2016年04月21日
三菱の軽は燃費が悪い?その理由
昨日のことですが、三菱自動車が自社で生産している軽自動車「ekワゴン」と「ekスペース」、その二車の日産へのOEMである「DAYS」と「DAYSルークス」が、国交省への届け出で不正があった…とのことです。
燃費試験で実際の数字よりもよく見せるように届け出されていた…ということで、三菱自動車と提携先の日産が、新型車の開発で現行型をテストしたところ、届け出されていたデータよりも悪かったことから日産からの物言いがついたことで発覚とのことです。
ある筋の話からすると、三菱/日産のこれらの車と同級他車と比べると、実燃費でも下回る傾向があることで、燃費の良し悪しが販売台数に影響する現在の市況から、このような不正に走ってしまったという話のようです。
すでに三菱自身が認めたこと、そもそも発覚したのが日産によるテストからであったことから、「隠蔽してた」と言われても仕方のない状況です。
この点、三菱自動車をフォローすることは出来ないですね。
一方で、この件はどうにも腑に落ちない点がいくつもあるのですが、全部は書ききれませんし、色々調べて「なるほど」と思った点があるので、まずはそこに絞りましょう。
まず「なぜ三菱の軽が燃費悪いのか」という点。
これが、種明かしは案外簡単でした。
現行の三菱の軽自動車に使われているのは「3B2型」というエンジン。
最近の軽自動車は、熱効率を優先することで、どのメーカーもストロークを長くとる傾向にあります。
エンジンの排気量を決めるのは、ボア(シリンダー内径=ほぼピストン直径に等しい)×ストローク(ピストン行程・移動量とも)、この1気筒分が何気筒なのかがエンジンの総排気量となりますが、現在はメーカーを問わず、軽自動車のエンジンとして作られているものは、全て3気筒です。(過去には2気筒や4気筒がありました)
メカやチューンに詳しい方には耳タコの話ですが、ボア×ストロークの関係がエンジンの特性に与える影響は大きく、例えば同じ排気量・気筒数のエンジンにするのならば、ボアを大きくすると、ストロークを短くすることになり、逆にストロークを延ばすと、ボアは小さくすることになります。
エンジンのボア×ストロークは、まんま自転車のペダルに例えられるのですが、ぶっちゃけると「ボア」というのは爆発力に直結しますので、自転車で言えば「ペダルを踏む力」。
一方で、「ストローク」はぺダルの上から下まで回したときの移動量に例えられます。
自転車で坂道に差し掛かったとき、平地のままの力では登れなくなりますから、普通の人なら立ちこぎでペダル踏む力を強めるか、変速機のついた自転車ならば、ギアを落とすかすることになりますが、エンジンのボア×ストロークの関係がまんまこれです。
ただし、車のエンジンのボア×ストロークは走行中に可変させることが今の技術では不可能なので、自転車同様に坂道に差し掛かったときのようにパワーが欲しいとなった場合は、変速機でギアを落とすか、アクセル踏むかの二択(または両方)になります。
…長くなりましたが、そういうわけでボアかストロークのどちらを多く取るかで、特に停止からの発進時などで、傾向が大きく変わることになります。
ピストンを押す力が強ければ、ストロークは短く取れるけれど、反面それだけ空気や燃料をアイドリングから多めに使うことで、頻繁な停止が多い場面では燃費が悪くなる。
そのため、低燃費が社会的に求められる昨今のエンジンは、ストロークを長めにとるエンジンが多いのです。
…だいぶ前置き長くなりましたが、低燃費に効くストローク長めのエンジンが幅をきかせる現在の軽自動車で、三菱/日産のek・DAYSが積んでるエンジンは三菱製3B2型というものなのですが、このボア×ストロークを調べてみたら 65.4mm×65.4mm。
3B2が主流となる前の三菱製軽自動車のエンジンは3G8というものでしたが、こちらは65.0mm×66.0mmで、燃費に効くロングストローク型。
実際にそのエンジンを積んだ三菱ミニカ・トッポを運転したことがありますが、同世代の他社製軽自動車と比べて、妙にトルクフルだったと記憶しています。
ストローク長くして低速トルク型に振振って、燃費をよくしようとしてるのは各社試みていることで、スズキとホンダの軽自動車のエンジンを調べてみたら、もろにそれを証明するデータが出ました。
スズキ(型式の後はボアmm×ストロークmm)
F6型(初代ワゴンR、カプチーノ前期などに使用) 65.0×66.0
k6型(カプチーノ後期型~)68.4×60.4
R6型(現行)64.0×68.2
ホンダ
E07(660cc初期からライフ最終型、アクティ・バモスで現役。ビートもこのエンジン)66.0×64.0
S07(N-BOXでデビューして現役。S660もこれ)64.0×68.2
こんな形で、現行のエンジンはすべからくストロークを長くとられています。
実際問題、初代ワゴンRに代車で乗ったことがあるのですが、燃費が笑っちゃうほど悪くて、あの型だとF6型だと思ったんですが、ショートストロークのエンジンと3速ATの組合せで、普通に街中走ってリッター10km前後がやっとという体たらくでした。
全部がそうじゃないとは思いますが、昔の軽はこんなに燃費悪かったんですよ…。
新型エンジンやCVTなどの変速機、タイヤや軸受け、さらに言えば抵抗の少ない新型エンジンオイルのおかげで、軽の燃費はずいぶんと向上しましたが、それでもなお低燃費車の需要は止まりません。
わずかでも他社より低燃費というそんな状況で、燃費に効くロングストローク型エンジンへ同級他社が舵を切る一方で、三菱は逆行してストロークを短くしたのはなぜなのか?
この3B2というエンジン、元々は三菱i(アイ)用のエンジンなのですが、リアエンジンのiに積むには旧型エンジンでは高さがあるため、切り詰めるためにストロークを短くした新型エンジンを開発したのです。
その後、三菱軽のエンジンは、ミニキャブを自社製からスズキ・キャリィのOEMに切り替えたり(この時にロングストロークの3G8は生産終了)、軽自動車のラインをekのものに統一化するなどの合理化により、エンジンもストロークの短い3B2型へ一本化されたのです。
ストロークの長い旧型エンジンないしは、新型エンジンを開発したら?という声もあるでしょうが、エンジンの新規開発にはコストも時間もかかり、その分を取り戻すには相当の時間がかかるため、エンジンというのは車がモデルチェンジしても数世代に渡って使われるのが業界の慣習です。
AE86に積まれたことで有名なトヨタ4A-Gエンジンなどは、AE86がデビューした1983年から、レビン・トレノが生産終了になった2000年代まで20年以上、初代レガシィで1989年にデビューしたEJ20にいたっては、現行WRXに積まれて今なお現役です。
三菱に話を戻せば、iでデビューしたエンジンが未だ開発コストを吸収しきれておらず、まだロールアウトしてから年数が経っていないエンジンであることで、「まだ使おう」という経営陣の判断があったものと思われます。
その際、開発の社員から「低燃費性能に問題あり」との指摘もあったとは思いますが、「新しいエンジンである」ことと「経営コスト削減」を迫られていた状況から、「低燃費性能は開発努力で何とかしろ」といった命令が下ったのかもしれません。
また、新規開発がうまくいかない開発スタッフを経営陣が更迭した…という噂も耳にしますが、そんな社内の環境と経営陣への恐れから、「どんな形でも成果を出さないと」という、強迫観念もあったのかもしれません。
(2005年のJR西日本・福知山線脱線事故でも、わずかな遅れも許容しない社風が、運転士を危険運転へと駆り立てた…という話がありましたが、これに近いものがあったのかも)
そのような経営判断へと走らせたのは、データ改竄したスタッフだけのせいには出来ないと、私には思えます。
…多分に自分の予想も含んだ創作話のようなものですが、判断ひとつで会社の存亡をも左右する大事態になってしまうのですから、恐ろしいことだと思います。
ここまで書いて何ですが、もしかしたら消すかも…(汗)
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Posted at
2016/04/21 20:08:34
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