
今回の上原氏追悼企画第11弾は上原氏最大の名作とも評される回を紹介します。上原氏はウルトラシリーズ(ウルトラQを除く)で46作品の脚本を担当し、帰ってきたウルトラマンでは19作品を担当するメイン脚本家として第2期ウルトラシリーズの礎を築きました。その
上原氏を振り返る際に必ず話題に上がるのが帰ってきたウルトラマンの第33話「怪獣使いと少年」です。沖縄出身で幼少時代に太平洋戦争を経験した上原氏の思いが凝縮された脚本となっていて、差別、出自不明の人間に対する恐怖心、そして集団心理によって善悪の判断ができなくなった人間たちの恐ろしさが描かれ、さらには当時問題化していた工業汚染をも取り込んだエピソードです。特に差別によるいじめが生々しく描かれ、今では考えられない描写もあり、放送当時でさえも強烈なインパクトを残しました。その過激さゆえに上原氏はTBSの関係者から痛烈な批判を受け、この33話は放送が危ぶまれる事態にまで陥ります。結局放送はされることにはなったものの、この脚本により上原氏はウルトラシリーズから次第に遠ざかることとなってしまいました。当時の関係者からは酷評されたこの「怪獣使いと少年」ですが、結果としてはこの脚本は放送から49年経った今でも語り継がれる名作となりました。そして上原氏はのちに次のような言葉を残しています。
「何でもかんでも自主規制がはびこると、作品自体を貧しくするという気はしますね。作家の想像力までを規制してしまう。作家がお利口さんになっちゃうのね。だって作家って危ないものじゃない。表現の自由の中には自分の良識の範囲内というのも当然ある。でもクリエイティブの世界では、ある意味での狂気って必要だと思うんですよ。」
この言葉が当てはまるのはテレビ業界に限ったことではないと思います。どの業界でも一部の非常識かつ低俗な人間がいれば規制はどんどん厳しくなっていきます。車業界でもそれは同じでしょう。先日の東京オートショーでも最後の最後で良いムードをぶち壊すような悪態を働くものがいましたが、そういった人間がいるとどんどんオートショーなどの規制も厳しくなっていくでしょうね。上原氏の言うような狂気という部分は、芸術性というデザインで表現すべきで、決して狂ったような音を撒き散らすものではありません。一部のこのような人間の悪態のせいで結局は車のカスタムを楽しむ人たちにまで厳しい目が向けられるようになってしまいます。アルファードやヴェルファイア、プリウスのユーザーに批判的な意見が目立つのも根本的なことは同じではないでしょうか。ネット上での悪評が多いのは一部のユーザーが迷惑行為を働いているからだと思われます。なぜアルファードやヴェルファイアがそういう扱いになってしまったかは、それらの車のユーザーで悪態をつく人の割合が多いからでしょう。そういう人たちが好むデザインだからともよく言われていますが・・・大半の良識あるユーザーからしたらえらい迷惑でしかないですね。話しを戻しますが、この「怪獣使いと少年」は上原氏は表現の自由の許される範囲のギリギリのところで自分の思いをぶつけながらこの作品を作り上げたのかもしれませんね。それでは上原作品の中でも随一の名作である1971年11月19日放送の帰ってきたウルトラマン第33話「怪獣使いと少年」のストーリーを紹介していきます。
嵐の吹き荒れるある夜の日、佐久間良という少年が巨大魚怪獣ムルチから逃げていた。そこに宇宙調査員メイツ星人が現れ、手から光線を放ちムルチを地底へと封印、佐久間少年を助けた。
佐久間少年は昭和33年に北海道生まれるが、就職のために上京した父親が失踪、その後母親も病死し、天涯孤独となってしまい父を探して1人で上京した少年だった。そしてメイツ星人に助けられた佐久間少年は、金山十郎の名で老人の姿に扮したメイツ星人と廃墟で暮らすこととなった。しかし身寄りが無く廃墟に住み着いた佐久間少年は宇宙人ではないかという噂が広まっていった。佐久間少年は廃墟の前で来る日も来る日も穴を掘り続けるという不思議な行動をとっていた。次郎は陰から友達と一緒に佐久間少年を観察していた。
すると佐久間少年の前に3人の不良中学生が現れ佐久間少年をからかいはじめる。
不良中学生たちは佐久間少年の住む廃墟へと押し入ろうとするが、突如1人の不良中学生が宙へと浮き上がり、放り投げられてしまった。佐久間少年が超能力を持った宇宙人だと決めつけた不良中学生たちは佐久間少年を捕らえ、穴に佐久間少年を埋めると頭から泥水をかけはじめる。
陰から見ていた次郎は可哀想だと止めに入るが、不良少年たちは聞く耳を持たず、いじめをやめるどころか、穴に埋めた佐久間少年を自転車で轢こうとする。
佐久間少年が自転車で轢かれそうになったその時、通りかかった郷が不良少年の自転車を止め、佐久間少年は間一髪助けられた。不良少年たちは佐久間少年は宇宙人だと郷に告げ、MATなら早く退治してくれと言い残し去って行った。郷は埋められた佐久間少年を助けながら、毎日穴を掘り続ける理由を尋ねるが佐久間少年は理由を話さなかった。そして佐久間少年は自分は宇宙人ではなく北海道出身の人間だと告げ廃墟へと戻っていった。
その後、郷は佐久間少年を調査するため、北海道にまで足を運んだ。それにより佐久間少年は宇宙人ではなく、天涯孤独の少年だという事実を掴む。次郎は郷からその話しを聞き、不良中学生たちに佐久間少年が人間だという事実を伝えるが、納得のいかない不良中学生たちは再び佐久間少年の住む廃墟へと押しかける。
佐久間少年は廃墟の中でお粥を作っているところだったが、そこに不良中学生が現れ、またしても佐久間少年に因縁をつけるとお粥の釜を蹴飛ばし、さらにお粥を下駄で踏みつけた。
泣きながら耐えていた佐久間少年はついに怒り、火のついた薪を手に不良少年に立ち向かう。すると不良少年は連れてきていた大型犬に佐久間少年を襲わせ、その隙に逃げていった。
不良少年たちは廃墟の外まで逃げると、外から様子をうかがっていた。すると廃墟から大型犬が出てくるが、その直後、大型犬が突如爆発に巻き込まれ木っ端微塵になってしまう。
一方、佐久間少年が宇宙人ではなく人間であるという郷の調査結果を聞いた伊吹隊長は、郷に佐久間少年を宇宙人説から解放してあげるよう指示した。
その後、郷は佐久間少年の住む廃墟を訪れるが、そこには輪のついたロープが吊されていて、佐久間少年の姿は見当たらなかった。
その頃、佐久間少年は雨の中商店街にパンを買いに行っていた。佐久間少年はパン屋で食パンを買おうとするが、パン屋の店主は佐久間少年を見ると帰れと追い返してしまう。
それを見たパン屋の店主の娘は食パンを持って佐久間少年を追いかける。そしてパン屋の娘は佐久間少年に食パンを渡そうとするが、佐久間少年は同情なんかしてほしくないと食パンを受け取らなかった。
パン屋の娘が同情ではなく、ウチはパン屋だからパンを売るだけだと話すと、佐久間少年は120円を払い食パンを受け取るとお礼を言って廃墟へと帰って行った。
佐久間少年が廃墟に帰ると、そこには郷がいた。佐久間少年は勝手に入り込んでいた郷に出て行けと怒るが、郷の横にはメイツ星人である金山がいた。金山は郷が自分の正体がメイツ星人であることを知っていると佐久間少年に話し、郷を追い返そうとする佐久間少年を制止した。そして金山は1年前の出来事を郷に話し始める。
メイツ星人である金山は地球の気候風土を調査する調査員として宇宙船で地球へと降り立った。
その後、ムルチに襲われる佐久間少年を目撃したメイツ星人は佐久間少年を助け保護した。
メイツ星人は保護した佐久間少年と暮らすために金山という人間に変身し、人間として廃墟で暮らしはじめた。メイツ星人は佐久間少年と暮らしていくうちにだんだんと佐久間少年を我が子のように愛するようになり、金山という1人の地球人としてずっと地球で暮らそうと考えはじめるが、環境が汚染された地球の空気によって金山は次第に弱ってしまった。佐久間少年は環境汚染のために死が近づいている金山とともにメイツ星へと行きたいと願ったが、弱った金山には自分で地中へと隠した宇宙船を掘り出すことはできなくなっていた。佐久間少年は金山の乗ってきた宇宙船を掘り出すために金山の代わりに毎日穴を掘り続けていたのだった。全てを知った郷は佐久間少年とともに穴掘りを手伝いはじめる。
しかしそこに佐久間少年を宇宙人だと決めつけた市民が押し寄せ、MATが宇宙人を倒さないのなら自分たちが退治すると佐久間少年を連れ去ろうとする。
佐久間少年が連れ去られそうになると、廃墟から金山が出てくる。そして金山は佐久間少年は宇宙人ではなく、宇宙人なのは自分だと声を上げた。
それを聞いた市民たちは静まりかえり佐久間少年を解放するが、今度は正体を明かした金山に市民たちが襲いかかる。郷は必死に市民らを制止しようとするが、暴徒と化した群衆には為す術が無かった。
そして群衆の中にいた警察官の1人が金山に発砲、2発の銃弾を受けた金山は倒れ込み死んでしまう。
その直後、金山が死んだことで封印が解けたムルチが地中から出現する。市民たちは慌てて逃げ出し、郷にムルチを倒してくれと叫ぶが、郷は「勝手なことを言うな、怪獣を出したのはあんた達だ。まるで金山さんの怒りが乗り移ったかのようだ。」と怒る。
そして郷はウルトラマンジャックに変身せず、身勝手な人間たちを見捨てることを決めた。
しかしそこに僧侶姿の伊吹隊長が現れ、町が大変なことになっているんだぞと郷に告げる。伊吹隊長の言葉に立ち上がった郷はムルチに向かって走り出す。
そしてウルトラマンジャックに変身しムルチに立ち向かう。
ウルトラマンジャックはムルチを高々と持ち上げ投げ飛ばすとスペシウム光線で撃退した。金山が死んだ後も佐久間少年は穴を掘り続けた。「おじさんは死んだんじゃない、メイツ星へ帰ったんだ。だから自分も宇宙船でメイツ星へ行くからその時は迎えに来てくれ。」と。郷は上野隊員とその様子を遠くから眺めていた。
今回はウルトラシリーズの中でも最大の問題作と評される作品ということで、いつもの倍のスクリーンショットでストーリーを紹介しました。規制でこのような作品は作れないであろうこの時代だからこそ、この作品の意味や価値がさらに高まっているのではないでしょうか。次回は「ウルトラマン夕陽に死す」と「ウルトラの星光る時」を紹介します。