ご無沙汰の試乗記更新です。FT-86Ⅱにがっかりさせられたところで、サイオンFR-Sを見せられて再び鼻息が荒くなり、かと思えば自分の「青春バイブル」でもある、ベストモータリングがついに休刊との悲しいニュース…あぁ、筑波バトルがもう見られないなんて…。
さて今回のネタは、「スバル最後の軽乗用」となった、ステラのインプレッションを。
東日本大震災が起こった3月11日。その2日後の3月13日にステラの生産終了のアナウンスがあったのですが、当然未曾有の大災害の報道で、大きく話題になることもなくひっそりと終焉を迎える事となってしまいました。一応ステラの名前も、ムーヴのOEM供給を受けて残るようですが…。ステラはムーヴ、ルクラはタントエグゼ、プレオはミラ、ディアスはアトレー…サンバーの運命も、もうすぐ終わりか。(涙)
そんなスバル軽の歴史の始まりはもちろんてんとう虫ことスバル360。今回のステラで軽乗用53年の歴史が終焉を迎える事となります。
そんなステラ。少しモデルを振り返ってみると、「スバル軽の歴史の最後を飾る渾身の一作!」…っというわけでもなく、ご存知の通り、プレオからのモデルチェンジで勝負に出たスバルが出したR2。これがもうものの見事に大コケし、そのプラットフォームをはじめとして、できるだけパーツを共有しつつ突貫的に仕上げたトールモデル…なんて言い方をしては失礼ですが、事実ではあります。
さて、そんなこんなを言いつつ、実車の話へ移っていきましょう。テスト車両はモデル末期時の特別仕様車でもある「Lブラックインテリアセレクション」。オートエアコンやスマートキー、ブルーイルミ付(!)オーバーヘッドコンソールなど、装備充実で約104万円という、お買い得…叩き売り?グレードです。
スタイリングは、R2で見せたチャレンジングさ…を全て捨てきった、四角いシンプルな造形。あぁなんて両極端。けど、スバルはこっちのほうがしっくりくる。そう思わせてくれます。事実ボンネットが長めで安心感があり、グラスエリアが広くて視界は良好。悪天候時のテールランプの視認性も◎。R2置き土産のエンブレムごとのリアゲートハンドルなども、そういった理屈に合わせてデザインされたもの。と同時に、シンプルさの中に美的センスを感じる、というところまでいかないのがスバルらしいところ。ただひたすらに無骨で、不器用で、洗練度ゼロ。けどそれでいいのだと思います。変にデザインモチーフを捨てたり、ヘッドライトの形をいじくったりして、中国車以下の酷いデザインになっちゃった現行レガシィのように余計な事されるよりはよっぽどいいわけです。笑
さて、ドアを開けてシートに座ります。目の前に広がる光景はR1/R2そのもの。価格を考えれば、見た目もスタイリッシュで質感も上々。このあたりは「失敗作」が目指したプレミアム感の演出の恩恵を授かっています。少なくとも、現行のマーチやヴィッツよりはるかにマシ。まぁこの2台は、今の軽自動車たちにほとんど勝てないみすぼらしい室内になってしまっているというのもありますが…。
R2からのポン付け流用…などと簡単に言えるわけもなく、このスクエアなボディにこの優雅なラインのインテリアを組み合わせるのはやはり相当苦労したんであろうなぁ、と思わせる処理がAピラー付近にチラホラ。また、これまたR2時代に相当言われたんであろう、小物入れの少なさを改善するために、見てくれを犠牲にしてまでも色々なところにポケットを用意するいかにも日本的らしい努力の後が散見できます。
そんな評価の高いインテリアの中で、唯一、惜しい!と思うのがこのステアリング。これはR2が出た当初から言ってるんですが、見た目的に実に貧弱な2本スポークのステアリング。どうしても商用車を思い出させてしまうその見た目。グリップにはディンプルやコブがあったりでとてもよく出来てはいるんですが、どーも見た目が軽トラに見えて仕方ない。このステアリングデザインだけでインテリアの雰囲気を大きく落としているように思えてなりません。(※筆者ステアリングフェチのため、少しこだわりすぎの可能性あり) スバリストなステラオーナーの皆様、MOMOステに替えちゃいましょう。笑
さて、質感だけなら最近の他社軽だって全然素晴らしい。では室内でスバル軽の良さを感じる部分はどこか。これはもう即答します。シートです。
もちろん、「500km連続で走っても全然へっちゃら!」的な素晴らしいものというわけじゃないです。自分は400kmほど乗りましたが、普通に腰は疲れましたw しかし、他社軽と圧倒的に違うのは、そのサイズ。177cmの自分が座っても全く違和感なし。キチンとホールドしてくれるし、ヘッドレストもちゃんと届く。さすがにポジションは窮屈ではありますが、成人男性がキチンと座れるサイズのフロントシートを備える軽、って、実はほとんどないんですよね。その点ステラは合格。さすが運転者目線。
しかし、この弊害がどこかに同然出ているわけではありまして、それはお察しの通り、リアの居住性。もちろんこれはシートの影響だけではなく、パッケージングそのものに問題があります。「最近の軽は、本当に広くなった!」なーんて言いますが、残念ながらステラにはこの言葉、当てはまりません。同ハイトールクラスの軽と比較すれば、2世代前レベル。プレオ時代から大きく変わっていない、と言ってもいいでしょう。もちろん背が高くなって解放感はありますが、このあたりR2プラットホームの弊害がモロに出ている部分。4気筒エンジンを収めるエンジンルームの大きさも、影響しているのでしょうね。スバルは「後ろのチャイルドシートに座らせた子供との距離が近い!」なんていうとんでもない開き直り宣伝文句を言っていたのが、懐かしい。笑 デザイン的に安心感のあるボンネットの長さですが、幼い子供のいるママさんにはなんら不利要素でしかありません。
「ぐちゃぐちゃ言うな、スバル軽の本髄は走りなんだよ!」というスバリストの方からのブーイングを感じまして、さてここからはいよいよ走りだします。今回のテスト車はNA、EN07のDOHCエンジンは54psを絞りだし、それを伝統のCVTで伝えます。タイアサイズは155/65R14、幅は常識的なものの径の立派さは小型車並!最小回転半径4.7mも小型車並。(笑)
しかしそんな立派なサイズのタイアを、あろうことかNAの軽だというのに、発進時のラフにアクセルを開けるとなんとたまにスキール音!がするほどの、あぁなんという抜群の発進加速性能の良さ。さすがに4名乗車では苦しさが見えますが、1人で乗っている限りはアクセル開度には常に余裕アリで、相当に速い大阪中央環状線の流れにもスーイスイ乗れちゃう余裕ぶり。ターボ軽の速さに驚いた事は何度かありますが、NA軽でここまでの性能を感じたのはこれが初めて。ワゴンRも、ムーヴも、ライフも、それなりにやはりNAでは根性が必要でしたが…さすがスバル。元気なエンジンとそれを効率よく伝えるCVTの出来の良さ。これでスーチャーモデルなら…さぞかし楽しそう(笑)ホント、これには驚きました。
そしてもう1つ、特筆すべきは乗り心地の良さ。これはさすが4輪独立可変サスペンションの真髄、と言ったところでしょうか。まず感じるのはストローク量の長さ。おかげで結構なスピードでジョイントを通過した時も、サスが底付きする感覚がなく、あくまでしなやかにタタンと駆け抜けていきます。それに対してのボディのキャパシティも十分。タイアのオーバーサイズ感もなし。電動パワステのフィーリングもナチュラルで、巡航状態では室内はとても静か。あぁなるほど、確かにこりゃ凄い…スバル軽の実力をまざまざと実感。
…さて、褒めすぎたところで(笑)、クルマ好きの視点から少し離れまして、一般的な視点で見ると…これが、どんどん荒が目立ってくるんですよねぇ…(苦笑)
まず、NA軽としては相当なレベルの動力性能。が、この走りを味わっている時、アクセルをちょーっと踏み足すと…まぁこれが、うるさいったりゃありゃしない。個人的には「おぉ!高回転まで回しても振動が少ない!そしてこのサウンド!さすが4気筒ぉ!!」なんて興奮する要素もありますが、一般的にはこれは単に「ガーガーうるさい」。はい終了。というところでしょうね。巡航状態が静かなだけに、この落差が余計に目立つというのもあります。極端にCVTのセッティングが敏感だったりするわけではないので、これは単にもうエンジンの発するノイズがバカでかい。それに対する静粛性能の不足。なんでしょう。
そしてもう1つ、走りに関して。乗り心地に関して大変好印象を抱くものの、フットワークとなると印象はどんどんネガティブな方向へ。さしてステアレシオがクイックでもないのに、まぁーとにかくロールが大きい。そしてロールスピードが速い=ドライバーや同乗者に不快なロールに。下で踏ん張っても、上側のボディが動きを抑え切れていないというか、荷重がかかり沈んでいる方のサスから反発を喰らうような、そんな不自然な動きがチラホラ。例えるならば、クルマのシャシーとボディがまるっきり別々の組み合わせになっているような…って、実際そうなわけですが(苦笑)。
ペースを上げると、リアの接地性の良さやステア系の剛性の高さ、ブレーキのフィーリングの良さ…なんかにも感激もしましたが、このあたりはちょっと非現実的…もう少し日常域で気持ち良さを味わえるフットワークが恋しいところ。ちなみにブレーキに関しては、踏力に対して減速Gの立ち上がりが早く、ロックしそうになるまでタイアギリギリの性能まで使え…ろ、ロック?と運転を始めてすぐに調べてみると、なんとABSレス(!)仕様車である事が判明。以後、大人しく運転w お買い得仕様だけども、せめてABSくらいは、レンタカーでもオプション装着しといてください…^^;
スバルがこれなんだから、他の軽なんてもっと酷いんだろ?と生粋のスバリストは言うかもしれません。が、もちろんクルマにもよりますが、少なくとも他社の多くの軽はフットワークに関しては、もう少しマトモです。ようするに、素材はいいのですが、それらを生かし切れていない。セッティングの問題かもしれませんが、結局は他メーカーのトーションビームサスのほうが、熟成や改良を重ねて、よっぽどこのあたり手慣れています。ホント、普通のワゴンRでも、フットワークに関しては現行型とかは結構マトモですから。そのあたり、カスタムはもう少しセッティングが違うのかもしれませんが…。
えっ?軽にそんな贅沢な性能を求めるなんて不相応じゃないかって?いや、それを言うなら、別にスバルの軽じゃなくったっていいわけです。軽に贅沢な走りの性能を求めてスバルをあえて選ぶんですから、このあたりはしっかりしておかないと。いくら走りがよくてスムーズでも、このノイジーさはかつての軽の悪いイメージを同乗者に再燃させてもおかしくはありません。
そう、ここが最大のポイント。技術は僕たちのようなクルマオタクの心をくすぐってくれますが、果たしてその良さが、街中を普通に走るママさんたちに伝わるのかどうか。技術とは、それに対して詳しくない人が実感できて、役立って、初めて技術と言えるのではないか。
こう考えた時に、よく走る…けどうるさい、そして背は高いけど室内は広くない。やっぱ、他いっちゃうだろうなぁ…というのが、素直な感想なわけです。もっともステラをもってきてもそうですから。R1R2の頃を比べると、スバルの営業さんはさぞかし厳しく辛い思いをしたことと思います。04年にR2の登場と同時にプレオは商用モデルを残して生産終了…するつもりが、結局そのままズルズルと延び、翌年にはなんと乗用グレード復活(!)までして、結果07年まで乗用グレードが存在し続けていた事を考えると、やはり意欲的モデルで個人的にも好きな1台ではあるのですが、R2は本流を目指すべき1台ではなかった、という風な結論になってしまいます。R1だけじゃ、採算的に無理だったのかなぁ…。
思えば、その2004年の時点で、プレオの正統な後継車としてステラを開発していれば…たら、ればは禁句であり、実はもうとっくにスバル軽撤退は決まっていて、最後の最後のR2を理想の軽自動車像としてブチ上げたかったのかもしれませんが、この間の2年の月日は、あまりに大きいように思えてなりません。プレオを本格トールボーイに分類しなければ、93年のワゴンR登場からステラまで、13年。ヴィヴィオを作っていた技術者魂が邪魔をしたのかは定かではありませんが、あまりに遅すぎた。そうそれはまるで、ミニバンブーム時代にレガシィのユーザーを散々取りこぼし、そしてそのブームが完全に去った後にようやく出てきたスバルの7人乗り「エクシーガ」の登場の顛末にも共通するものを感じます。ちなみにこちらも奇しくも初代オデッセイ登場から、14年。あぁ、なんたる無情…。
けどそれでも、こだわりある実力派な1台。魅力的である事に変わりありません。散々文句も言いつつ、ダイハツの軽に六連星のエンブレムだけ貼り付けて、スバルのショールームに佇む姿の、あぁなんと哀れな事か…。寂しくて、惜しくて、なりません。
てんとう虫から続いてきた、スバル軽、百瀬イズムよ、永遠に。。。