手元からこぼれるコトバ

　人は頭で考えてからものをしゃべる。

　相手に何を聞かれたのか、自分が何を伝えたいのか、それを頭で考えて処理し、考えて発せられた言葉は、自分の耳にも入り、認識される。

　しかし、人は時に「考えず」しゃべることがある。

　たとえばさまざまな感情があふれて、情報が頭で処理できなかった時。著しい怒りの感情から出てくるコトバ、相手に対する愛情があふれてふと無意識に出るコトバ。そういった言葉には、論理性というものが存在しない。

　そして、人は極度の緊張状態から、「考えず」しゃべらざるを得ないこともある。

　最初は何を言おうか大筋はあったはずなのに、相手に深く突っ込まれ、うろたえ、それでも場つなぎにしゃべっているうちに、まず、何が言いたいことの核だったか分からなくなる。そうなってから、思考停止に陥るまでは一瞬である。目の前が本当に真っ白になった気になり、相手の顔は見れず、おろおろと窓の外に目をやってしまう。それでも状況はしゃべらないといけないまま変わらない。口が勝手に動いている感覚に襲われ、本当にヤバいと脳が感じる。しかし、脳にはそう感じることしかできず、何も対策はもう打てない。

　口からは抽象的なコトバばかりが流れ出し、もはや自分のコトバなのに自分の手元からぽろぽろとこぼれていくこの絶望感。

　そこから抜け出すにはまずその話題を打ち切ることである。抽象的ながらなんとか結論らしきものを付け、やっと正気に戻った気になる。以後そのような感覚に襲われることは無かったが、自分が大事な状況下でそのようになってしまったというダメージは大きい。

　ダメージ。それは時間をおいてやってくる。無意識にこぼれたコトバ達を、残酷にも、そして無責任にも脳は覚えているのである。ロジカルな頭に戻った人間は深い後悔の念を抱く。




　…




　幸いにも今日はすぐ次のステップの連絡が来たが、

　今日はほんまヒヤヒヤもんやった…。



　明日こそは自分のコトバをこぼさない。