
本屋でブラブラしていたら、こんな本をみつけてしまった。「スバル・メカニズム」(三樹書房)である。帯には「この一冊の本は、スバルのクルマが大好きな人たちが、最初の読者である。」というキャッチコピーが書かれている。帯の赤地が少々焼けていたので、かなり長い間書棚に並んでいたものであろう。奥付は「2006年1月30日 第5刷発行」となっている。2年近く放置されていたのかもしれない。
中身は、スバルの独自技術に関する解説と、各章の扉にそのメカの美しいカラー写真が載せられているといった趣向の本。発行年が2004年で、4代目レガシィ発表直後ということもあり、「等長等爆エキゾースト・マニホールド」や「リアゲートのアルミ化」、「軽量5ATの開発」といったスバルの長い技術開発史の中でも最新の技術に関する解説がふんだんに盛り込まれている。いずれも、エンジン効率の向上や走りを犠牲にしない軽量化として省燃費やハイパワー化に貢献する素晴らしい技術である。
しかし私がもっとも興味を引かれたのは、1997年に開発されたという「LFピストン」である。この話は以前にもこのblogで紹介した「スバル水平対向エンジン40年の歴史」(山海堂)にも出てきたが、保守的・経験工学的になりがちな最重要部品であるピストンの変革にチャレンジしたそのスピリットには、何よりも深い感銘を覚える。このピストンにより、走行時で0.5%、アイドリング時で2.3%の燃費向上ができたそうだ。ユーザーが四苦八苦しなくても、技術の力でこれだけの改善が出来るというのは、素晴らしいことである。
それにもう一つ、この本を読んでいて気がついたことがある。低負荷・中回転時(クルージング時)における効率改善のために、最近のエンジンでは排気ガス還元(EGR)という方法を用いるのがごく普通ということだ。アクセル開度が小さく新鮮な空気を吸気する量が少ないときに、ほぼ不活性なガスとして排気側からガスを戻して吸気側へ送り込むことで、吸排気に関わる熱力学的なロスを減らすことができる。
この本の中ではこのことが「帳尻を合わせる」と表現されていたが、これは例の「ポンピングロス」の低減の話であり、要するに、排気側からガスを還元することで「ポンピングロス」を下げる効果が出るわけである。こういうことも、単に「吸気効率」にこだわって理解しようとすると全く不明の話になってしまう。ただしEGRの場合は、新鮮な空気を吸う場合と異なり比較的高い温度のガスを吸うことになるから、吸気ガスの充填効率は新鮮空気ほどは稼げないし、排ガス中に含まれる様々な物質が燃焼にも影響するから、大量のEGRは燃焼制御をより難しくする、という弱点はあるのだが・・・。
いずれにせよ、この本はスバルが現在用いている技術を感動的に識るには、大変良い本である。(残念ながら、Amazonには新品在庫は無いようである。興味のある方は、中古出品を利用する、もしくは版元に在庫を確かめてみてはいかがだろうか。)
余談だが、この本に挟まっていた“書籍案内”に品切れリストがついていて、その中に「栄光への5000キロ」が含まれていた。この本は、私が子供の頃、クルマによるレースというものに興味を持つきっかけとなった、ダットサン・チームによるサファリ・ラリーへのチャレンジのドキュメンタリーであった(当時は別の出版社から出ていた・1969年には石原裕次郎主演で映画化もされたそうだ)。40年以上も前のサクセス・ストーリーだから品切れもやむを得ないと思うが、そんな本でもリストにきちんと載せているあたりが、この出版社のクルマへの思い入れを感じさせた。
Posted at 2008/02/11 20:22:06 | |
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