私とM・T氏との出会いは、偶然過ぎて天の計らいであるかのごとく劇的である。 詳しくは述べないが、その後、今に至るまで親しくしていただいている。 氏とは非定期的に都内をぶらり散歩を行う。最初は私が何気なく提案してみたのだけれど、一年前の今頃に初めて散歩を初めてから、はや四回になる。 非常に昔のことのように思われるが、まだ一年しか過ぎていないともいえる。 時間というのは非常に心理的なものなのだなと思う。 江戸川区の葛西駅にて待ち合わせ。天気はむろん晴れ。この季節にしては暑ささえ感じる陽気だった。 ちなみに、私はあっぱれなほどの晴れ男である(と思っている)。 葛西駅を待ち合わせ場所にした意味というのは、互いの便がいいというわけでもないし、それほど入念に考えたわけでもないが、なんとなくの直感で私が決めた。散歩のようなぶらりぶらりと弛緩させながら楽しむときには、何事も適当でいいのではないかと思うし、直感から織りなされた散歩行程のことごとくが楽しく、感傷深く、いわばいいことづくめであったのだ。 ちなみに、江戸川区は東京の最東南部で、区内東部を流れる江戸川を超えると、すぐに千葉県で、ディズニーランドを擁する千葉県浦安市も間近である。 「これは欲しいな」 M・T氏は本当に心から欲しいなというような調子で述べる。ただし、口調が穏やかなせいか、物欲しさというよりは、純粋無垢な童心さを氏は時折述べる。氏の感受性が非常に広くて豊かな証左でもあるが、氏は同時に丸の内に通うエリートのビジネスパーソンでもあり、私はどうも氏のエリートさと童心さが共存していることが面白く、また親しみを感じてしまうのである。 ところで、氏が欲しいと述べたものとは、地下鉄路線を運転するシミュレータ装置である。 葛西駅に隣した場所に地下鉄博物館という建物があり、そこでの一幕を私は述べている。私たちはそこをまず起点として散歩をすることにした。 地下鉄博物館は地下鉄愛好家以外にも楽しめる場所だと思う。狭苦しい場所でもなく広大な場所でもない。程々の場所に好事家よりも、子供が目立つ。そんな空間である。ただ、初期の地下鉄銀座線や丸ノ内線の車両が展示されていたり、 シミュレータではおそらく往年の運転士の方が、状況ごとの運転方法(坂道での加減速や駅に停車するときのコツなど)を教えてくれる。 非常に実りのいい穂のように、収穫が大となる場所で、おすすめである。 M・T氏の精神も心なしか高揚していて、沈着な氏にしては珍しい。 ちなみに、互いに鉄道に興味はあるが、鉄道に対してとことん入れ込んでいるというわけでもない。そんな程々の興味を持つ人間でも十分に楽しめるのだ。 ![]() 葛西駅から歩を西へ進める。同じく東西線の西葛西駅を目指す。 「接骨院が多い」 氏は非常に鋭敏で独特なセンサーを備えているようである。葛西は都心にも近く非常に住み心地の良い街であるくらいに思っていた私は、この氏のセンサーに驚いた。たしかに、言われてみれば接骨院の数が多く、なぜこれほどに接骨院がたくさんあるのかが皆目見当がつかないので、 「ほねつぎの人たちが集って、街を形成したのかもしれませんね」と私も見当がつかないような受け答えをした。 ![]() 西葛西駅からは都営バス(通称・都バス)に乗り、より都心に近い西側の江東区まで一挙に向かおうとした。発案は私なのだが、バスという小さい空間の中で同じ人たち(乗客)と乗っていて、会話などを聞いてみると、その土地ならではの話なんぞが出てきて面白いかなとも思ったのだ。 それにしても最近のバスは乗り心地が良い。昔の長く突き出たシフトノブで操作するバスはときどき、シフトのときにごりごりっという音をさせながら、よくノッキングのような挙動を示していたものだが、今はそういう場面も少なくとも都内では見なくなった。 大河ともいえる新中川と荒川(放水路)を渡る。荒川放水路とは人工で作られた河川で、昭和のはじめにこれほどの巨大な河川(放水路というよりはもう立派な河川の佇まいだ)が作られたということに驚きを感じる。軍艦が一隻購入できるほどの資本を投下したのだ。一大プロジェクトといっていい。 放水路建設の目的は隅田川の氾濫を防ぐためだとされるが、放水路完成以降、隅田川では川の氾濫は一度もないという。流域面積でいえば、都区内一だろうし、全国的に見ても屈指の規模なのではないか。 江東区に入った。江東区東部は城東地区と呼ばれ(江戸城の東という意味であろう)、往年は京浜工業地帯の中心で工場が密集していたが、工場の郊外移転以後はその広い立地を利用して、大規模な高層マンションやショッピングモールがあり、都区内としては異質な景観を見せてくれる。 境川というバス停で降り、草の群がる無機質な柵に向かって歩を進める。 越中島貨物線の線路である。 貨物輸送はとうに廃止されているが、運行自体は行われている。ただし、非電化区間のために、電車は入れずに主役となるのはディーゼル機関車となるが、そうそう走っているものではないので、走っていればいいななんて思っていたら、私たちの方向に向かって走る一大のディーゼル機関車が見え、反射的に二人してシャッターを切る。この光景を後から想像すると可笑しくて仕方ないのだが、それほどに貴重な瞬間を私たちは経験したといってよい。 ![]() 越中島貨物線にはかつて小名木川駅という貨物駅があり、私はよく記憶に残っている。コンテナが無数に置かれ、いかにも貨物駅であるという風情であったが、いまはその痕跡はほぼ皆無で大規模ショッピングセンターに変化している。 私たちは旧小名木川駅より南にいまだ現存している越中島貨物駅を目指している。路線は単線で手入れもほどほどという感じである。そんな路線に、中途、交通量の多い道路に貨物線の踏切が直角していている。 道路は交通量の多さから分かるとおり、今でも繁茂している。一方で貨物線は実際には貨物輸送が廃止され、線路を通りゆく機関車も日に数度もあるかどうか。 これらが一つの空間に共存しているさまが非常に面白い。 ![]() ![]() これは必然なのかたまたまなのか、越中島貨物駅の隣には地下鉄東西線の車両基地があり、JR京葉線の路線も貨物駅傍を走っていて(これは貨物線と多少の関係があるのかもしれない)、一つの鉄道密集地帯を形成している。 この付近は埋め立て地帯で、少し前まで陸の孤島と呼ばれていたくらいだった。 したがって、車両基地や貨物駅を設置する空間的なゆとりがあったのだろう。 今は豊洲の高層マンションが間近に見えて、その空間的な様相はだいぶ大都市らしくなってきているといえるかもしれない。 ![]() 貨物駅を高架から眺めた頃は、もう夜が暗くなっていた。 実は越中島貨物駅からさらに路線が伸びていた。 東京港湾鉄道と呼ばれ、晴海や豊洲方面まで伸びていた。 随分とまえに廃止されたが、長らく路線が残され、今でも一部線路が残されているという。今回の散歩で確認した限りでは、貨物駅から500メートルほどのところで、線路が寸断されており、これが東京港湾鉄道の線路だったのかどうかは定かではない。いつまで放置されているのかはわからないが、私は往年栄えていて、今は廃墟と化したような光景を眺めて、応時を想像するのが好きなので、できる限り放置されたままにしてもらいたいと思っている。 ![]() 日がすっかり暮れた。 門前仲町の界隈で一杯やろうという話になり(というか、すでに私たちの散歩ではお約束になっている)、にぎやかな商店街のなかで、雰囲気や味が良さげな店を探す。 M・T氏は店探しの嗅覚も優れていて、氏の直感に委ねるとまず間違いなく、満足できるお店に遭遇できる。 そこで、今回も氏の直感に委ねることにした。 それにしても、直感の作動原理とは不思議である。 どのようにして閃きが生まれるのだろう。 直感が生じるきっかけを多少なりとも論理的に説明していただきたいと思っていたが、あっさり忘れていた。 テーブルに七輪が載せられる。サザエや焼き鳥などを自分で焼くというシステムだ。 特にサザエは海の匂いというか、海の家のような匂いが漂うようで非常においしかった。つまり、味も抜群で氏の直感はまたしても正常に賢明に作動したということである。その他ほっけや刺身など様々なものをほおばったが、どれもおいしかった。 きんきんに冷えたビールも運動をしてきた身にはたまらなく、極楽浄土はかくあるべきやなんて思ったものである。まあ、冗談だが。 M・T氏は気前がいいというのか、私はいつもご馳走になっている。 万事が人の喜びを見るのが自分の喜びでもあると感じる性質の人なのかなとも思う。 というわけで、私は焼酎もいただき(氏も焼酎好きだが今回はビール飲み)、遠慮なくご馳走に預かることにした。 こういうときに無用な遠慮は必要ないと思っている。遠慮は謙譲の美徳だが、過度な遠慮というのは好みではない。 従って、ただ感謝すればいいのだと思う。 門前仲町の駅で解散し、各々帰路へ。 帰路に氏からメールがあり、今日の散歩で一番最初に訪れた地下鉄博物館で、地下鉄の車両運転をシミュレータしている私の写真を画像添付して送ってきてくださった。 こういう点は非常にマメで、いつも感心するのだが、うっかりと人の名前を間違えてしまう点などもあり、茶目っ気もある。 まあ、人物評はともかく、大いに楽しめた。 M・T氏には心から感謝申し上げたい。 フォトギャラリー→https://minkara.carview.co.jp/userid/730895/car/643437/2296586/photo.aspx |
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