19
勉強が出来ないのは当たり前
将来の事も何も考えてない
喧嘩も、たいして強くないし
つるまなきゃ不良やる根性もない
俺は根性ないし、弱いから、自分の為に頑張れない
でも、お前の為なら頑張れる気がする
お前の為なら、根性だせるんだよ
だからさ、俺に約束の未来をくれないか
この先、俺が頑張れるように、ずっと一緒にいて欲しいんだ
何か起きても、お前の為なら根性出せるんだよ
たからさ、約束の未来を俺にくれないか
愛している、と叫んで欲しいんだ
金曜日〜双子座流星群
クリスマス・イブイブの23日、アンソンはバイトが終わると、一人でバイクを走らせ、浮島公園に行った
湾岸線を横浜まで繋げる、拡張工事をしており、ここにも横羽線に繋がるジャンクションが出来るらしい
公園に行く途中には、ダンプが出入りする為に敷かれた鉄板があちこちにあり、荒れたオフロードが広がっていた
公園から、滑走路と、工業地帯の灯りをボンヤリ眺めている
こんな決闘じみた喧嘩をするのは初めてだ
そもそも、集会での乱闘は何回かあるが、タイマンなんて今まで経験してないかも
豚美さんや、パクちゃんみたいな大物は別として
案外、自分みたいな小物の不良ってのは、頭にきて誰かを殴った事はあるけど
自分より強いと分かってる奴とのタイマンなんて喧嘩は、経験ないんじゃないか?
族だの不良ってのはハッタリなのかな?
そう思うと、何だか笑えてきた
不思議と緊張はない、それよりも、明日の猫ビルのタイマンの後に、ユンソナに会えるだろうか?
ユンソナに会って、自分は何を言えるだろう?
猫ビルのタイマンより、彼女の事ばかり考えしまう
こんな喧嘩は意味なんて、無いかもしれない
でも、この喧嘩が終われば、ユンソナにちゃんと告げれる気がする
12月の空を見上げると、双子座流星群が流れて落ちた
今日は、金曜なので豚子も厨房に入っていて、キムコは昨日ユンソナに会いに行った事を報告しようか、悩んでいた
「ねぎタン2つと瓶ビール!」
豊子が小窓から厨房に叫んだ
「何をボケットしとんねん!」
「へっ?」
後ろから豚子にドヤされるキムコ
「さっさと、やらんかい!」
野菜の切れ端を、キムコに投げ付ける豚子
「あっ、ゴメン・・」
ボーナス時期のせいか、11時まで店は忙しく、やっと客足が途絶え、引き潮のように店内が静かになった
ネギタン塩を頼んだのは、パクちゃんとラッシャー君で、豊子はビールと、キムチを二人のテーブルに持って行き
「いよいよ、明日ですね」
「街中〜大騒ぎだよな」
二人に声をかけると、パクちゃんに、ビールを注ぐラッシャー君が言った
「帰るよ〜」
最後の工員のオッサン達が、席を立ち、豊子に声をかけたので「はーい」と返事をし豊子はレジに行く
工員のオッサン達は、これから堀之内に繰り出すような話をしながら、会計をすますと
入れ違いに、豚子のカプセル怪獣のカネゴンとミクラスが入って来て、
「ういーす」♪
豊子に挨拶して、パクちゃんとラッシャー君に「こんばんわー」とお辞儀して、向かいの席に腰をおろした
「注文は?」
「ラストオーダーだよ」
豊子が二人に注文をきくと、オバちゃんが言った
「カルビクッパ二つで」
豚美さんやパクちゃんと違い、学生でボンビーな黒猫軍団にはカルビクッパは定番メニューになっている
「OK〜!」
豊子は厨房の小窓に行き、
「ラストお〜カプセル怪獣にカルビクッパ二つ!」
「ちゃんと約束通り、来おったな!」
豚子がオタマを鍋に叩きつけると、カーン♪と音がして、手際よく準備を始めた
「アンソンはどうした?」
パクちゃんが、カプセル怪獣コンビにきいた
「スタンドに行ったら、居なかったす」
「しょうがねーな、明日、オマエから言っとけ」
「うっす!」
パクちゃんが、ラッシャー君に指示
「何かあったんですか?」
カネゴンが、パクちゃんにたずねる
「二度は面倒だから、豚子達がきたら話す」
パクちゃんのタン塩か残り数枚になった時
「ういー!終わった終わった」
豚子がカルビクッパ二つお盆に乗せ店内に入ってきて
「今晩は〜」
パクちゃんとラッシャー君に挨拶して、キムコが、三人分の賄いをお盆にのせて、テーブル席に腰を下ろそうとすると
「狭いから、向こうに座れや!」
ドンケツして、キムコをパクちゃんとラッシャー君の席に追いやる
キムコは自分の分を持って、ラッシャー君の隣に座ると
「何だそれ?」
キムコの丼を見て、ラッシャー君がたずねた
「賄い新メニューの牛すじ丼っす」
「美味そうだな」
と、言いながら、既に自分のスプーンをキムコの丼に突っ込むラッシャー君
「どうや?」豚子が横から感想をきくと
「美味いっ!」
と言いながら、さらにラッシャー君がスプーンを突っ込むと、パクちゃんも突っ込み
キムコの賄いが、一気に目減りする
「あっ、そんなに・・」
「美味いな」
パクちゃんも呟く
「まだ、二人分ならライスありますよ」
豊子が教えると
「〆でヨロシク」
ラッシャー君が注文したので、豊子は席を立ち厨房に行った
豚子は牛すじ丼を頬張りながら、カネゴンとミクラスが持って来た集計表を真面目に見てる
「さっきの話って、なんですか?」
カネゴンがパクちゃんに聞くと、豊子が牛すじ丼を持って来て、パクちゃんのテーブルに置き、豚子の隣に座った
「鮫島がもって行かれた」
パクちゃんが説明した
「へっ、何を?」
キムコが質問
「馬鹿、パクられたってことだよ!」
「何で捕まっちゃったんですか?」
ラッシャー君がキムコに説明すると、豊子が質問
「この前、オマエらが産業道路で大乱闘しただろ」
「あーなるほど」
皆が納得する
「お巡りも、誰かしらパクんねーと格好つかないからな」
「どうなっちゃうんですか?」
どうやら、豊子だけは納得がいかないようで聞き返すと
「一人で背負ったから、久里浜だな」
パクちゃんが牛すじ丼のスプーンを置いた
「ガビーン」
「じぇじぇじぇ!」
「年少か・・」
「この時期は寒いでー」
豚子は、意外とあっけらんかんで、牛すじ丼に七味をかけだす
「春頃になるけど、アイツが出て来たら、皆んな、ちゃんと挨拶しろよ」
「ういーす!」
「鮫島はん、意外と男なんやねー」
「あの時は、凄ぇー頼りになったよな〜」
「デッケー借りになっちまったな」
豚子とラッシャー君が言うと、パクちゃんがタバコに火を点けて答えた
(-。-)y-゜゜゜
「明日の猫ビルは負けれなくなったよね」
豊子が言うと
「いや、いや、いや〜」
「ないわー」
全員が、スプーンを振って否定する
「分からないわよ!矢吹ジョーみたいに勝てるかも知れないじゃない!」
豊子が興奮して席を立ち、皆んなに訴えた
「豊子さん、矢吹ジョーは負けてまっせ」
「えっ・・(; ̄O ̄)
「力石徹に負けたよな」
「矢吹ジョーって、いつも肝心な試合に負けるよな」
「ホセの時は、髪が真っ白になったよな」
「あれって、死んだんだろ?」
「クリスマスって、キリストの命日だろ?」
「・・・・」
皆の反論に対し、豊子は何も言い返せずに、項垂れて席に座り
「ジョンレノンと小野ヨーコも、最初は世界中にラブラブ自慢しとったやん」
「確か、撃たれて死んだの12月の今頃だったよなー」
豚子とキムコが追い討ちをかけるように発言すると、豊子は立ち上がり
「あの二人を、ジョンレノンと小野ヨーコと一緒にすんじゃーねーよおおお!」
豊子が怒鳴ると、店内のTVから哀しい、クリスマスソングが流れて来た