
さて、
前回に引き続き、今回はデミオスカイアクティブの高速やワインディングといった、速度や入力が高めとなるステージでの印象をお伝えしていきたいと思います。
高速巡航ペースだと想像以上に良好な燃費を叩き出す事を確認して、さてここからは高速域での走りの印象について。関西以外の方には少しイメージが付きづらいのが申し訳ありませんが、ステージは名阪国道~東名阪道~伊勢湾岸、折り返して伊勢湾岸~東名阪道~新名神~名神~阪神高速、といったルート。悪評名高い?名阪国道は知る人なら分かるかなりのアップダウンや路面の荒れ方、そして国道とは名ばかりの相当に速い道路のペースなど、このクラスのクルマにとってはかなり過酷な場所です。
MC前の旧デミオでも何度も同じ場所を走った事がありましたが、ちょうどここが一番苦手とするステージでした。一般道やワインディング領域では楽しい味付けも、こういった路面が荒れ気味の高速ステージでは、どうしてもシャシーの頼りなさや足回りの華奢さが浮き彫りとなり、少し調子に乗って飛ばすとおっかなびっくり…直進性も低下しリアのスタビリティもおぼつかなく、冷や汗をかかせるような挙動に終始する結果に。ハイスピード域での安定性と快適性が旧デミオ最大のウィークポイントでした。
さて新型は。これが本当に見事、本当に「激変」と言っていいレベルで改善されていた事に、素直に驚かされました。街中でも足やボディの変化は実感できましたが、その効果は速度域が上がるにしたがってさらに大きく感じる事ができます。
具体的に言うと、まずはリアの落ち着きと踏ん張り感の向上。エコタイア専用スペシャルのアスペックを履くのでグリップの限界値は知れていますが、そこに至るまでのクルマ全体の挙動の穏やかさは、高速域で間違いなくドライビングする安心感へとつながっています。リアがしっかりとした事でフロントが逃げる…ということはなく、その分はっきりとロールは以前よりも大きくなってはいますが、むしろしっかりと舵を効かせて自信を持って高速コーナーをクリアする事ができるようになっています。もちろんそんな気合いを入れる領域だけでなく、ボディ補強やサスのリセッティングとダンパー減衰見直しなどにより直進性自体も大幅に改善されており、それこそ巡航速度で車線変更をする…そんな何気ない動きだけでも、しっかり感としなやかさを高次元にバランスした今回のデミオの足の良さを実感できるでしょう。
そしてもう1つは静粛性。進化著しいこのクラスにあって、デミオはこの速度域での静かさレベルは「並」。いや、むしろ弱点だったかもしれません。しかしこれも一般道インプレッションで書いた通り劇的改善。軽量化との兼ね合いの中でよくぞここまで頑張った!といった印象。ライバルと比べると、フィットハイブリッドやスイフトには少し劣るくらいのレベルで静かになったといえるでしょう。また、空力性能向上のため装着された床下のアンダーカバーのおかげで、特にリア付近からのロードノイズがグッと減ったのも副産物的効果。恐らくは雨の日などで水しぶきの巻き上げ音なども減少していることかと思います。ただ砂利道などでは、反面石がパチパチと当たる音が逆に目立ったりする事も。
こうなってくると残念に思えるのは、電動パワステの嫌な部分を払拭しきれていないステアリングフィール。ステアレシオ自体はクイックですが、こういった高速域ではもう少し操舵が重めで、また中立付近や微舵をいれた時のリニアさが欲しいところ。また、リアのどっしり感が増した事は記しましたが、あくまでも限界域に達するまでの挙動が穏やかになったというだけで、例えばリア荷重が抜け気味になる急制動時に直進性が失われるくらいにリアがフワッとしてしまうところまでは改善しきれていませんでした。もっとも、このグレードなら今はDSCが装着されているので安心ではありますが。
さて動力性能の方ですが、街中では十二分の性能を披露してくれた1.3Lスカイアクティブエンジン。しかし徐々に速度が上がってくると、1298ccという少なめの排気量などの影響もあってか、低~中速域でのトルクの薄さとレスポンスの悪さを感じる事がしばしば。これは、アクセル開度が少なくなると即ギア比を燃費最優先の巡航モードに切り替えて低回転を維持しようとするCVTのセッティングも影響しているかもしれません。シフトノブにはSSモードを選択するスイッチがあり(エコカーと言えども、マツダらしいですね)これを押すとアクセルに対する反応がさらにスピーディになりますが、これだと回転だけ先に上がってその後に速度が追いつく…というようなちょっと古臭いCVTのようなフィーリングが助長されます。むしろアクセルに対する反応をよりリニアで穏やかにするエコモードがあってもいいのでは、とも思ったり。また自論になりますが、アクセラ1.5LのCVTがとてもいい出来だったので、贅沢ながらCVTにマニュアルモードがあればなぁ…と考えてしまいます。
しかしそれらをあまり気にせず、アクセル全開でちょうど5300回転あたりをキープしながら加速していくと、絶対的パワーでは大した事ないものの、それにも関わらずゆっくりでありながら、かなりの速度域になっても確実にじわじわと速度が伸び、メーター上で確認できた最高速は結構なもの。これだけ出れば十分実用的。このあたり、特に100km/h以上では確実に空力性能向上パーツによる効果が実感できます。強烈な横風吹き荒れる伊勢湾岸道で、周りのクルマについていきかなりのハイスピードクルージングができた事がその実力を物語っています。またそういった速度域でも、ソフト気味の足は接地性を失わず、乗り心地もあくまで快適に保てているのはお見事。
1つ気になったのがノイズ。これはスカイアクティブエンジンによるものかどうかは分からないのですが、静粛性がかなりレベルが高い中、ちょうど2000~3000回転付近の巡航状態での常用回転域で、ちょうど蝉の鳴き声のような「ジィー」といったような音が耳で確認できました。路面状態に関わらず発生し、またアクセルを少し開け気味にして3000回転を超えると消えたので、ちょっとこれは気になったポイント。今のところ他の試乗記などでは指摘されてはいませんが、一応報告としてここに記しておきます。
さて、続いてはワインディングロード。表六甲・裏六甲を始めとして、六甲山周辺のドライブウェイ・ワインディングスポットを徹底的に走り込み。エコカーであっても、あくまで「カー」とついているならば、走りの性能もおろそかにしてはいけません。
ここでも、足回りの改良による懐の深さを実感。まるでサスストロークの容量が大幅にアップしたかのように感じるその挙動変化の分かりやすさと落ち着いた挙動は、本当に旧デミオと全くキャラクターが変わっています。じわっじわっとロールは進行し、できるだけ大きな挙動変化を起こさずに、次のコーナーへと上手くヨー変化をつなげていく…そうするとi-DMでブルーレベルを維持しながらワインディングを駆け抜けていく事ができます。ただペースを上げていくと、純正14インチサイズのアスペックの、特に横方向に関してグリップレベルが物足りなくなってきます。その軽快なフットワークに対して、入力が大きくなると結構いとも簡単にズルッとテールアウト気味になるので注意。もっとも、そういった際に介入するDSCの制御はとても自然で、走りを極端に邪魔しない設定となっています。是非、これならベースモデルにも拡大設定を。
こういった場面でもう少し…というなら、もう少しグリップ志向の違うタイア銘柄か、もしくはエコ銘柄のまま1サイズインチアップしてみるというセットアップもアリかもしれません。もっとも、このタイアを最大限生かしながらスリップアングルをつけずに上手く走っていく…というのも、これはこれで頭を使いながらドライビングを楽しむ事ができるというのが、このスカイアクティブ本来の狙いなのかも。
…と少し奥歯に物が挟まったような言い方になってしまいましたが、はっきり言って、こういったワインディングのようなステージでは、圧倒的に楽しめるのは旧デミオのほう。固められた足はロールが少なく、そこからステアリングの反応は実にシャープで、コーナーをパキンパキンと駆け抜けていけるこの爽快さと軽快感は、まさにFFのロードスターとも言いたくなる本当に楽しい出来。総合的には新型の方が自動車としての完成度は高い…のですが、それらは旧デミオの良さを全て受け継いで…というわけではなく、交差点を1つ曲がっただけである程度こういったクルマ好きにビビビっと(笑)響く部分は少し薄まってはいます。もっとも、こんな事まで気にする人間は、ごくごく一部でしょうが…。
では、スカイアクティブのワインディング路での注目は…?それは燃費。今回のロングランで、いわゆる専門的知識を持たずに、普通の人がこのスカイアクティブに接したところで得られる分かりやすいメリットは?という事を探っていましたが、その1つとして「アクセル開度が大きい場面でも燃費の悪化率が低い」という事が挙げられます。
他のエコカー、いわゆるハイブリッド系は、あるスポットにハマると本当に驚くほど燃費が伸びますが、逆に言えばそのスポットから外れてしまうと期待通りの燃費数値は望めません。また、順調に数値を伸ばしていても、例えば登りのワインディングでエンジンを回し気味にすると途端に…といったように。
しかしながらスカイアクティブデミオは、そういったワインディングでも悪化の幅が最小限で済んでいる印象でした。画像は中間地点、高速ハイペース走行からワインディング全開走りを終えて400kmを超えた時点での燃費。状況下からして真夏でありながらこの数値をキープしているのは、立派という一言に他なりません。
現状で「スカイアクティブが思ってた以上に燃費が伸びない…」という評判を聞くのは、おそらく街中オンリーでの使用の場合でしょう。確かにこういった条件では、以前と比べればはるかにi-stopの時間は長くなりましたが、薄めの低速トルクと、それを補うべくしてアクセルに対して反応のいいCVTのセッティングが災いし、12~13km/L台という数値も見られます。しかしながら、販売時期が夏場である事も考慮して、おそらくはこれが今回スカイアクティブの実用燃費の底値でしょう。
ざっと計算したところで、街中では~15km/L、少しペースが上がってくると20km/L台にすぐ突入し、流れのいい郊外の道路や高速域では23~24km/Lに迫る事だって比較的容易。一度エアコンOFF&真剣80km/hキープエコランを行い、燃費計で29.2km/Lまで確認もできましたが、少し非現実的すぎるので割愛。しかしながら真夏でこの結果ですから、やろうと思えば相当に伸びる…HVに慣れた基準ではその分衝撃は緩和されるのかもしれませんが、やはり純粋なレシプロエンジン搭載車としての燃費はかつて体験した事のないほどズバ抜けていい、そう評価していいと思います。もちろん、一番使われるパターンが多いであろう街中のストップ&ゴーが続く状態での一般燃費の向上も課題。そこは、スカイアクティブドライブの6速ATが出れば、もう少し改善できそう…?
それよりもやはり気になったのが、航続距離の問題。アンダーカバーを装着するために新規で起こしたガソリンタンクの容量は、ベース車-7Lの35L。イマドキ軽自動車レベルのこのタンク容量。しかもデジタル表示のガソリン計表示は8分割表示。実際20km/L近い数値をキープしていたものの、560kmを過ぎたあたりで残り1目盛りで警告灯が点灯。やはり7L分の減少は惜しいと言わざるを得ません。精神的にも落ち着きがなくなるので、この時点で給油。給油量は29Lだったので、燃費計数値は少し甘めでしたが、まぁ誤差で許容できる範囲と言えるでしょう。
例えば同条件で比較して、満タン状態から残り7Lを余らす状態まで走ったとしましょう。スカイアクティブは消費28L、20km/Lで計算すると巡航距離560km、同条件でノーマルモデルの13C-Vの燃費を15km/Lだったとすると、消費は35Lと考えると巡航距離525km。5km/L違いというのは大雑把な目安ではありますが、日常域で互いの燃費の差がさらに近付くとなれば、おそらく実際にオーナーになってみても、給油頻度は大きく変わらないのでは。もちろん1回あたりの支払額は給油量が少ない分安く済みますが、ガソリンスタンドに寄る頻度があまり変わらない…というのは、燃費のいいクルマに乗っているという感覚があまりなくなるような気がします。
ここが今回事前にも気になっていて、いざ実際乗ってみてもやっぱり引っかかった部分。燃費を叩き出すために空力性能を重視、そのために減らされた燃料タンク、でも1トンを超えてしまった車重、しかしながら残されたスペアタイア……社長の鶴の一声で、マイナーチェンジでスカイアクティブを搭載するというその判断の、綻びが見える部分です。もちろん、開発者の方々の努力の跡は運転していると隅々で実感。しかしながら、もともとの土台に無理があったのも事実でしょう。
しかしながら、そういった部分から目を逸らして、このセグメントのデミオとしての価値を考えると、実に有用なマイナーチェンジだったと言えます。圧倒的に変わってよくなったボディ、足回り、それを含めた走りのセッティング、高速域での安定性…クルマ自体が1ランク車格アップしたような仕上がりは、本当に見事。スカイアクティブは当然目玉商品ではありますが、あくまでもマイナーチェンジで追加された1グレード…くらいの心持が、ちょうどいいのかもしれません。
ということで、機会ありましたら、また「非」スカイアクティブの素4AT仕様やスポルトなど試して、この新世代デミオの可能性を見ていけたら……そしてもちろん、スカイ搭載の新型アクセラや、フルスカイ仕様となるCX-5なども、登場したら是非またテストしてみたいと思っています。
最後に、最終燃費報告。給油後はさらに燃費を気にせず積極的に走り、i-DM判定で2点台という低評価(笑)を出しつつ、最終的に855km走行した後の燃費がご覧の表示。実測は18.58km/Lでした。総合的にはフィットHVに若干追い付かず、しかしながらそれを除けば断トツにいい、というところでしょう。