
さて、今回試乗レビューをお届けするのは、日産のジューク。デビューして1年以上が経過していますが、改めて今回たっぷり乗る機会を設ける事ができたので、レポートしたいと思います。
まずこのクルマを語るには、とにかくそのデザインから始めなければいけないでしょう。とにかく変な?奇抜な?強烈な?そのルックス。好き嫌いは別として、明らかに最近の国産車では有り得ないほどのその見た目の個性の強さ。けども、それが故に印象に残るのかもしれませんが、街中でやたらよく見かけるような気がする…?それもあながち間違いではなく、登場後順調にセールスを重ねているようです。反面、そういえば、同時期に登場し、性能も上、車格も上なのに価格はほとんど同じ…な三菱のRVRは、ほとんど見かけません。
良くも悪くも好き嫌いがはっきり分かれるジュークですが、その個性の強さが想像以上に受け入れられた印象。特によく思うのが、意外と年齢層が高いユーザーを多く見かけること。派手な色のジュークを、おじさんおばさんが運転という…実際購入者の年齢層も、20代から60代付近まで、見事に幅広い分布なのだとか。最近流行りの絞り込みマーケティングで、開発ターゲットユーザーを”30歳独身のイギリス人男性 ウィリアム。”という超ピンポイントに絞り込んで開発が進められたジュークが日本でこういう結果に…つくづくクルマの個性とマーケティングの奥深さを感じます。
加えて、例えば上を見れば、ムラーノであったり、エクストレイルであったり、デュアリスであったり、根強い人気を集めているSUVの兄貴分もあり、それらのコンパクト版…というデザインスタンスで登場させれば、ある程度は確実に…なのですが、その人気にあやかる事なく、さらにチャレンジをしてくるあたり、今の日産のデザイン部門の勢いを感じさせてくれると言えるでしょう。
フロントフェイスは、まるで「顔」。眉毛部分がポジションとウィンカー、グリル内蔵の目玉部分がヘッドライト。あまり目につかない下回りの樹脂部分もしっかりデザインされており、スキを見せません。左ドアミラー下部分に装着されている2面ミラーのおかげで、補助ミラーが装着されないのも○。リアビューはZ風のテールランプをボディラインに上手く溶け込ませているあたり、その造形とプレス、生産技術に関しては見事。ただ、実際にブレーキとウィンカーが点灯するのは下部分だけで、Zのように光らずダミー部分が多いのは価格を考えれば仕方ないところか…LEDでも埋め込めば、夜での後続車へのアピールもアップしそうです。
さて、奥歯に物が挟まったような物言いになりましたが、はっきり言って出た当初からこのジューク、僕自身は受け入れられない側の人間でした(苦笑)。しかしながら今回乗ってみて…印象は一変。そのあたりを、順に追ってレポートしていきます。
ドアを開けてシートに座ります。車高は1565mmと立体駐車場アウト(アーバンセレクションは-15mmで適応可能)な微妙の高さではありますが、乗り降りのし易さで言うとこれが絶妙の値。このあたりもシニアユーザーの受けがいいポイントかもしれません。
シートはたっぷりとしたサイズで、ホールド性もなかなかのもの。目の前には視認性と質感に優れる大径メーターと、これまたZを思わせるグリップの太いスポーティなステアリング。テレスコ調整が欲しいところですが、比較的満足できるポジションを取る事ができました。先ほどのフロントフェイスの「眉毛」部分がドラポジ状態から見える事もあり、見切りは良好。これは意外な事だったのですが、これだけデザインコンシャスなクルマなのに、全方位視界に関して大きな犠牲になっている部分がないのはお見事なポイントです。
また、シートリフターの調整量がかなり大きめで、少しアップライト気味にすれば視界もさらに良くなり運転し易いポジション、逆に思いっきり下げると足を投げ出し周りに包み込まれるような、そんなスポーティな印象を抱かる…といったように、シート調整ドラポジ次第でかなり違った雰囲気を味わわせてくれる、これは新型エルグランドにも共通したポイント。アイポイント自体は高いのに、その印象を極端に抱かせないドラポジが取れる…というのは、高速移動時などに強い味方になってくれました。
さて、インテリア上でジューク最大の見せ場となるのが、バイクを思わせる派手なセンターコンソール…なのですが、テスト車は地味なシルバー塗装で、あまり大きなインパクトはなし。もちろんこちらの方が落ち着いてて良いという人もいるでしょうが、目立ちたい人ならやはり赤をチョイスする事をお勧めします。カップホルダーに加えて、前方には横長の平べったい滑り止めゴムが配された収納スペース…これは最近流行りのスマートフォン置きにバッチリの位置。さすが、よく考えられています。
もう1つの大きな見せ場が、インパネ上に配置された「インテリジェントコントロールディスプレイ」。普段はこのようにエアコンモードにしておきボタンを操作。で、ちょっと走りのモードを切り替えたいなぁー…と思ったなら、右側のドライブモードもポチっ。そうすると…
なんと、先ほどのボタン配置はそのまま、ボタンの操作内容自体がそのまま瞬時に入れ替わってしまうというカラクリ。そのボタンの操作や見た目の質感を含めて、いやーお見事。これは本当によく出来ています。キレイな液晶ディスプレイは単体では見やすく、エアコンやアクセル操作に伴って色々と変化してくれるのも実に楽しい。
…が、最大の欠点。それはこの装着位置自体。特等席はナビに占領されてしまっており、この低い位置では完全に視野を移動させる必要があって、運転中全く視界に入らないというのが実にもったいない。発想自体は大変いいのですが…これでは完全に宝の持ち腐れ。その事を気にさえしなければ、ドラポジ状態からハザードスイッチを含め、シートから肩を外さずに全てのボタンが手が届く範囲で操作できるというこのあたりの空間設計は非常によく出来ています。それだけに…ナビの位置を含めて、もうワンプッシュ挑戦してほしかった。
もう1つ、派手な内装の雰囲気の中で、唯一シフトノブ周辺だけがデザインに置いてけぼりを喰らった印象。1.5Lで価格を考えるとまぁ贅沢なお話かもしれませんが…1.6ターボ仕様だとマニュアルモード仕様となるので、少し華やかさは出るでしょうか。
アルファ風のピラー内蔵型ドアノブを操作してリアシートへ。さすがに開口部は狭く、乗員性はちょっと犠牲になっている部分。しかしいったん乗りこんでしまえば、見た目の印象よりも全然狭くない…むしろ十二分なスペースがそこには広がっています。グラスエリアの関係で閉鎖感は少しあるものの、頭上空間は適度に取られており、ひざ前スペース自体は結構厳しいのですが、足元付近の余裕と前席下への足入れ性が非常に良いので、座っていると不思議と狭さを感じさせません。前席を含め、しっかりパッケージングを煮詰めたなという印象がとても伝わってきます。
ラゲッジスペースはフラットなのですが、開口部自体が高く荷物の出し入れは大変。また奥行き自体はかなりあるのですが、いかんせんDピラーは思いっきり寝かされているので、ここはハッキリと犠牲になっている部分。これに不満のある人はもう1サイズ大きいデュアリス買ってください、という割り切りでしょう。ノートのラゲッジを見て全然狭くない、と思う方なら不満はないかと思います。
テスト車両は15RX。1.5Lの上級モデル。ターボモデルと共通デザインとなる17インチタイアとアルミはオプションで、ベースは写真の16インチ。銘柄は完全サマータイアのヨコハマのdbなのは16・17インチとも同一。走りのバランスは別として、迫力満点のフェンダーに合わせるには、19インチくらいを履かせてやりたいところ(笑)ですが、開発者の方からすると、この205/60R16サイズがジュークのベストマッチングなのだとか。
では早速走りだしてみましょう。エンジンスタートともにキューブなどと同じメーターアクションを確認して、ちょっと普通過ぎて面白みのないシフトを握りDレンジをチョイス。エンジンはこのクラスの日産車ではお馴染み1.5LのHR15DE。ただ内部には大幅に改良が加えられており、ツインプラグならぬデュアルインジェクター、1シリンダーに2本のインジェクターを用意するという贅沢な(ちなみに世界初)仕様、しかも吸気側に加え排気側にも可変バルタイが組み込まれ、114ps/15.3kgmへパワーアップと燃費改善の両立を実現。これに組み合わされるのは、すっかりお馴染みとなったジャトコ製の副変速機CVT。
この組み合わせは本当に良く煮詰められており、日産の1.5L級パワートレーンはこれで完全完成形になった、と言いきってもいいくらい、そのくらいバッチリの完成度の高さを見せてくれました。ジュークは車重が1170kgとノートやキューブなどと比べ少し重めながら、それらを全く気にさせない必要十分なパワフルさ。街中で走る際の低~中回転域のトルクもたっぷりとしていてかったるい印象は全くなく、上まで回してもパワーの伸びが感じられます。またサウンド的にもすっきりしており、フィーリングも好印象。120km/h付近を超え始めるとさすがに1.5Lの排気量を感じさせられますが、日常域では4名乗車でもほとんど不満はないはず。街乗り+高速+ワインディング、元気良く走って14km/L台に乗ったのも立派。
さらに言えば、CVTの出来もいい意味でそれに拍車をかけます。以前スイフトでお伝えしたようなローからハイへと移行する際のトルク抜けはやはりジュークでも若干確認できますが、1.5Lの余裕さもあり個人的には無視できるレベル。速度が上がっていってからのアクセルに対する反応のリニアリティは他のCVT搭載車と比べても現時点ではベストな出来。右足の操作次第で加速時のエンジン回転を任意でコントロールできる感覚は、回転の上がりと速度が一致しない…なんて古臭いCVT車からは一線を課す仕上がりとなっています。
ちなみに、先ほどの「インテリジェントコントロールディスプレイ」で「エコモード」と「パワーモード」を選択する事が可能ですが、エコモードはかったるすぎて危険なモード燃費追求仕様、パワーモードは少しだけ反応はよくなるものの大きな違いは起きず、95%は終始ノーマルモードで走る事となりました。これで十分、これが一番、です。
もちろん、モアパワー!というのであれば自慢の1.6L直噴ターボモデルもありますし、4WDが選べるのもターボだけ。しかも4駆はトルクベクトル式4WDでリアサスはマルチリンクになるという贅沢っぷり。ただ、6速マニュアルモードが付くメリットはあるものの、ターボモデルのCVTは副変速機「なし」である事に要注意。まだ未試乗なのでなんとも言えませんが、決して小さくない価格差を考えても、このジュークのベストバイはFFの1.5Lモデルのようが気がします。
それをさらに強めたのが、フットワークの良さ。実は今回ジュークに乗って一番びっくりしたのがここ。クロスオーバーSUVかな?っと思っていましたが、なるほどこれなら、姿形が少し変わった、イマドキのホットハッチなのかもしれない…と言われても納得してしまいそうな、そんなハンドリングの良さを見せてくれました。やたらライバルとしてMINIやシトロエンの名前が出てくるわけです。
具体的に言うと、まず驚くのがロール剛性の高さ。この目線この車高の高さなのに、コーナーにかなりいいスピードで侵入していっても、とにかくロールしない。決してステア操作に対するクルマの動きは、MINIのように分かりやすいクイックさがあるわけでもなく、むしろ比較的落ち着いた挙動なのですが、まぁロールしない。Bプラでもやればここまで出来るのか!と、驚嘆に近いものを感じました。足をガチガチに固めているわけでも、サスストロークを狭めているわけでもないのに、とにかくハンドリングが軽快。アンダーも少なく、むしろリアを上手く滑らせながら曲がっていくFFホットハッチのようなセッティング。ステアリングフィールに関しても、電動パワステの出来はこのクラスの国産車で考えるとトップレベルのナチュラルさを持っており、重くも軽くもないちょうどいい操舵力で終始違和感を抱かせないチューニングになっています。
もちろん、ある程度まで攻め込んでいくと、最後の最後の部分でタイアのグリップに頼り切ってしまうような突っ張った動きに終始してしまいますが、そこはまぁちょっと非日常域でありますし致し方ないところ。これだけよく動くのにVDCがオプションでも装着できないというのは少し難アリですが、リアの動き出しは比較的早めにくるものの、そこからのコントロール性と収まり方、クルマ全体の挙動のまとめ方は、このボディサイズでこのサス形式でこの車高の高さで考えると、そして最後に価格を考えると、かつての走りの日産のプライドを久々に感じさせてくれる実用車、と思えます。
この答えとして、エンジンと同じく実際かなりの部分で改良は加えられており、トーションビームサスのリア周辺も、実はセレナ用のパーツなどを多く用いており、剛性の確保などにはかなりの部分でキチンと対応されているそうです。しかしやはり16インチがベストマッチングというのもあながち嘘ではなさそう。と言うのも、乗り心地自体これほどロール剛性が高いにも関わらず決して悪くなく、ハーシュネスの遮断も見事なのですが、全域…動き出しから高速域にかけて、どの速度域でも、大きな入力時はいいものの、小さい路面の荒れた部分やアンジュレーションに対してクルマの落ち着き不足、乗り心地は悪くないんだけども、常にスィートスポットにハマらないドタバタ感が終始していた点が少しウィークポイント。バネレート自体はさほどでもないので、これはおそらく小さな入力での動きが渋いダンパーの減衰による問題か。
エクストレイルやディアリスのようにザックス製でも使えば劇的に良くなる…のでしょうが、これも価格を考えれば贅沢な文句かもしれません。55扁平17インチではどうなるのか、ちょっと気になる部分です。加えて、鉄っちんなら見えませんが、見た目がリアがドラムでアルミホイールだとダサい…という問題も含めて、ブレーキにはもう少しストッピングパワーの余裕とカチッとしたフィーリングが欲しいところ。
それと少し関連してますが、VDCに関しての問題ですが、登場時にオプションでも未設定ということで、クルマ好きやメディア関連からはかなり口酸っぱく野次られたのが記憶に新しいところですが、日産としては価格をできるだけ抑えたかった事、加えて同価格帯になるキューブのVDC装着率が1%に留まる事、を考慮した結果なのかもしれません。実際この上級モデルの15RXで180万円切り、15RSタイプVなら約162万円と、この見た目でこの質感でこの走り、ユーザーの心をくすぐる実に上手い商品設定と言えるでしょう。もちろんそれと同時に、開発の人たちがここまで走りに関してはしっかり頑張ってくれているんだから、VDC含めての価格設定で戦略立てろよ!とも言えますが。これはいずれ1.5LモデルでもVDCが標準装着され、その際にリアブレーキもグレードアップ…することを期待しておきましょう。
個人的にはもちろん、トルクベクトル4駆+1.6L直噴ターボの16GTFOURが気になるところですが、こちらの価格は245万円超と一気に60万円近い値上げ。また、これくらいの価格帯になると、ライバルたちも違ってきますし、また200万円切りなら満足!なインテリアの質感なども、250万円クラスと考えるとちょっと…と、思えてくる部分もあったり。加えて、純正17インチアルミをオプションで装着してしまえば、そのホイールデザインを含めて外見に全く違いがない、というもの難アリ。事実、売り上げ比率を見ると、ターボモデルはFF・4WD合わせてもごくわずか。ほとんどが1.5L。しかも、お買い得な特別仕様車のタイプVや、15mmローダウン(なんとスプリングカットで実現!)で立体駐車場対応としたアーバンセレクションなど、日産も売り上げに見合った売り方をしてきているのが分かります。実際に乗ってみて、おすすめも当然こちらのほう。
いやーしかし、最初は見た目だけのクルマ、しかもその見た目自体が全然好きじゃない(笑)ということで期待していなかったのですが、いやいや予想に反してヒットしてる理由は見た目だけにあらず!ということを痛感。やっぱ、クルマは見て触れてそして乗って、最後に評価を下さなければいけませんね。このジュークの出来を見ていると、マーチで大きく裏切られた部分は、次期ノートの完成度でかなり埋め合わされるかも…ちょっと今から楽しみになってきました。
それはそうと、日産さん、ターボ売れてないんでしょ?次は1.5LモデルにVDC付けるのと同時に、FFでもいいのでリアがマルチリンクじゃなくてもいいので、1.6L直噴ターボ+6速MT、そんなジューク16GTSR、価格210万円、なんての、出しませんか?スイフトスポーツくらいやっつけられますよ?個人的に、本当に欲しくなっちゃいますよ?笑