキンソン病は、中脳にある黒質の「ドパミンニューロン」が減少し、運動時に「過剰なブレーキ」がかかってしまう状態。
●パーキンソン病の4大特徴
「振戦」(しんせん)無意識でリズミカルなふるえ。体を意識的に動かすときは、ふるえない。
「動作緩慢」(かんまん)ゆっくりしか動けない。動きが小さい。
「筋強硬」(きょうこう)筋肉がスムーズに動かせない。歯車みたいな動きになる。
「姿勢保持障害」体を支えることが出来ない。
●『パーキンソン症状=運動緩慢+静止時振戦or筋強硬』
振戦があっても動作緩慢がなければパーキンソン症状があるとは言えない。
パーキンソン病の診断はMDS国際診断基準(2015年)に沿って基本的に問診・身体診察で行う。
画像検査はあくまで補助であるが「頭部MRI」「DAT(Dopamine transporter)スキャン」「MIBG心筋シンチ(心臓交感神経の変性により心臓のmeta-iodobenzylguanidine集積が低下している)」が有用。
●運動症状だけでなく、非運動症状にも着目する。
自律神経障害(便秘、起立性低血圧、頻尿)
精神障害(抑うつ、不安、幻覚、妄想)
認知機能障害
睡眠障害(不眠、REM睡眠行動異常症、日中過眠)、感覚障害(嗅覚障害、痛み)
●「レビー小体型認知症」と「認知症を伴うパーキンソン病」
本質的に同一の疾患であり「レビー小体病」という包括的な捉え方をする。
●パーキンソン病の治療は患者のQOL改善に主眼を置く。
抗パーキンソン病薬は数多くあるが、ドパミン補充療法が基本。
「レボドパ製剤」「ドパミンアゴニスト」「MAO-B阻害薬」が主流となっている。
個々の患者の臨床症状、社会的背景、要望にあわせて使い分ける。
パーキンソン病の早期と進行期では治療アルゴリズムが異なり、進行期では運動合併症の他、非運動合併症なども考慮した薬剤選択が必要である。
●運動合併症
「Wearing off」=薬の効果持続時間が短くなり、次の服薬時間まで薬効が持続せずに切れてしまった状態。
「ジスキネジア」=薬が効きすぎており、体が勝手に動く状態
●非運動合併症
認知症、精神症状、衝動制御障害(自分や他人に危害を加える衝動を抑えられない)
●薬物療法
(1)L-ドパ製剤(レボドパ)
脳内に入り脱炭酸酵素によって「ドパミン」に変化し作用を示す。
末梢の脱炭酸酵素によって脳内への移行率が低下するため、DCI(末梢性ドパ脱炭酸酵素阻害剤)を併用すると移行率を高める(1%→5%)だけでなく、単剤で問題になる消化器系や循環器系の副作用を軽減する。
振戦、動作緩慢、筋固縮、姿勢保持障害の4大徴候すべてに効果があり、有効率も高い(60~80%)。
半減期(薬が分解されて半分になるまでの時間)が1時間と短い。
病気の進行に伴い1日のうちに症状が何度も変動する日内変動がみられるようになり、運動合併症(Wearing off、ジスキネジア)や精神症状が発現する。
L-ドパの服用を開始して5年以上で、過半数の患者に日内変動が出現する。
吸収は食事の影響を受けやすく、個人差も大きい。
L-ドパ単剤(商品名:ドパストン、ドパゾール、ドパール)
DCI合剤(メネシット、ネオドパストン、マドパー、イーシー・ドパール、ネオドパゾール)
(2)ドパミン受容体アゴニスト(作用薬)
半減期が長く、効果の持続時間も長い。
L-ドパと併用してL-ドパの量を減らしたり、効果を補うことができる。
幻覚や妄想の副作用があり高齢者や認知症には慎重に投与。
麦角アルカロイド系:消化器症状(嘔気など)や心・血管系の副作用(心臓弁膜症など)に注意。
(パーロデル、ペルマックス、カバサール)
非麦角アルカロイド系:心・血管系の副作用は少ないが、突発性睡眠の頻度が高い。
(ドミン、ビ・シフロール、レキップ、レキップCR、ミラペックスLA、ニュープロパッチ、アポカイン)
(3)MAO-B阻害薬
ドパミンの代謝酵素であるMAO-Bを阻害して、神経間のドパミン濃度を上昇させる。
L-ドパとの併用でL-ドパの効果時間の延長を行いWearing offの改善が期待できるが、幻覚、ジスキネジア、嘔吐、不眠、起立性低血圧などの副作用リスクがある。
抗うつ薬との併用でセロトニン症候群(不安感、異常な発汗、下痢、発熱など)が報告されているので、抗うつ薬との併用は禁忌。
(エフピー、アジレクト、エクフィナ)
(4)COMT阻害薬
末梢のL-ドパの代謝酵素であるCOMTを阻害し、L-ドパの脳内移行性を高める。
薬効のon時間の延長やoff時間の短縮効果があるが、半減期が短いのでL-ドパ・DCI合剤と同時に服用する。
ジスキネジアや嘔気の副作用があり、暗い黄色~赤みがかった茶色い尿がでる。
(コムタン、オンジェンティス、スタレボ配合錠=コムタンとL-ドパ、DCIであるカルビドパの3剤配合)
(5)レボドパ賦活薬
MAO-B阻害作用とチロシン水酸化酵素活性促進が確認されている。
(トレリーフ)
(6)アデノシンA2A受容体拮抗薬
off時間短縮効果。ジスキネジアの悪化がある。
(ノウリアスト)
(7)ドパミン遊離促進薬
ドパミン放出促進とドパミンの再取り込み抑制により、神経間のドパミン濃度を維持する。
振戦、筋強硬、動作緩慢に有効。
ジスキネジアなどの運動合併症を軽減(但し、軽減効果の持続は8ヵ月程度)。
中枢性の副作用は錯乱、幻覚、不眠、うつ症状、めまい、ふらつき感など、末梢性の副作用は口渇、かすみ目、便秘など。
(シンメトレル)
(8)抗コリン薬
アセチルコリンの働きを抑えてドパミン・アセチルコリンの相対的バランスを取り戻す。
軽症に有効。口渇、便秘、尿閉、認知機能への悪影響がある。
(アキネトン、アーテン、トリモール、パーキン)
●脳神経が変性する疾患なのでドパミンを補充する薬物療法には限界があり、病状の進行とともに、その効果が期待できなくなる。そうなっても内服を続けることが多いが、意味がある行為なのかは賛否ある。
自分の体を支えることが難しくなり、いずれ寝たきりとなる。
脳神経の抑制がかかっているので、1日中寝て過ごすようになる。
栄養状態が悪化し、褥瘡(じょくそう:床ずれなどの皮膚の潰瘍)が出来やすく、治りにくい。
食物を飲み込む力も弱くなり、誤嚥性(ごえんせい)肺炎などのリスクが高まる。
食事が飲み込めなくなったら、胃瘻(いろう:胃に栄養の液体を流し込む管をつなげるために、おなかに穴をあける)を造設する。