2012年3月11日。
あの東日本大震災から1年が経ちました。
忘れる事なんて今はやろうと思ってもできない…いつまでもあの日あの時あの瞬間を忘れない事は大切…でも、僕は、積極的な良い意味で、あの時の苦しみや悲しみが徐々に薄らぎ忘れていく事こそが本当の復興の証であると思っています。日本人である事を誇りに思って。
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さて、今回お届けする試乗レポートは、前年のポルシェボクスターに続く「輸入車・ブラック・2シーターオープン」の共通項をもつスペシャル版。メルセデスベンツSLKのレポートをお届けします。
初代SLKは96年にデビュー。折りたたみ式金属製ルーフの「バリオルーフ」を採用し、世界的に一大センセーショナルを巻き起こすほどの大ブームに。納車1年以上待ち、中古市場にプレミアが…なんて事も日本で起こりました。全長は4m以下でとてもコンパクトであり、その存在はまさに「ミニSL」。しかし、クルマ自体の完成度やポジションというよりも、「バリオルーフありき」なクルマであった事も少し否めないところではありました。
2代目は2004年登場。フロントフェイスはSLというよりもマクラーレンSLR風に。角張った風貌からガラリとイメージチェンジで、いろんな意味でメルセデスらしい権威さを緩めたその雰囲気のおかげで、特にメルセデスの中でも女性ユーザーに好評だったとか。しかしながら、初代登場から8年、同クラスのライバルも劇的に増え、バリオルーフ(=メタルトップ)を採用するクルマも増加。日本ならコペンのように100万円台の軽でも買えてしまう装備となり、物珍しさも薄れる事に…。
そして登場した3代目。今度はマクラーレンとの決別により、新型はSLSAMG風のスクエアなスタイリングに。メルセデスらしい風格を備えつつカジュアルにも乗れる、ちょうど良い存在感を備えたような雰囲気とでも云いましょうか。強烈なインパクトがないので少し地味なポジションというのはなかなか否めない部分ではありますが…。
ベースとなったのは「史上最高のC」と謳われるCクラス。全長は4155mm、ホイールベース2430mmというコンパクトさを実際に目の前にしてみて改めて実感。ご覧の通り、NCロードスターよりひと回り大きいくらい。そのおかげで、フロント225、リア245という太いタイアを履きながら最小回転半径4.8mと取り回しの良さはSLK伝統の美点。ちなみに、全幅は1845mmとかなり数値的に大きいのですが、これは245幅のリアタイアを収めるために装着されたフェンダーのモールが原因。このデザインに明らかにマッチしていないダサい装飾は、法規に合わせるため日本仕様だけに装着されるもの。メルセデスの方に話を聞くと、同じように残念がっていました。
さて、テスト車両はSLK200ブルーエフィシェンシースポーツ。「スポーツ」と名は付いていますが、基準車より装備やオプション設定の省略をする事で-55万円の525万円という戦略的価格設定としたエントリーグレード。とは言っても500万円以上するので、基本的にはフル装備。ましてやテスト車には「レザーパッケージ(+28万円)」が装着されていたので、違いといえばホイールのデザインとステアリング・シート調整が電動→手動になる程度。
そのホイールのデザインもスタイリッシュでカッコいいので、廉価版という印象は全くありません。装備表を見る限りこのテスト車両の個体のチョイスがベストバイ。これよりさらに…を求めるのであれば、SLK350+AMGパッケージの全部載せ800万円コースをドーンと買うのがいいでしょう。
さて、ドアを開けて室内へ入ると、エアコンの吹き出し口、インパネデザイン、メーターの処理など、こちらも見た目はSLS風。他のデザインはMCされた現行Cクラスに準ずるクオリティで、ステアリングもナッパーレザー仕様。質感は先代よりも格段に良くなっています。特徴的なバリオルーフは、肘掛け付近のフタをパカッと開くとスイッチが。ロックも含めて全てフル電動で約20秒ほどで開閉。その時間の短さと、ルーフの作動音の小ささに元祖らしい仕上がりの良さを感じる事ができます。オープンにした後のロールバー付近のデザイン上のフィニッシュも完璧。
元祖らしい仕上がりの良さ…といえば、ラゲッジスペースも。通常状態で335L、そしてルーフ格納状態でも225Lを確保しており、よほど大きな箱状のものでも積まない限り、容量は十分。奥に滑り込ませるようにすれば深さも奥行きもかなりあり、旅行先でお土産を買ったらオープンエアを楽しめなくなる…というメタルトップの根本的欠点は、このクルマではよほどのない限り困る事はなさそうです。
エンジンは1.8L4気筒直噴ターボ。組み合わされるのは7Gトロニック。車重は1440kgと見た目のコンパクトさから想像するよりも重量級ですが、それでも先代からは+10kgの増加に抑えられています。タイアサイズは先述したようにフロント225・リア245の45扁平17インチ。銘柄は最近ではレクサスHSやゴルフなどで見かけたグッドイヤーのエクセレンス。ちなみにSLKに装着されるのはランフラット仕様となっています。
さて、ひと通り紹介もし終えたところで、インプレッションの方へ。まずはドアロックを解除すると、ヘッドライトとバンパー内のLEDランプが光ってお出迎え。夜間の駐車場などでも自車を見つけやすい利点もあります。ドアの開閉はさすがメルセデスと言わんばかりのドシン!とした堅牢感。ルーフがクローズドでもオープンでも関わらずドアの開閉だけでそのクオリティを伝えてきてくれます。ただ、ドアの開閉自体は軽めなのが、21世紀のメルセデスの変化とも言えるでしょう。
エンジンをスタートさせ、シフトノブをDへ。メルセデスはゲート式ノブが左ハンドルの切り方そのままなので、右手ではなく左手で操作するにはちょっとコツがいります。動き始めてまず感じるのが、アクセルの重さ。今でこそドアの開閉やステアリングの操舵力も極めて常識的になっていますが、唯一かつてのメルセデスらしさを感じるのがこの重いアクセルペダル…いや、でも、それにしても、重い、というか、鈍い…。と、フト気付いたのが走行モード。
以前のメルセデスは「C」「S」「M」の順番で設定可能でしたが、最近は「C(コンフォート)」から「E(エコノミー)」へと変更されており、Eは相当に大人しい設定。アクセルの反応も相当穏やか。踏み込んでもキックダウンの反応は眠たく、加速していっても2000回転くらいでポンポンとシフトアップしていってしまいます。のんびり走る時は我慢できますが、ちょっとでも俊敏に走りたいと思うならすぐモードをSにする必要がありそう。燃費的には不利なのでしょうが、ドライバビリティ的には常時Sモードの方が自然に走る事ができます。
評判のいい7速ATの7Gトロニックは確かにクロスレシオでつながりも良い…のですが、驚いたのはマニュアル変速時のレスポンスの遅さ。一応SLKにはパドルシフトも用意されているのですが、まぁーその反応が鈍いのなんの。押してから確実に1秒以上タイムラグが発生する設定で、せっかくのパドル操作の意味が全くありません。シフトノブの右左への変速ロジックもどうもイマイチ。結局は、賢いDレンジ固定で淡々と走るのが一番のようで、これならなんら不満はありません。ただ個人的にはATでも積極的にマニュアルシフトをしたがる人間なので、これはテスト中終始不満が残り続けていました。
まぁこれがいわゆる「フツー」のメルセデスなら別に不満にもならないのでしょうが、その不満をもたらした原因はこのSLKのエンジンフィーリングが予想していたよりも遥かに艶のあるスポーティなフィーリングだったため。特にBMWなんかと比べれば、メルセデスのエンジンはあくまで黒子に徹する…エンジンはシャシーより速く…なコンセプトではあるのですが、SLKはしっかりとエンジンフィールにも演出が。184psのパワーは常識的で、エンジン始動から取り立てて静かなわけでもないのですが、ターボラグを全く感じさせないナチュラルなレスポンスに、4000回転~はグォォォーンっとスポーティなエンジン音さえ楽しめて、レッドラインは6300回転のやや低めなものの、そこまでブン回すとシフトアップの度に「バフッ!」っとまるでバックファイヤーが吹いてるの如くのサウンド演出。このバフバフが気持ち良くて1~2速でしょっちゅう上まで回してしまいました…(笑 それだけに、とにかくどこまでも鈍いATのマニュアルモード時の変速レスポンスが、残念。走りのリズムが噛み合いませんでした。
さて、ハンドリングは。SLKはステアリングギアレシオが可変タイプで、特に操舵角が大きくなるとさらにグッと切れ味が増すような設定になっており、ワインディングなどで舵角が大きめになってくると、ステア操作に対してやや違和感があり、クルマの挙動が掴みにくい部分があったのは少し気になるところ。ただ、フツーの交差点などでも舵角が少なく、高速クルージング時のステアリングの落ち着きは素晴らしくいいので、クルマのキャラクターを考えれば納得できるセットアップとも思えます。
といいつつ、実際ワインディングで攻めた走りをしてみると、相当に速く、また結構ヤンチャな性格も顔を見せます。パワーは184ps程度と言えども、短い全長・ホイールベースのこのディメンションのFR。コーナー立ち上がりで2速でアクセルをポンと踏みこむと、リア245サイズのタイアを履いているとは言えども、かなりいとも簡単にお尻がズリっとし始めます。もちろんすぐにESPが介入しクルマの挙動は安定に保たれますが、さほど飛ばしている意識がない状態でもメーターパネルにピカピカと警告灯が点滅していました。もっとも、こういう使い方はなかなかSLK乗りのオーナーはしないでしょうが…
というわけで、このクルマのもっとも得意分野と言えば高速クルージング。こちらの方はワインディングとは違い、ボディの短さを全く感じさせないドッシリとしたスタビリティの高さはさすがメルセデス。ただ少し惜しいのは、速度が上がってくると徐々にダンピング性能に物足りなさを感じる点。少しピョコピョコ跳ねるような印象で、もう少しフラット感が欲しいところ。これはおそらくランフラットタイアを履くが故の特性なのでしょう。少し前のBMWなどにも出ていたような動きそのもの。このあたりはいち早く装着を進め市場からのフィードバックを聞きとり、熟成を重ねてきたBMWの方に一日の長がありそうです。
オープン状態でも、とても良く効くシートヒーターと、これも効果抜群のエアスカーフのおかけで、真冬でも120km/h程度でのちょっと速めの巡航でも快適なオープンエアを楽しめます。ただ、全体を通して、高速域でもワインディングでも、ハンドリングのバランスとして良かったのは、屋根をクローズドしてクーペ状態で走った時。オープンでも絶対的レベルで言えば十分に堅牢感がありましたが、屋根を閉じればその印象はさらに倍増。まさに「鉄の塊」というのに相応しい安心感で、全体的にこのクーペ状態で直進性を始めとしてハンドリングのバランスがセットアップされている印象でした。これは例えばマツダのロードスターなどとの考え方とはまるっきり異なり、実際のSLKの使われ方に乗っ取った狙いなのでしょう。
また、いつ何時どんなシチュエーションでも、がっちりと速度を殺す信頼性の高いブレーキ性能は◎。その効きだけでなく、荒れた路面でのワインディングでのABSでの制御、減速時のリアのスタビリティの高さ、そして急制動以外の街中でのなんてことのない普通の減速でも抜群に質感の高い剛性感のあるブレーキペダルタッチは本当にお見事でした。
さて、最後に燃費報告。例の高回転リミッターカット付近での「バフバフ」音を楽しみつつ、高速+ワインディング+流れのいい一般道計500kmを走行して10.8km/Lという結果に。JC08モードで11.4km/Lなので実力的には十分なのでしょうが、個人的にはもう少し伸びて欲しいかな…という印象でした。それはまたSLK350に装着されているアイドルストップ機能がこのSLK200に装着されればもう少し改善する事でしょう。嬉しいのはガソリンタンク容量が70Lとかなり大きめな事で、淡々と高速クルーズを続けて12km/L付近で走れば、巡航800kmくらいは確実に稼げそうです。こういった使い方が一番SLKらしいのかもしれません。
さて最後に。今回久々にメルセデスと時間を共にする事で、その「らしい部分」があるが故に、どうしてもエレガントな2シータースポーツとしてアカ抜けきれない…そんな矛盾を少しいろいろな部分で感じてしまったテストでした。こういった優雅なオープンスポーツでも、あくまで「メルセデス」でなければならない…その律儀さと、進化するライバルたちの勝たなければならないがための革新と挑戦…その融合。個人的に言えば、変にスポーティさを狙ってやろうとせずに、もっとステアリングもスローで、クルマ全体も落ち着いた動きにセットアップする方向でも…と思ったのですが、なかなかそれも難しいところなのでしょう。もちろんあくまでポリシーを守る事は必然であり、それがなくなればメルセデスの価値も消えてしまいかねないのですが、3代目となってのSLKの難しさを少し垣間見たような気がします。
個人的には、2シーターオープンならば、Z4やアウディTTやボクスターが…メルセデスならば、現行Cクラスのクーペをベースにした、4シーターカブリオレが登場してくれたら…EクラスカブリオレのCクラス版…それがベストかな。なんて事を考えつつ、今回の試乗レポートを終わりにしたいと思います。