
さて、以前もお伝えしたちょっと気になる新型車チェック。こうやってメガウェブのような場所で新車を試す機会を与えてくれるトヨタさんには本当に毎度、感謝感謝。というわけで今回は最近積極的に展開しているG‘s仕様の2台をピックアップしてショートインプレッションしてみたいと思います。
○プリウスG‘s
正式名称は「プリウスSツーリングセレクションG‘s」。そこからも分かる通りベースモデルはSツーリング。252万円。対するG‘sは284万円。その価格差+32万円。ちなみに装備充実の上級グレードGツーリングだと+20万円の272万円となります。前回のレポートでアクアが高い高いと言ってましたが、やっぱりプリウスでも装備を追加していくと立派な高級車…もっとも、普段乗りならS(232万円)が装備内容も十分で最もお買い得な賢い選択といえるでしょう。
…と、ここで「32万円差」と言いつつ、いわゆる「トヨタの商売上手」な戦略をしっかり読み解いておきしょう。わざわざ「SツーリングセレクションG‘s」なんてネーミングにしたのだから、そりゃベースとなったグレードに装備を追加して…っと思うところでしょう。しかし、それをすんなり信じると重大な落とし穴が。実はプリウスのツーリングセレクション系には装備される「LEDヘッドライト」が、実はこのG‘sでは省かれているのです。おそらくはヘッドライトウォッシャーがこのエアロに装着できないが為のものなのでしょう。MC後のプリウスにはHIDヘッドライト仕様が追加されたのでまだ行燈のように暗いハロゲンヘッドで怖い思いをせずに済みますが、それでもしっかりと価格差を考慮しておくべき。アクアのLEDヘッドライトパッケージはフォグランプがセットで11万超えと決して安いアイテムではありません。HIDである事も考えて、ここは252万円から-8万円分していると考えましょう。というわけで、「G’s分の実質価格差」は「40万円」とするのが妥当だと判断します。
さて、そのG‘s分の32万円…もとい「40万円」分の内容は?まずはエクステリア。一番目につくのはその派手なエアロ。レクサスのスピンドルグリルを彷彿とさせるフロントバンパーは、好き嫌いは別としてインパクト大。下部には流行りのLEDイルミネーションも装備。ウインカーとフォグランプも丸型仕様。リアテールもクリア調からブラック調になってグッと引き締まって見えます。ヘッドライトも同じくブラック調に、マフラーも大径タイプ。ウインカーがオレンジ色丸出しだったり、リアがスモーク調だったり、いわゆるエコカー=クリア調テイストという雰囲気は完全に払拭されています。
足元は、45扁平17インチから40扁平18インチへさらにインチアップ。タイア銘柄もダンロップディレッツァDZ101の指定。ホイールデザインもなかなかカッコよし。ちなみに、デモカーなどで見かける専用のG‘sのボディストライプ(レッドorシルバー)とホイールのレッドラインデコはそれぞれオプション。せっかくG‘sを買うなら是非装着したいところ…というのがオーナーの心境ですが、ボディストライプの約18.000円はいいとして、ホイールのデコレーションは約28.000円!けどこの細かなところながら、見た目の雰囲気がかなり変わるので、これは実際買われるユーザーの方は悩むところでしょう。
インテリアはブラック基調で、赤ステッチ入りの革巻きステアリング、シルバー塗装のドアノブやカップホルダーまわり、レッドのパワースイッチ、アルミペダルなどがアクセントに。問題はいたるところに貼り巡されたカーボン調パネル。インパネも、シフトノブも、パワーウインドーのスイッチベースも、カーボン。好きな人にはたまらないのでしょうが…ちょっと個人的には目につき過ぎてやり過ぎの印象でした。反面よかったのはステアリングと同じ赤ステッチ入りの専用スポーツシート。スエード生地の質感も良く、ホールド性も◎。このシートは値打ちアリです。
そんな見た目の雰囲気だけじゃなく、見えない部分にもしっかり手が入っているのがG‘sのいいところ。専用サスペンションで15mmローダウン、フロアにはフロントからリアまでビッシリ5点の剛性アップパーツ。加えて、マイナーチェンジでベース車両にも追加されたスポット増し溶接のポイントを、G’sではさらに追加。これだけ盛りだくさんの内容で実質「40万円高」を、どう捉えるか…
そもそもエコカーにスポーツ仕様?ということでカタログを見る限りちょっとばかり疑問視していたのですが、今回実際に乗ってみて、あららビックリ。その派手なエアロやでかいホイールの雰囲気とは裏腹に、走りはスポーティというよりもプレミアム。上質な雰囲気の方が強い印象。まずは40扁平18インチだというのに、乗り心地に全く不快感なし。当然硬めではあるのですが、15mmダウンしておきながら足は微領域でもしっかりと足が動き始め、大き目の入力でもしっかりと1発でスタッと衝撃が収まる。もちろんロール・ピッチはベース車に比べてはっきり減っており、クルマが1サイズ小さくなったような軽快かつ安定した動きを見せてくれます。
そして驚きはステアリングフィール。操舵力自体は若干重めになっているのですが、中立付近から切り込んだ時の滑らなタッチ、操舵に対する挙動のナチュラルさ、格段に増した路面からのインフォメーション性などなど…ベースのものとは丸っきり別モノ。激変。ここまで変わるのか…。今回は速度も上げず、時間も僅かで、走りこんではいませんが、逆に言えばそれだけの短時間で、全然飛ばしていない状況でも、「乗り心地の上質さ」と「ステアフィールの向上」という変化をすぐ感じる事ができるくらいに変わっている、と言えます。
もっともこれは、G‘sによる効果…はもちろんあるのですが、今回のベースとなったプリウスのマイナーチェンジによるポテンシャルアップによる相乗効果とも言えます。同じく確認したところ、ボディのスポット増しの増加、EPSのリセッティング、従来仕様の15インチ+ソーラールーフ仕様の分離式ダンパーの全車採用などで、初期モデルから確実に良くなっている事も実感できました。アクアが出た事で、価格だけでなく走りもキチンとアップグレードされ、よりしっかりと「車格感」の違いが明確化されたなぁという印象です。もちろん、G‘sはさらに良い。大雑把に例えるなら、初期プリウスを100とすると、MC後のプリウスは150、そしてG‘sプリウスは200…いや、220~230といったところでしょうか。もっともこの基準でいえば、ゴルフは300くらいですが…苦笑
とは言え、ハイブリッドなのにG‘s…?といった最初の疑問、しかしいざ実際乗ってみると、ハイブリッドでより上質な走りを組み合わせるの、大いにアリ!トヨタだってやればちゃんとできるやん!というのが率直な感想。これだけやってここまで効果があって+40万円なら、決して高くはない。もっとも、これは、裏返せば「やればできるのにあえてやっていない」という事の表明だとも…見た目とは裏腹に、極端にスポーティ路線ではない…あくまで純正然としているその仕上がりに触れてみると、そういった疑念を抱かずにはいられません。「コスト」との兼ね合いで、どのようなものが失われているか。例えばこういった事を別に自慢したりグレードに仕立て上げたりすることなく、フツーの仕様からちゃんとやっているメーカーは他にいくらでもあります。ここがトヨタのズル賢いところであり、「どうせここまでやったって素人には分からんよ」という見切りの潔さであり…まぁこれこそが企業として成長するトヨタの賢く凄いところであり、クルマ好きとしては興ざめしてしまうものなのではあるのですが…。でも、クルマ好きという観点を除けば、このトヨタのしたたかさは、素直に尊敬の念を抱く部分だったり。もっとも、このG‘sを通してトヨタが変わり始めたというのは事実ですし、率直に応援したいと思います。
是非この活動は、続けて欲しい。例えばエアロや内装だけ仕立てて、中身はベース車そのまんま…な「見た目だけG‘s」なんて事で落ち着いて欲しくないところです。(ノア・ヴォクシーにはそれ仕立てもありますが)むしろそれの逆…見た目や内装はベース車そのまんま、ボディと足とシートだけの「通好みな中身だけG‘s」を、ベース車+20万円くらいで出してくれないかな…なんて考えたりもします。笑 もっともそれじゃぁ、おそらく商売にはなりませんが…。
○ヴィッツG‘s
そしてもうひとつ大事な事を言うために、このクルマをピックアップしてみましょう。ヴィッツのG‘sです。価格は5MT、CVT共に189万円。ベースのRSがMT172万円、CVT179万円なので、CVTなら僅か+10万円でG‘sが手に入る…!…と思うのは早とちりで、案の上先ほどのプリウスと同じく、RSと比べてスマートキーやオートエアコンなどが省略されており、実質的に装備内容はRS・Cパッケージ(160万円)が基準になっています。もっともオプションの選択幅があり、HIDが標準装着されているので、これでも実質的な差は25万円程度でしょうか。これに攻撃的な見た目のエアロパーツ、205/45R17のタイア&ホイール、マフラー、LEDライト、室内ではアルミペダルにこれまたカーボン風のパネル、フロアの剛性アップパーツにローダウンサス、空力パーツまで装着されているので、プリウスよりお買い得感アリ?オプションでブレーキパッドを選べたりするのもヴィッツG‘sの特徴です。
そして走りですが、これも確かにベース車よりも良くなっており、足は明確に硬くてちょっとやり過ぎ?とも思いつつ、16インチなのにエコピアを履くというベースのRSの不可解さよりは、17インチのポテンザRE050を履くこちらの方がよりハッキリとしたキャラクターで分かりやすいと言えます。
ベース車からの進化はしっかり感じとれて、G‘s分のお買い得感も強い。しかし、それでもこちらの方に魅力をあまり感じられない…それはやはり、ベースモデルの「それなりの出来」が最後まで足を引っ張っているのです。ヒップポイントが高めなのは仕方ないとしても、
ステアリングのテレスコ調整がなくポジションが合わない。エンジンはノーマルなので柔軟性はあるけどもレスポンスはイマイチで、シフトフィールやギア比含めてあくまで実用車。プリウスはプリウスでしか味わえない唯我独尊の魅力が「G‘sであろうとなかろうと」存在しますが、ヴィッツはベース車自体を積極的に選びたいと思う要素が少ない。そして何よりも、より本格的で出来の良いスイフトスポーツが168万円で買えてしまうという事実が、とてもとても大きく感じられる…。
つまりは、あくまでG‘sというのは、あくまで「味付け」であり「ベースモデルのポテンシャルの底上げ」でしかない。確かに価値のある有用な手段の1つではありますが、それでもともとのクルマの魅力の意義さえ塗り替えてしまうという魔法まではかけられないという事実、現実を、このヴィッツG‘sによって教えられたような気がします。ノア・ヴォクシーやヴィッツより、プリウスのG‘sに魅力を感じたのはそこ。
安い肉に、手間暇と金をかけて美味しく食べようとするよりも、良質なお肉をシンプルに塩こしょうだけで味わう方が、より美味しいし結果安上がりになる…とでもいいましょうか。もちろん、世の中には、良質なお肉に手間暇と金をかけたとんでもない絶品な仕上がりをもつ…そんなクルマの世界もあるわけで。
何度も言いますが、これ自体の取り組みは素晴らしいと思いますし、積極的に応援したい気持ちです。これらの活動を通じて、これから登場するトヨタのクルマたちが「フツーの標準モデルから」ポテンシャルアップし魅力あるモデルになる事を願って、今回のインプレッションを終わりにしたいと思います。
Posted at 2012/02/22 23:25:54 | |
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トヨタ | 日記