TC1000で40秒台に入った辺りから,次のステップとして「Sタイヤ」がチラつき始めました.
今使っているYOKOHAMAの「A052」は,同社のSタイヤ「A050」のMコンパウンドに匹敵するグリップ力を有しているとの噂です(しかもMコンパウンドより熱の入りが良い).Mコンパウンドの上にはジムカーナ用のG/S,G/S2コンパウンドが存在する訳なのですが・・・って考えているうちに,そもそも「Sタイヤ」って何なんだっけ?と思いました.
偶然にも先日,ATR-K SPORTを履いたFD2が好タイムをマークし,「
ATR-K SPORTはSタイヤ扱いだ~」なんて話を耳にした事から,これはちゃんと整理しておいた方が良いな・・・と思ったので,今回はタイヤルールに関するお話です.
まずは,「Sタイヤ」の定義に関するおさらい.
「Sタイヤ」とは,本来公道において合法的に使用することが出来ないタイヤである「レーシングタイヤ」に近いレース用の性能を持ち,公道において合法的に使用出来るタイヤの通称.より近いという意味で「セミ(Semi)レーシングタイヤ」とも呼称される.主にタイヤメーカーが「競技用」等と謳っているものを指す(
Wikipediaより抜粋).
上記を要約すると以下のような感じ.
①公道において合法的に使用出来るタイヤ
②「レーシングタイヤ」に近いレース用の性能を持つ
③タイヤメーカーが「競技用」と謳っている
細かく見ていきます.①の「合法的に使用出来る」の定義は何か?というと・・・,
タイヤの接地部の全幅に渡り,滑り止めのために施されている凹部のいずれかの部分においても1.6mm以上の深さを有すること(道路運送車両法の保安基準の細目を定める告示 第167条4より抜粋).
つまり,「タイヤの横方向に1.6mm以上の溝がある事」という事のようです(溝がないタイヤはレーシングタイヤって事ですね).②の「レース用の性能を持つ」という定義は曖昧ですが,ここでは「高いグリップ性能を得るために,耐久性を度外視している」とでも考えれば良いですかね・・・.③はシンプルで,タイヤメーカーが「競技用」って言ったらSタイヤって事です.これは言い換えると,メーカーが「競技用じゃない」と言い張れば,どんなに減るタイヤでもSタイヤにはならない,って事でしょうか.
他にもSタイヤの特徴として,「1つの銘柄に複数のコンパウンドが用意されている」というものもあり,低温域/中温域/高温域のような路面温度に合わせて,「ソフト(S)」「ミディアム(M)」「ハード(H)」みたいな感じで分かれているようです.ただ,これは単なる特徴なので「分かれていない=Sタイヤじゃない」とは言えないようですね.
さて,Sタイヤか否かを識別する最も単純な方法は「メーカーが競技用と言っているかどうか?」ですが,先程も述べた通り,Sタイヤ相当の性能を持っていてもメーカーが「競技用じゃない」と言い張れば,そのタイヤはSタイヤじゃないって事になります.従って,Sタイヤか否かでクラス分けを行うと,この境界線が問題になるため,各イベントではSタイヤと同一と見なすという意味の「Sタイヤ扱い」という独自の定義が誕生したようです.
じゃあ,何がどうだったら「Sタイヤ扱い」になるのか? この問題に最も悩まされているジムカーナの例を見てみます.ランニングコストを下げるため「Sタイヤ」を排除したい全日本のPN部門の規定を見てみると・・・,
(2020年全日本ジムカーナ/ダートトライアル選手権統一規則第2章第2条2より抜粋)
(1) JATMA(日本自動車タイヤ協会)ラベリング規格における転がり抵抗C以上,ウェットグリップd以上であること.
または,欧州のグレーディング規格における転がり抵抗F以上,ウェットグリップE以上であること.
(2)上記(1)を満たしたタイヤで,かつタイヤ接地面にタイヤを1周する連続した複数の縦溝を有していること.
但し,縦溝のみを有したタイヤの使用は認められない.
(3)当該の縦溝はトレッドウェアインジケータ(スリップサイン)が出るまで維持されていること.
(1)のJATMAラベリング規格というのは,コレ(↓)ですね(RE-71RSより).
欧州のグレーディング規格の方は,コレ(↓)ですね(A052より).
そして,これ等のタイヤは1周する縦溝を有していますし,縦溝のみでもないので,「Sタイヤ扱い」を回避しているという事ですね.
【RE-71RS】
【A052】
ところが,RE-71RSやA052といったタイヤも「Sタイヤ扱い」にしたい(ランニングコストをもっと下げたい)地方選手権では,全日本の規定に加えて,独自のルールを更に設けています.
【北海道】
【東北】
【関東】
【中部】
【近畿】
【四国】
【九州】
【四国】が一番細かく具体的,反対に【関東】が最もシンプル(全日本同等)ですが,独自のTRED WEAR規定(アメリカで設けられたタイヤの性能基準)を設けたクラスがあるのが特徴的ですね.
また,【東北】の「2019年12月31日時点で,1銘柄で単一コンパウンドかつ国内販売が30サイズ以上のラインナップを有すること」はSタイヤの特徴であるコンパウンド違いを排除する目的の条文でしょうし(実はRE-71RSは2020年販売なので使えない),「左右対称パターンであること」という条文によってA052も排除している点が工夫していますね.
ちなみに,どの地方選手権の条文を読んでも直接的には「ATR-K SPORT」の名前が出てこないので,やっぱりこのタイヤは「Sタイヤ扱い」にならないんですかね・・・(R888RやAR-1は出てくるんですけど).
そこで,最後に我らが筑波サーキット(TC2000)で行われている公式戦「2020 JAF筑波サーキットトライアル選手権シリーズ」の規定を確認してみました(3. 参加車両より).
2)CLOSED部門を除き,純正装着以外で使用できるタイヤは,同銘柄(パターン)に以下の条件を満たした,
一般に市販されているタイヤでなければならない.但し,縦溝のみのタイヤや通称Sタイヤは使用禁止とする.
①単一コンパウンド かつ 国内販売が20サイズ以上のラインナップを有すること.
②上記①を満たしたタイヤで かつ タイヤ接地面にタイヤを一周する連続した複数の縦溝を有していること.
③縦溝はトレッドウェアインジケータ(スリップサイン)が出るまで維持されていること.
ジムカーナの規定に近いですけど,同一コンパウンドのサイズ数は「20サイズ」とちょっと少ないですね.また,こちらの場合は具体的に使用禁止/使用可能なタイヤの銘柄も紹介されています.
そして,「使用禁止タイヤ」にも「使用可能タイヤ」にも「ATR-K SPORT」は出てこないという(苦笑).単にマイナーなだけなのかもしれませんね.
あ,ちなみにA052は禁止タイヤに出てきますけど,RE-71RSは?というと・・・,
なんと! 「使用可能タイヤ」なのだそうです.
RE-71Rの後継という位置づけなので,可能に分類したんでしょうけど,表を見る限り,これ一択になっちゃう気がしますね.
以上,「Sタイヤ扱い」に関するお話でした.
結局のところ「Sタイヤ扱い」の明確な判断基準はなく,イベント毎に主催者が独自の判断をしているというのが実態のようです.これって,見方を変えれば「どう見てもSタイヤに見えないタイヤも,ロビー活動をすればSタイヤになる」ってケースもある訳で,「まずは文句を言ってみる!」というのが,案外大事だったりするのかもしれません(笑).
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セッティング検討(タイヤ) | 日記
Posted at
2020/04/02 01:39:39