
さて、前回予告していた
「国産車・右脳ベンチマーク」である
マツダロードスターの試乗記です。
とにかく良く出来ていて、最高…
と感じると同時に、
良いものを素直にいいモノとして受け入れられない葛藤…。
そのあたりが、このクルマへの思い入れの強さを表している、証拠なのかもしれません。
今から楽しみにしましょう。
おそらくスカイコンセプトをぎっしりつめこんだ
「原点回帰」した、NDロードスターを…。
さて今回のテスト車は幌仕様ではなくメタルトップのRHT仕様のRS・6MT。ボディーカラーはとてもシックで上品なカッパーレッドマイカ。マイナー前モデル(NC1)と実際に乗って比較すると、あらゆる面で熟成と改善が図られており、魅力度は想像以上にアップしていました。
スタイリングに関しては、野暮ったさがなくなり幾分スッキリとシャープにまとまった印象。個人的な事を言わせてもらうとNC1のスタイリングは登場当初から拒絶反応を示していただけに、このマイナーチェンジは個人的には○。温故知新には頼らない新鮮さが出たのも重要なポイントと言えるでしょう。
インテリアも細部に変更が。ドアトリムの変更で足元がスッキリとし、メーターのフォントも変更されてより視認性がアップ。ただ見た目の質感で言えば以前のデザインも捨て難い…?同じように、ピアノブラックからシルバーに変更を受けた装飾パネルも、ホコリが目立たなくなった利点はあるものの好みが分かれる変更かもしれません。シートヒーターが5段階の温度調節機能付になったのは大変嬉しいポイント。
さて、早速走り出してみましょう。シンクロ容量拡大やカーボンコーティングの施行などにより、6速MTのシフトフィールはまさに痛快。各ギアが吸いこまれるようにスコンスコンと気持ち良く入り、ストロークも適切。ガンガンに飛ばしながら素早いシフトをする時だけでなく、街中でゆっくりとしたペースで走っていてもシフト操作をするだけで気持ち良さが感じられる…6段となってATのポテンシャルもグッと向上していますが、やはりこの車は是非ともMTで乗りたいところ。
そしてNC1なら個人的には5速の標準モデル(現行はSグレード)がお気に入りでしたが、このNC2では是非ともこの6速MTモデルがおすすめ。その理由は、この6速MTのみに「インダクションサウンドエンハンサー」が装着されるため。これは登場時に話題を集めた装置の1つで、エンジンルーム内のシンセサイザーが、エンジン吸気状態時に空気の流動量を増幅させることで、よりドライバーに乾いたサウンドと鼓動を伝える…という地味ながら実にロードスターらしい装置。
その効果もあってか、今回NC2で一番良くなっていたと感じたのはエンジンフィールとそのサウンド。パワーこそ170psと変更を受けていませんが、クランクシャフトの鍛造化やピストンのフルフロート化、新設計のバルブスプリングなどの改良でエンジンには大幅に手が入っており、レブリミットも500回転上がって7500回転まで回るように。そのおかげでフィーリングはNC1のエンジンと比べると「激変」と言ってもいいほどで、いやはや失礼ながら、マツダのレシプロエンジンがここまで良く感じる事になるとは思っていませんでした。
いわゆるVTECのような可変リフト機能を持ち合わせていないので、トップエンド付近の弾けるような2段ロケット的な加速感は持ち合わせてはいませんが、こちらは3000~5000回転のいかにもNAらしい乾いたサウンドとレスポンスの良さ、吹け上がりのナチュラルなフィーリングが持ち味。ワインディングを走っているとちょうど一番気持ちよく感じるサウンド領域とドンピシャで、歴代ロードスターでもエンジンフィールに関してはどこか事務的な印象が強く最大の魅力ポイントとして挙げる人は少なかったでしょうが、今回のNC2に関しては、エンジンに惚れた!という人がいてもなんらおかしくはないでしょう。数値上には一切変更がないのにこの激変ぶり、マツダのエンジニアのクルマを愛するひたむきさがアクセルを踏み度に思い出されます。
そして足周りの改善も。ロールセンターを26mm下げたほか、それに合わせてサスペンションをリセッティング。その効果はターンイン時のフロントの接地性の向上とアペックス付近でのリアのスタビリティの良さに結びついています。NC1ではいわゆるNAで見られた「コーナーをヒラリヒラリと駆け抜けていく」という感覚を現代基準のボディサイズとサスペンション・タイヤキャパシティで演出しようとし、それが逆に初期ロールの大きさや唐突な挙動の変化を生む事になっていましたが、NC2ではFRスポーツの王道とも言えるよりナチュラルな挙動を手に入れました。タイアは205/45R17のBSポテンザRE050Aでややオーバークオリティ感もありますが、そこはRS専用のビルシュタインダンパーのおかげでバネ下のバタ付き感はさほどなく、乗り心地も十二分に快適と言えるレベルです。
こちらもRS専用の大径ブレーキは、車重が軽いこともあってそれこそ効き過ぎるくらいに感じるほどのストッピングパワーを発揮し、ステアリングフィールも素手で路面をなぞっているかのようにコンタクト性とダイレクトさにあふれています。またDSCが標準装備されているのも、いざという時にはとても心強し。もちろん制御はスイッチ1押しでギリギリの領域まで介入を我慢させるもよし(途中介入する仕組み)、7秒間スイッチ長押しの裏ワザモードを使って完全解除してFRらしく遊ぶのもよし。この状態だとRSのよく効くトルセン式LSDのおかげもあって、定常円旋回もいとも簡単にバッチリと決めることができます。
非日常的な事ではありますが、FRの醍醐味を味わえるクルマがどんどん減りつつある現在では、こういった遊び心もスポーツカーには大切な要素です。その点こういったユーザーに委ねる部分を残しつつ現代の時代の流れもしっかりと組みこんでいるあたりも、ロードスターというクルマの大きな美点の1つと言えるでしょう。
さらに注目したいのは、RHTの電動格納ルーフ。個人的にはオープンカーと言えば幌!とまだまだ思っているほうなのですが、このロードスターに関しては…クローズド時のスタイリングのまとまりの良さとラゲッジスペースを犠牲にしない実用性の両立、開閉時間の短さとその際の作動音の小ささ、またRHTのルーフオープン時が最も前後重量バランス的には50:50に一番近く、また重量物の移動差による挙動の変化も最小限。重量差は幌仕様と比べて50kgと決して小さくない数値ではありますが、クローズド時の遮音性もNC1のRHTよりさらに改善されていることもあって、さすがにここまで優位点があると幌よりもRHTの魅力度に軍配が上がります。単純にロードスターをFRクーペとして割り切って乗ってしまうのもそれはそれでアリ。
ここまで絶賛気味になってしまいましたが、最後の最後…このNCにはRHTがやはり似合ってるなぁ…と感じた時点で、個人的にはここで少し戸惑いを覚えてしまうのです。走りは最高に気持ち良く、質感も装備も快適性も◎。そう、もはや完成度が高くレベルが上がりすぎており、もはやこのクルマはロードスターであろうとしているけども、実際にはもっと格の全く違う別ジャンルの車に成長してしまっている事を痛感するのです。
例えば、それを象徴するのが価格。このRS・RHTの6速MT仕様で何もオプションがない状態で286万円。今回のテスト車のようにHDDナビを装着した状態での乗り出し価格は、350万円クラスになっているでしょう。もちろんベースモデルの価格はそれよりは下ですが、それでも幌仕様・Sの5速MTで233万円。内容を考えれば決してボッタクリ価格ではありませんし、クルマ業界全体のレベルアップと時代の流れを考えれば致し方ないのかもしれませんが、やはり今回改めてロードスターに乗りその魅力度に心底惚れ直しつつ、これ350万円か…と考えると、正直なところ高根の花という一言に尽きる、といったところです。
もちろん、それが悪いとは言いません。贅沢品とも言えるFR2シーターオープン、若者のクルマ離れが叫ばれる中、ユーザーの年齢層は自然と上がっていくでしょう。そうすればより速く、豪華に、快適に、という性能が求められるのは致し方ないことでしょうし、それが正常進化とも言えます。貴重なFRオープンスポーツが現時点で存在しているだけで幸せな事であり、今の自分のような貧乏学生な若造には無理だとしても、5年後中古車でもっと安くなっていれば、間違いなく欲しくなっているはず。
しかし、これはあくまでの「マツダロードスター」なのです。BMW・Z4を目指すクルマではありませんし、そうする必要も全くありません。アメリカでのマーケットを考えると必然的にこうなることは避けられなかったことでしょう。…しかし今、金融危機が襲い、環境問題が切実に叫ばれ、時代は劇的に変わりつつあります。この21世紀始めの10年で、成長こそ正義と信じられてきた20世紀の香りは、確実に薄まってきました。2Lハイオクで170ps、17インチの大きなタイア、軽量であろうとしつつ気がつけば1200kg近い車重、いまやゼロヨン14秒台で駆け抜ける俊足…果たしてここまでの性能が、今のロードスターが存在するがために本当に必要なものでしょうか?
実際に、日本の狭いワインディングを今回コペンと同行させた事で、それははっきりと実感できました。入門用にはバッチリと思っていたロードスターですが、いまやそのサイズ、重さ、速さは十二分に立派に成長しており、このNCでさえもう全開で飛ばせる場所は日本で確実に減ってきているのです。それを言えばGT-Rなんて…とも言えるかもしれませんが、あちらは日本が世界に誇れる最強のウェポンマシン。過剰性能があってナンボの世界…それはそれで相当に魅力的でありクルマ好きの心をくすぐってくれますが、ロードスターの世界には過剰性能はそのような似つかわしくはありません。
そんな素直にいい物をいいモノとして受け入れられない殺伐とした気持ちに対する答えを、マツダはすでに2008年のフランクフルトショーで提案していました。MX-5・スーパーライトバージョン。欧州に存在する126psの1.8Lユニットを搭載したこのモデルは、徹底的な軽量化により車重は1tを切る995kgを達成。もちろんコンセプトモデルとはいえ、ここまでのスパルタンさは逆にまた気軽なオープンスポーツを楽しめるロードスターの思想に照らし合わせると行きすぎの感もありますが、この1台には何かしらの今のマツダの叫び、そして次世代ロードスターへのなんらかの試金石となる気がしてなりません。
今の時流に乗っかって無理してエコを気張る必要はありませんし、その答えが燃費やハイブリッドだけだとは到底思ってもいませんが、人間も荷物もあまりたくさん乗せる必要もなく、軽ければ軽いほど喜ばれるライトウェイトスポーツは、もっともっとエコな存在であってもいいと個人的には思っています。別にエコを主張するからといって、それはスポーツやファン・トゥ・ドライブを犠牲にすることとイコールでは決してありません。つまりは、ロードスターというクルマは、実に未来へ向けても可能性の広さを感じさせてくれる1台。。。なのかもしれません。
Less is more.“失う事は、得る事である。”
自分が思うこれからの日本車の在り方を問う1つの考えが、この一言です。
この流れに、まだ見果てぬNDロードスターの姿が…あるのか。果たして。
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マツダ | 日記
Posted at
2010/11/18 23:27:40