2010年07月29日
「ミスった…」
大学の期末試験のために大学に来た坂本は、学生証を忘れたことに気付いた。試験の公正化のため、入室時に学生証を提示しないと試験が受けられないことになっている。2限目の統計の試験まであと20分。家に取りに帰る時間はない。坂本は仕方なく仮の受験票を発行してもらうため、教務係に向かった。徹夜明けでもう勉強する余地もなくなり、なんとなくやけに早く家に出たのだが、それで教務に行く時間ができたというのは運がいいのか悪いのか。
すっかり空は夏。冬のように空高い澄んだ空でもないし、春先のような薄い雲がかかったかすんだ空でもない。とにかく雲が主張する。入道雲が天まで高く昇り、それがてっぺんに到達すると一気に広がって雨を降らす。晴れで雲が少なくても、なんとなく雲が基調となる夏の空である。
「すいません。」
いつもの若づくりの教務のおばさんが出てくる。紙を渡される。それにペンを走らす。学部、学籍番号、氏名、入学年度…。そういえば早くも大学に入って2回目の夏が来たんだな…とふと思いながら横に気配を感じふっと顔を上げる。こいつも学生証忘れか…
「あっ…」
ハモった。びっくりしすぎて舐めていた飴を飲み込んでしまった。
「…」
沈黙もハモった。沈黙がハモるってどういうことだかよく分からないが、とにかくそうとしか言えない一瞬の間が流れる。そして。
「久しぶり…。」
第一声も見事にハモった。
高校時代の同級生の女子だった。大きな私立高校だと3年間一度も会話することも無く、何の縁もなく卒業する人たちがほとんどだが、この子の場合縁があるも無いも大アリである。3年間、全く浮いた話の無かったといってもいい坂本に、唯一バレンタインのチョコレートをくれた子。そして、それだけでも記憶に残らないわけが無いのに、彼女がチョコレートをくれた日というのが、真夏の8月14日だった―
お互い次のテストが近かったので、少ししか話さなかった。初め坂本はどうしてこの子が同じ大学にいるのか分からなかったが、話を聞くと彼女は1年浪人して坂本が通う大学に入ったようだ。それ以外には所属する学部だとか、どうやって通っているのかといった薄い一般情報だけ話して、最後に「暑いね」って計らずももう一度ハモって、でもさっきのような気まずい感じはなく、テストがあるから、と別れた。
統計のテスト、それほど難しいものではなかった。いつもならテスト後は解放感に満たされるはずが、今日はどうも気分が晴れない。原因は分かっている。もう、2年も経つんだ、と…
※この話は続きませんし、フィクションです。
だって俺男子校やしねww
Posted at 2010/07/29 12:10:32 | |
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