さて、今回試乗レポートでお届けするクルマは、ちょっとスペシャルなこの1台。今夏から日本に導入された、ルノーウインドのインプレッションをお届けします。
今回は日産レンタカーの3時間レンタル無料キャンペーンを利用して、けど3時間では全然足りないので(笑)ちょっと追加料金をお支払いして、秋の晴天の中150kmほど走ってきました。いつものロングランよりは短いものの、高速・ワインディング・街乗り…できるだけ様々なコンディションで試す事に。
さぁ、せっかくの機会なので、走りの印象は後ほどにして、ウインドの紹介をたっぷりといきましょう。動き出す前の段階から、このクルマは語るところがたくさんあります(笑)
このクルマのハイライトとして、とにかくまずはこのデザイン。下半身は普通のコンパクトカー、でも上半身はフェラーリ458スパイダー!?っというのは少し大げさですが、ずんぐりむっくりなプロポーションなのにこの楽しげな雰囲気、さすがおフランスのクルマ。でも実は、このウインドのデザイナーさんは日本人だったり。個性的で街中でも異彩を放ち、好きな方にはたまらないでしょう。個人的には、20年遅れてフランスからやってきたCR-Xデルソル、をどうしても連想してしまいますが…(笑) ちなみにお値段、255万円。輸入車と考えると安い!と思うか。…はたまた同セグと比べると高い?と感じるか。
ボディーカラーはグリ アルティカMと呼ばれるシルバーですが、どこか少しブルーも入っているような、とても素敵な色。写真だとそう見えなくもないですが、メディア向け広報車でよく見かけるブルー マジョレルではありません。
ベースとなったのはルノートゥインゴ。ただ、見渡す限りエクステリアで共通パーツはゼロ。ということで駆動方式はもちろんFF。このあたりは先ほどのデルソルに加えて、日本導入はされなかったオペルの2代目ティグラなんかを思い出させます。ちなみに開発はモータースポーツ専門であるルノースポールが担当。ルノースポールと言えば個人的には、フロントウインドなしのルノースポールスピダーを思い出します。ひょっとしてウインドにもいずれこんな仕様が…ってことは、まぁあり得ませんね(笑)。
ボディサイズは全長3835×全幅1690×全高1380mm。実際に対面すると、写真で見るよりかなりコンパクトに感じる、というのが第一印象。国内に導入されるのは、これまたトゥインゴのゴルディーニ ルノースポールと呼ばれるスポーツモデルと共通の1.6Lエンジン+5MTの組み合わせ。そして左ハンドル。
ちなみにイギリス用に右ハンドルの設定はあるものの、本国フランスでもMTオンリーの設定だとか。トルコンATやCVTはともかく、ロボダイズト式の2ペダルの設定もなし。見た目の可愛い雰囲気と違ってかなりのオトコ仕様。日本で左ハンドル+MTというのは売上的には絶望的な組み合わせなものの、クルマ好き的にはミーハー外車好きユーザーが寄り付かなくて好都合、かもしれません。とりあえずこの形でも、日本導入を決めたインポーターの英断に拍手。
特徴的なドアノブを「指にひっかけて」室内へ。エクステリアに比べれば、インテリアは比較的地味。グレーの単色で華やかさや高級感はありません。質感はこれくらいでもいいので、さらにヴィヴィッドな内装色の設定を望みたいところ。唯一スポーティさを主張するのが、文字盤が黄色のタコメーター。しかしこの3眼式のメーターは結構奥まった位置にあり、視認性はイマイチ。写真もライトONの状態でこれ。
ステアリングはセンターパッドがどデカくてちょっとダサいものの、グリップは太めで握りやすさは○。これだけデカいにも関わらずホーンを鳴らそうとしてもウンともスンとも言わず。実はホーンボタンは左側のウインカーレバーの先端に装着されています。エアコン・オーディオの操作表示は分かりやすく、そして何よりもステアリングコラムの右下の装着されている、ルノーご自慢のサテライトスイッチがものすごく使いやすい。ただオーディオ交換などは考えない方がいいでしょう。ナビ装着も同じく。今回の車両のように、ポン付け可能なPNDナビで済ませるのが一番。ただこの位置だとちょうどハザードボタンと干渉しますが、そこは我慢(笑)。何よりも今回サテライトスイッチの利便性の高さにびっくりしました。汎用ナビでも復活できるアタッチメントが登場する理由も頷けます。
さて、ルノーウインド最大の売り、屋根をオープンにしてみましょう。まずは頭上のレバーを90度回転させてロック解除、シフトレバーの前、ウインドー開閉ボタンに挟まれた真ん中のノブを押すと…リアトランクフードがガバッと開き、ルーフ後端を軸にしてクルッと180度回転して、フードの中にすっぽりと収納。フード閉。時間にしておよそ10秒ちょい。
折りたたみのメタルトップよりもはるかに簡易的、むしろタルガトップに近いのかもしれませんが、実用オープンとしてはこれでも十分。とっても気楽に、簡単に、素早く、そして周囲へのアピール度も満点の目立ちっぷり(笑)。モーターの作動音がとても小さくて静かな事も◎。
唯一、まるでトランスフォームするようにルーフとトランクフードがそびえ立つので、高さだけにはご注意を。ガレージでいざオープン!っとしようとして、上にガンっ!と当たってボディを痛めてしまうかもしれません。事実この車両は4000kmほど走行していましたが、フードの端には痛々しい傷がすでに…(汗)
ウエストラインも高く、この開閉方式ではリアガラスもそのまま残ってしまうので、オープンカーなのに解放感よりも包まれ感の方が大きいのは少し意見が分かれるところかもしれません。ただ個人的には、一番オープンカーの雰囲気に重要なフロントのウインドスクリーンが、結構寝ているものの、長さが頭上まで迫ってくるわけでもなく、比較的低い位置で短く切れているので、これでもオープンエアの満足感はそこそこ得られる…むしろ風の巻き込みの少なくて、なかなかこれはこれで実用オープンとして結構いいバランスなのでは?と感じました。爽快感は十分です。
ただ、良い部分だけではなくもちろん弊害も。完全5ナンバーサイズで手軽にリッチなオープンカーの雰囲気を味わえるウインドですが、視界に関して言えばこれが一級スポーツカー並みになってしまうのがウインドの欠点。特に後方視界の悪さは相当なレベル。見た目的にはかっこいいものの、装着されているリアスポイラーが後方の見切りの悪さをさらに助長します。バックでの車庫入れなどは相当に慎重になった方がいいでしょう。また斜め後方の見切りも悪く、そして最後に極めつけ、サイドミラーの横方向ガラス面積の小ささも視界の悪さに拍車をかけます。この部分に関してだけ言えば、それこそ本当に458スパイダー並みかもしれません…(笑)
もう1つ。ルーフが収納されている状態だと、トランクフードの開閉がとっても重くなるのも欠点として挙げておきます。新車状態でこれなら、後に経年変化でダンパーが抜けてくると…ちょっと恐怖です。ただ、ラゲッジスペース自体はかなり広くて十分に実用的。オープン・クローズドに限らずスペースが変わらないというのも嬉しいところ。奥にルノースポール開発を匂わせるリアタワーバーが装着されていますが、よほど大きな荷物をギュウギュウに詰め込まない限りは干渉しないので、実用性が損なわれることはまずないでしょう。
さて車両の紹介はこのあたりにして、いよいよ運転席へ。23歳の若造クルマオタク、左ハンドル+MTの組み合わせは初めてではないのですが、かなーり久しぶりなのでちょっと緊張。先述した視界の悪さはどうにもなりませんが、いざ運転し始めるとすぐに慣れてリラックスして走りに集中することができました。動き出しで右側にシートベルトを探したり、ドア側にシフトノブを探したりは何度かしましたが…(笑)。ただウインカーとワイパーは、右ハンドルで左ウインカーだと、しっかりと意識持ってないといけないんですが、左ハンドルの輸入車ならごく自然に慣れるんですよね。不思議です。
さて動き出す際に、まず困ったのがシートポジション。ベースが普通のコンパクトカーなので仕方ないのですが、着座位置はもう少し下げたいところ。女性ユーザー層も当然フランスでは考えているでしょうから、ちょっと自分(178cm)は想定としては大きいのかも。まぁそれはいいとして、やはりステアリングには是非テレスコ調整が欲しい。チルトのみで、しかもステアリング角度が結構寝ているので、どうしてもステアリングを抱え込むような印象になってしまいがち。ステアとシフトに合わせると足が窮屈、クラッチミートしやすい足位置に合わせるとステアリングとシフト(特に5速位置)が遠い…という悪循環に悩まされ、なかなかベストな位置が決まりませんでした。まぁあくまで「スポーツカー」ではなく「スポーティな雰囲気を楽しむカー」なので贅沢は言えませんが…。
しかし、このあたりの項目。国産車ならそれこそジャーナリストさんたちにボロクソに近い形で批判されるのに、ウインドの試乗レポートではこれに関しての記載は、いろんな媒体でも一部除いてほとんどなし。細かい事気にしないで楽しい雰囲気ならそれでいいじゃーん!ってことなのでしょうか?はっきり言って欧州のクルマになると途端に評価が甘く盲目になりがちな評論家さんたちが今でも目に余るほど多過ぎる…っと、脱線してきたので話をウインドに戻しましょう(笑)。
なぜシートポジションに文句が出たかというと、そのシート自体の出来がもう素晴らしかったから。たっぷりとしたサイズで窮屈な印象を抱かせず、しかしながら座面含めてサポート性は抜群。体重を受ける面圧の分散が見事で、惜しいといえばオープンカー必須のシートヒーターが設定されていないくらい。これでポジションさえ合えば…
さて、エンジンスタート。シフトレバーを1速に入れて動き出します。シフトフィールはコクコクと節度感があってなかなかいいのですが、ちょっと前後方向のストロークが長い&横方向(2→3、5→4など)の動きが渋い事が気になりました。後者は個体差かもしれません。クラッチは軽く、またミートポイントがかなり手前。ちょっと踏み込めばすぐ切れる、という感じで、いったん慣れてしまえばとても扱いやすいものでした。
ペダル配置は、左ハンドルの利点で全く違和感なし。どうもイタフラ系はまだ右ハンドルにするとこの部分には違和感が残る傾向なので。クラッチ横の足置きスペースも十分。そしてご覧のように、いかにもヒール&トゥしやすいですよー的配置(笑)。ただ、アルミのペダルがよく滑るのには参りました。特に雨の日には要注意。靴との相性もしっかり確認する必要がありそうです。
トゥインゴのゴルディーニ ルノースポールの共通の134psを発生させる1.6LDOHCエンジン。でも車重が1190kgと少し重めなので絶対的な動力性能は並。HVでも過給機付きでもない、山型トルクカーブを描く古典的NAのキャラクター。けど、むしろ今では新鮮味を感じるくらい。しかもちょうどレッド付近が最高出力発生ポイントなので、上まで回しても頭打ち感がないのも清々しい印象です。もちろん、そんな頑張って上まで回さなくても、ちょうど2500回転あたりから「クォーン」と気持ちいい音を奏でてくれるので、街乗り領域でも気持ちよさはしっかり味わえます。過度に排気音で聞かせるんじゃなく、いかにもエンジン音聞こえます!という素朴さも好印象。低速域の粘りも相当によく、アイドルミートは楽勝。渋滞中でもさほど苦にならず。それこそ、教習車のコンフォートよりよっぽど乗りやすい(笑)。
おそらく、多くの人が気になるのは高速域での走りでしょう。動力性能はもちろん十分、しかし如何せんギア比がかなりのクロス傾向。1速で50km/h、2速で90km/h…と、ワインディングを楽しむなら美味しい配分なのですが、5速でも高速80km/hですでに3000rpm、ちょっとペースを上げて巡航…というものならあっという間に4000rpm。さすがにちょっと回りすぎでせわしない印象。事実、この速度域なら5速ホールドでも追い越しラクラク。けど、常に急かされているような気がしないでもありません。もっと排気量が小さく、パワーが少ないのならこの設定でも分かりますが、動力性能とのバランスを考えても、そしてクルマのキャラクターを考えるとやっぱり巡航用の6速が欲しいところです。
すべての速度域を通して素晴らしいのがステアフィール。電動とは思えない初期操舵時のナチュラルで確かなと手ごたえとインフォメーション性の高さ。トゥインゴよりは若干スローな設定になっているものの、それでもワインディングで流す程度なら十分にクイックに反応してくれます。高速時でのステアリングの据わりも文句なし。操舵力も、軽すぎず重すぎずで、まさにベスト。
足の設定はストロークがとってもたっぷりとられており、4輪のロードホールディングの良さ、接地性変化の少なさはお見事。初期入力のいなしの良さは圧巻で、路面の細かなアンジュレーションくらいはすべて足さばきだけで遮断してくれます。このあたりはフランス車の真骨頂。こういう項目ではプジョールノーシトロエンは本当に不思議に思うくらいに上手い。
しかし、それが故に、このウインドの場合は、足がヒタっと地面に接地をし続けようとしてくれる分、特にリアのピッチ方向の動きが少し大きめ…特にブレーキング時で前荷重になっている時に、若干フワッとするのが少し気になりました。ワインディングでは、例えばRが一定の1つのコーナーを旋回する分には、ロールの進行スピードも適切で絶品なコーナリングを見せてくれるのですが、S字など切り返しで荷重が大きく左右に移動するようなシチュレーションだと、フロント軸が旋回体制に入ってから、少しワンテンポ待ってリアが追い付いてくるような、そんな動きが少し見られました。
おそらくこの問題は、セットアップされたタイアに原因がありそう。装着されているのは、195/45R16という立派なサイズのBSポテンザRE050A。このタイアのグリップ力と、サスペンションの設定…ここが少しアンマッチのように思えました。つまりはサスの伸び縮み方向の容量はたっぷりとしていて、グリップ力がとても高いタイアを履いていて、路面とタイアはビタっと接地。その入力の反応にリアサスの横剛性が足りない…追い付けていない。ルーフを閉じると、まだ少しは良い方向になるのですが…。ちょっとタイアだけが路面にしがみついて頑張りすぎてしまっている印象。このタイアに合わせるならもう少し足を固めた方が…というのはお門違いで、ちょっと45扁平のポテンザがこのウインドのキャラクターに対しては少し立派すぎるんじゃないか?ちょっとタイアが勝ち過ぎているような印象を受けました。もちろんその違和感とふわつきにさえ慣れれば、びっくりするくらい速く、ワインディングを駆け抜ける事が可能なのですが。もちろん、そんな飛ばすクルマでもないのでここまでの性能は正直いらない(笑)
また、乗り心地に関しても、初期の小さな入力での足さばきは本当にお見事なのですが、入力が大きくなってくると、サスのストローク自体はたっぷりとしていて、足もよく動いているのに、途端にドタバタとバネ下から突き上げるような硬さに見舞われます。これはルーフの開閉状態に関わらず同じ印象でした。
これらから推測して、今現状のタイアに合わせたセットアップなら、屋根はできるだけ開けずに(タルガといえども、やはりオープンにするとボディの剛性感は確実に変化を感じ取れます)、もう少し足を固めて…というのがベストの方向かと思いますが、いくらルノースポールと言えども、それではこのウインドのキャラクターとアンマッチ。それを考え足を柔らかめにしたのなら、それに合わせてタイアの銘柄もセットアップしなおしてバランスを取らねば!
個人的には、舵に対する反応やグリップレベルを現状より少し犠牲にしても、それでも十分に軽快さは味わえると思うので、このしなやかな足に合わせて55扁平15インチくらいにインチダウン。また銘柄も少しコンフォート系にして、フットワークと乗り心地をもう少し快適性寄りにして、乗り味をセットアップしたら面白いんじゃないかな?と思いました。その方が、オープン状態で走った時にクルマ全体のバランスはよくなりそうです。
ルノースポール開発ということで、走りは実にしっかりしていて、速い。しかしそのためのセットアップが、ウインドの性格に合っているかといわれると…?タイアのチョイス、エンジンの味付け、ギア比、乗り心地、…少しそれぞれが良いとこ取りをしようとして、ちょっとバランスが崩れているような印象を受けました。これがウインド「GT」であるなら分かりますが……
ちょっと辛口気味になってしまいましたが、それはもうちょっとのほほんと気楽に穏やかに楽しめる手軽なオープンカーとして、このウインドを楽しみたいからと思ったから。ここまでのパワーはいらない…もっと遅くていい。16インチなんていらない…限界も低くていい。ホットハッチ要素がどこか抜け切れてない。もちろん、今のままのセットアップで、ゆっくり楽しめばそれでいいんでしょうが、気持ちいいエンジンと、クロスしたMTと、ポテンザを履いてたら、どうしても飛ばしたくなるのがクルマ好きの性…(笑)
ウインドがとてもいいコンセプトをもっているからこそ、その雰囲気の走りのリズムのアンマッチ感が気になったので、今回あえて提案気味なレポートとしてまとめてみました。
と、いろいろグダグダ言いつつ、とっても楽しめた6時間150kmのドライブ。参考程度に、高速+ワインディング7割、市街地3割で走った燃費は13km/hほど。公表のモード燃費とほぼ同等でした。6速MTになればもう少し良くなる?
…っと、ここで気づいたのですが、実は本国仕様には、この1.6LNAだけでなく、この下にエントリーモデルとして、トゥインゴGT用の100psを発生する1.2Lターボ仕様もあるんだとか。なんだ、これでいいじゃないか(笑)
というわけで、こんな楽しい機会を設けてくれたルノージャポンと日産レンタカーに全力で拍手!ありがとうございました。そのついでに、本国100ps仕様の1.2Lターボ、足回りは現状と同じでタイアだけ15インチの大人しいやつにして、加えてできればやっぱり右ハンドルで、お値段-20万円の235万円!こんなパターンのウインドもどうですかね?ルノージャポンさんご検討ください。(笑)