TC1000でのテストの結果から新しいダンパーの仕様が概ね理解出来ました.良い点・悪い点色々見つかったので,情報を整理しつつ次のステップへ進みたいと思うのですが,その前に「そもそもダンパーって,どういう考え方で設計されているんだっけ?」と基本的な事を理解していない事に今頃気づきました(苦笑).
今まで
スプリングに関しては色々調べてきましたが,バネレート決めたら,ダンパーは減衰調整で合わせ込んじゃえばそれでいいや~的な考え方だったので,真面目に考えた事がなかったですね・・・(汗).反省して1回基礎から勉強し直してみます.
まずは基本中の基本,スプリングとダンパーの役割の違い.

(REVSPEED 2018年11月号より)
色々な言い方がありますが,要約するとサスペンションに「力」が加わった時に,「位置」を変化させるものがスプリングであり,「速度」を変化させるものがダンパーといったところでしょうか.ロールやピッチといったクルマの姿勢変化に対して,絶対的な「量」(物理単位で言うと「m」)を変えたければスプリングを,その変化の「過程」(物理単位で言うと「m/s」)を変えたければダンパーをイジる形になりますね.
つまり,ダンパーの減衰を強めるという事は「変化を遅くする(例:1.0m/s→0.1m/s)」という事であり,反対に減衰を弱めるという事は「変化を早くする(例:1.0m/s→10.0m/s)」という事になります.難しいのは「遅い方がいい」とか,「早い方がいい」とか,一概に言う事は出来なくて,その時その時の状況に合わせて「ちょうどいい」ところを探さないとダメって事でしょうか.
次に構造.私が使っている
Aragostaは「単筒式」なので,ここに絞って考えます.

(REVSPEED 2020年9月号より)
「単筒式」の構造は上図の通りで,シェルケースの中にオイルが入っていて,そのオイルの中をピストンバルブが上下に動き,その際に生じる抵抗によって減衰を発生させる構造です.
では,その抵抗がどうやって生じるかというと,以下のような感じ(↓).

(REVSPEED 2020年9月号より)
基本的な減衰力は,ピストンバルブに開けられた穴を通るオイルの通過量で決まるので,その穴に設けられたシムで設定されています.一方,サーキットで日常的に行われる減衰調整は,このシムではなく中央のニードルの方を使って行われ,車高調に付いているダイヤルを回すと,ニードルが上に進んで,オイルが通過出来る隙間を減らす事で実現しています(オイルが流れにくくなる=抵抗が増える=減衰が大きくなる).
ここで1つポイントなのが,減衰を調整しているのがニードル(円錐形状のもの)という事ですね.Aragosta(減衰調整が20段階)の場合,6回ダイヤルを回すとさせると1周するのですが(1クリック=60°),それによって上下動する物体が円錐形状であるため隙間(流路)を狭める量が均等ではなく,例えば,1段戻し→10段戻しと,11段戻し→20段戻しで,同じ10段の変更であるにも関わらず,減衰の変化量が異なるそうです.このため,20段階調整における減衰の中間点は,20段の半分=10段戻しの位置ではなく,7段戻しくらいの位置になるのだそうです.
これを知ると,今使っているAragostaのリアの減衰に対して,私は実走して真ん中くらいの減衰設定で「ちょうどいい」と判断した訳ですから,実はEF8のサスペンションをしっかりと理解して「ちょうどよく」作られた代物なのかもしれませんね・・・(フロントは+αの要素があるので「ちょうどいい」の判断が難しいところですが).
先に調整機構の話になってしまいましたが,話を戻して,ダンパー本体の減衰設計です.
先述した通り,ダンパー本体の減衰特性はピストンバルブに開けられた穴(オリフィス)とシムによって定められ,それを示したものを「減衰力特性図」と言うのだそうです.

(
ダンパー講座より)
この図の縦軸は減衰力,横軸はピストンスピードとなっており,ご覧の通りピストンが早く動けば(急激にダンパーがストロークすれば)強い減衰力が生み出される事が分かります.そして,この減衰力の過渡には特性が変化するポイント(Knee)が存在する事も読み取れます.このKneeを境目にしてピストンスピードが高い領域を「高速域」,ピストンスピードが低い領域を「低速域」と一般的に言うのだそうです.
「高速域」はシムの設定で定まる領域で,特性的にはピストンスピードが上がるに連れて減衰力が一定量強まる,ほぼ真っ直ぐの特性となるようです.一方,「低速域」は穴(オリフィス)の設定で定まる領域で,穴で生み出す減衰力は速度の二乗に比例するため,二次関数(バナナ形状)みたいな特性になるのだそうです.
さて,ではサーキットで主に使われる領域はどこなのか?というと,「低速域」なのだそうです.
つい「サーキットってスピード出すんだから,高速域なんじゃないの?」と思いたくなりますが,ここで言っている速度はピストンスピードであって,車速ではありません.「ピストンスピードが高い」という事は,「ダンパーが急激にストロークしている状態」という事になるので,大きな段差を乗り越えるとか,穴に落っこちるとかしないと起きず,平坦なコース上では起こり得ないそうです(唯一例外があるとすれば,縁石に引っ掛けた時くらいでしょうか?).
じゃあ,数値で言うとどれくらいが「低速域」なの?というと,「0.1m/s」くらいだそうです.「0.3m/s」くらいで「中速域」だそうで,これは荒れた路面じゃないと出ないレベル,「0.5~0.6m/s」くらいの「高速域」になると,もはや舗装路とは見なさないレベルだそうです.「いやいや~,200km/h台からのフルブレーキングとかだったら,もっとピストンスピードは速いんじゃないの~?」と思いたくなりますが,1Gレベルの減速度でもピストンスピードは「0.2m/s」くらいなのだそうです.
なんだかピンと来ないですが,「0.2m/s」=「0.02m/0.1sec」=「0.1秒で0.02m(20mm)縮む」という事になるので,10キロのスプリングの最大許容ストロークが大体90mmくらいである事を踏まえると,「約0.5秒で10キロのスプリングがフルストロークする速度・・・」と置き替えてみれば,少しはイメージが湧くかもしれません.
さて,ダンパーの話になると,「サーキットでの減衰は低速域が重要なんだ!」という話をよく聞きますが,これでなぜ「低速域」なのか?は何となく理解出来ました.

(AutoExe:
チューニングを楽しむための動的感性工学概論10より)
じゃあ,実際,サーキットスペックのダンパーはどれくらいのピストンスピード域で拘っているの?というと,0.01,0.02,0.03,0.05,0.1,0.2m/sといった単位で,0.05m/s以下「微低速」の領域が主だそうです.こんな世界での拘りで作っていたら,そりゃ,数十万単位の製品になるよなぁ~と改めて思いました.自分のダンパーの「減衰力特性図」を持っている人は少ないと思いますが,是非とも拘りの特性を数字で見てみたいですね.
最後に,ダンパーの減衰力を設計する時に考慮するファクターに関して.
これもダンパーの話になるとよく聞くのですが,「○○のクルマはデータがあるから車高調は作れる」とか,「△△のクルマはデータがないから作れない」とか聞くのですが,そのデータって一体なんなんだ?という話です.調べてみたところ,
Car Watchの記事に書いてありました.
・スプリングレート
・スプリングレートの過渡特性(レートが途中で変わるか?等)
・スプリングの自由長
・スプリングのセット長(組付けた時の長さ)
・スプリングのストローク量
・クルマの車重
・重量バランス(重心位置)
・トレッド
・ホイールベース
・サスペンション形式
ダンパーの仕様変更を依頼する時,変更後のスプリングに関しては当然聞かれますが,車体側のこういったパラメータに関しても考慮しているんですね.ノーマルであれば車重・トレッド・ホイールベース・サスペンション形式といったものはカタログからでも読み取れると思いますが,重量バランスや重心位置となると,なかなか手に入りませんね.ここら辺がデータのない車種の難しいポイントなのでしょうか・・・?
以上,ダンパーのお勉強でした.
今回は世の中で一般的に言われている事を改めて確認しただけなのですが,サーキットで使いこなす上で,どの辺りに注意を払えば良いのか少し掴めた気がします.これらの事を頭に入れつつ,次のステップを考えていきたいと思います.