先日、下見に行った憧れの山のひとつ、寸又川流域の「風イラズ」と呼ばれる山。
山名の由来は、山頂部の森が深くて風が入り込むことも出来ない、つまり漢字では
「風不入」と書くのが正式な表記だと言う。
藪山好きの間では、南アルプス南部の秘峰などと呼ばれるが、一般的にはほとんど
知られていない。
その所在地は概念図の通りで、大井川の有力支流である寸又川のそのまた支流、
栗代川の源流に位置する。
山頂からの南側に下る尾根が最後に大井川に落ちるところには、鉄道マニアの間では
有名な大井川鉄道アプトラインが走っている。
そして標高は2000mにも届かず、山名の通り山頂は黒々とした樹々に覆われて展望も
まったく無い。
しかし、入山者が圧倒的に少なく原始の状態が保たれていること、山頂へ続く尾根には
詳細図のようにいくつものピークが連なり、実際に登る累積標高差は南アルプスの主稜
をも凌ぐことが魅力だ。
山へ行く度に衰えを感じる自身の体力を考えると、最低でも山頂を往復するのに12時間は
必要だろう。
尚且つ、日が短いこの季節、遅くとも17時までには安全圏まで下る必要がある。
逆算すると、朝の5時前に出発しなければならない訳で、登山道など整備されていない
暗闇の中をヘッドランプを頼りに登山を開始するには、少なくともアプローチ部分は熟知
しておく必要があったと言うのが、先日の下見の理由。
多少でも日が伸びる来春の雪解けを待とうかとも迷ったが、人生明日のことは分からない
ので決行とする・・・もちろん、今日は山神様は家においていく。
22日、04:30 標高700mの栗代林道ゲートをスタート。
見上げれば素晴らしい星空だが、林道は真っ暗。
1時間で取り付き到着。ここからは森の中、月明りも無い真の暗闇。
下見をしたと言っても、昼でも見失う薄い踏み跡はヘッドランプの灯りだけではほとんど
わからない。記憶にある地形を頼りに登るが何度も簡単に道を失う、しかし要所要所に
つけておいたマークに救われてその都度リカバリー。
標高1090m付近の稜線に上がると、ようやく西側に見える朝日岳の山頂部に赤味が
差してきた。
07:30 下見の際に引き返した標高1300m付近から風イラズ方向を見る。
しかし、見えているのは山頂手前に連なる1600m級の稜線、山頂部はまだ姿を現して
くれない。
朝の引き締まった空気が流れる爽快な尾根道。
1450m付近のガレの縁は少々緊張させられるが、1612mのピークが近づいた。
ようやく陽射しが、体を暖めてくれる。
ここが地図上の1612m点、抜ケ谷山。
ここでようやく風イラズの山頂がお出まし。
しかし、その手前に並ぶ小ピークの数は、地図よりも多いんじゃないか…?
09:00 地図上の1621m点、黒枯山。
一度ここで寝てみたいと誘われてしまう穏やかな山頂だ。
そして、ここは今日のルートで唯一の展望地。
北側にいよいよ大きくなった風イラズ。
西には、朝日岳と遠く寸又川原流域の山並み。
南を振り返れば、さっき通ってきた抜ケ谷山とその向こうに1580mピーク。
帰りは、またあそこを登り返していくことになるんだなぁ・・・・。
せっかく登ってきたのにまたまた1560mまで下る。
そして、ここからの急登と倒木がこの山のハイライト。
岩稜も増えてくる。
ふくらはぎが張ってくる頃、1700m到達、しかし山頂への最後の登りはこれまで以上に
急峻なようだ。
尾根が一層痩せて両側は絶壁、ただ樹があるので高度感はさほど感じない。
おお~、良い枝ぶりだ。持って帰って家の庭へ植えたいな。
そして1750~1800mへの激登り。
地図の等高線以上に急だ、岩角、木の根をホールドに体を引き上げていく。
そして傾斜が緩むと突然薄暗いシラビソの森。
10:50 本当に風も吹きこみそうも無い静かな山頂に着いた。
三等三角点。
いつの頃の山名プレートか・・・?
古い山岳写真によると「風不入」と記されていたというが・・・「入」だけがかすかに??
とううとう来れたとしばし感慨に浸るが、あんなに良い天気だったのに、急に霧が出て
気温が下がった。
どうせ展望のない山だからいいけど寒い。
山神様の持たせてくれた握り飯を頬張り、滞在25分で下山開始。
登りより下りのほうが傾斜は急に感じるもの。
分かっているけれど、本当にこんなとこ登ってきたっけ?と言いたくなる。
ちょっとルートをはずしたら下りの倒木帯・・・あ~もう許して。
登りではさほど気にしなかった岩尾根も下りは慎重に。
梢の間からこれから下る波打つ尾根が見えた・・・下りじゃなくて登りに見える。
登り返して再び1621m黒枯山。
また陽射しがもどって暖かいので小休止。
この付近は春にはたくさんのアカヤシオが咲くと言う、その時期にテントを背負って花見に
来たいものだ。
霧が晴れて再び姿を現した「風イラズ」、さようなら・・・だ。
疲れた脚にこの落ち葉の滑りやすい急斜面はかなりやっかいだ。
伸びる影と競争で下る。
最大のポイント、尾根から林道への下降点には暗くなった場合に備えて方向を示す
マーキングをしておいたが明るい内に通過できた。
林道におりて30分、またも空を雲が覆った。
今夜は雪になるのだろうか?
だが、下ってきた尾根だけは夕日に真っ赤に焼かれていた。
16:35 ヘッドランプを使うことなく下山完了。
今日も山ノ神に無事な下山を感謝。
今回から身に着けることにした「お守り」。
「ココヘリ」という捜索システムの発信機で万が一の時、ヘリコプターで捜索してくれる。
つまり「ココ」に「ヘリ」来て~!と言う捜索サービスが、年間会費3650円、一日僅か
10円という訳だ。
あくまで捜索ヘリなので救助・搬送はしてくれないが、遭難者の位置を特定して警察等に
よる救助もしくは遺体捜索を迅速に行おうというもの。
本人は好きで登ってるから仕方ないけど、遺体も見つからないと失踪扱いとなり遺族に
迷惑をかけるのは申し訳ないからネ。
帰りの車中から見る長島ダムと大井川鉄道のアプト区間。
左の山が、風イラズから続く尾根の最後のピーク栗代山1293mである。
少々疲れたが、今日も一日よく動いてくれた脚に感謝。