前回,A052とZⅢの違いは何か?みたいなテーマでブログを書いた訳なのですが,何分感覚的な話なので,もう少し物理的な話がしたいなぁ~と思いタイヤの構造の違いに着目してアレコレ調べていました.
私はタイヤ工学は学んだ事がないですし,材料系の話が中心なので軽く目を通したくらいでは全く理解が出来なかったのですが,それでもこういう違いなのかなぁ~? こういう点に着目すればいいのかなぁ~?くらいは窺い知れたので,今回はそれを纏めておこうと思います.
まずは基本的な用語からおさらい.タイヤの用語はあまり聞き慣れないので,なかなか頭に入らず,何度も見返してました(笑).

(横浜ゴム:
タイヤの構造より)
では,A052の構造の方から行ってみましょう.
コチラの方のブログを参考にさせて頂きました.
コチラの方はA050との対比でA052の話をされているのですが,その中で「カーカスの角度」というキーワードが出てきます.上の図に戻って「カーカス」がタイヤの内側で骨格をなしている部品である事は分かるのですが,その角度がどうこう言われると「???」です.「この角度が違うと何なんだ・・・?」と調べてみると,「バイアスタイヤとラジアルタイヤの違い」という話になりました.

(MOTOR ACE BLOG:
ラジアルタイヤとバイアスタイヤの違いを分かりやすく解説!より)
タイヤを正面から見た時に,カーカスが真横を向いているのが「ラジアル」,カーカスが斜めに向いているのが「バイアス」だそうです.そういえば昔そんな勉強をしたなぁ~と思い出しつつ,「で? この向きが違うと何なの??」と読み進めると,
【ラジアル(カーカスの向きが真横)の特徴】
・タイヤが転がる際,折れ曲がる力が働いてもカーカスが真横を向いているので,カーカス同士が接触しない
・カーカス同士が接触しないので,変形時の抵抗が少ない(転がり抵抗が小さい=燃費が良い)
・反面,カーカス同士が接触する事によるタイヤ形状の維持が期待出来ない
・形状を維持出来ないので,高回転/高負荷が苦手
・これを補うために,カーカスとトレッド表面の間にベルトが入っている
・トレッド面にベルトが入る都合上,トレッド面はサイドウォールに比べて厚くなっている
・言いかえると,サイドウォールはトレッド面に比べて薄く,変形し易い(ヨレ易い)
・また,トレッド面はベルトによって変形しにくいため,タイヤが温まりにくい
【バイアス(カーカスの向きが斜め)の特徴】
・タイヤが転がる際,カーカス同士が接触するので,転がり抵抗が大きい
・反面,カーカス同士の接触によってタイヤ形状を維持し易い
・形状を維持し易いので,高回転/高負荷に耐えられる
・高回転/高負荷に耐えられるのでベルトが要らない
・ベルトがないので,トレッド面とサイドウォールの厚みが同じ
・ベルトがないので,タイヤの剛性を上げるためにカーカスは2層が当たり前
・結果,サイドウォールもカーカスが2層になって変形しにくい(ヨレにくい)
・タイヤがヨレる時は,トレッド面/サイドウォール一緒に変形するので,タイヤが温まり易い
これだけ読むと「サーキットで使うには,バイアスの方が良くね?」と思っちゃいますよね.バイアス(斜め)の方が高回転/高負荷に強いですし,サイドウォールの剛性高いですし,温まりも早いですし・・・.
そんな事を思いながら先述のブログに戻ると,「だから,A050もA052もカーカスの角度が真横じゃない」って事のようです.ラジアルの定義はカーカスの角度が真横(90°)な訳ですが,実際には,
A050 ・・・ 79°
A052 ・・・ 85°
であると.バイアスタイヤのカーカス角度は「60°」だそうなので,そこまでの角度はついてないから,「A052はラジアルタイヤである」と言っているようです(先述のブログの方は,完全なラジアルではないので「ハーフラジアル」なんて言い方をされています).いずれにせよ,A052はA050ほどカーカスの角度がついていないので,A050に比べれば高負荷に耐えられないと言えるようです.
あと,このブログの中で触れられてるのが,ビードワイヤーで折り返した後のカーカスの高さ(↓).
A050はカーカスの2層ともサイドの高い位置まで巻かれているそうですが,A052は2層中1層はビードフィラー部分で止まっているそうです.つまり,この分A052の方がショルダー部の剛性が低いという事になりそうです.
また,この方は,A052のカーカス素材が「ナイロン(NYLON)」である事にも触れられています.
ラジアルタイヤは一般的に「ポリエステル」が使われており,バイアスタイヤでは「ナイロン」が用いられる事が多いそうです.この点からもA052は「バイアス寄りの特性を持ったタイヤ」と言えそうです.
では,これに対してZⅢはどうなの?と気になるところですが,先述のブログの方は残念ながらZⅢが入手出来なかったようで,そちらの構造分析はなかったのですが,代わりに
ZⅡStarSpecで行われたようです.
ZⅢとZⅡStarSpecが同じ構造なのかは分かりませんが,参考までに見てみると,カーカスの角度は完全な真横(90°)のようです(これを「フルラジアル」と表現されています).カーカスの素材も「ポリエステル」だそうですし,正真正銘スタンダードなラジアルタイヤのようですね.だとすると,トレッド面のベルト補強は強そうです.

(ショップ行って,転がっているZⅢの写真を撮らせてもらったら「ポリエステル(POLYESTER)」でした)
「ベルト部分が強い≒トレッド面が固い」で思い出したのですが,私は過去に一度だけZⅡ(無印)を使った事があるのですが,その時はAD07からの履き替えだったせいか,トレッド面が異様に固く,乗っていて「なんだ!? このタイヤは・・・」と思う程でした.その一方で,サーキットでコーナリング時に荷重を掛けていくと,途中ですっぽ抜けるかのように急にグリップが失われる癖があり,非常に扱いにくいタイヤでした(後にRE-11Aにスイッチした).今思うとあれは,正真正銘のラジアルタイヤだったのでトレッド面に比べてサイドウォールの剛性が低い事に由来していたのかもしれませんね・・・.変なところで納得出来ました(笑).
話を戻して,もしZⅢも純然たるラジアルタイヤの特性を持っているのだとしたら,バイアスタイヤ寄りの特性を持つA052と比べて,ショルダー部分の剛性が低くて斜めのグリップを使いにくく,ヨレ易い割にはA052に比べて温まりが悪いという特徴が出てくるのも理解出来ますね.
以上,タイヤ構造のお勉強でした.
こういった構造の詳細はメーカーは社外秘にするでしょうし,素人が手で触って分かるものでもないので,窺い知る事は難しいと思われます.唯一ヒントになりそうなのは,タイヤのサイドに刻印されているカーカスの素材で,そこに「ナイロン(NYLON)」の文字があれば,「このタイヤはバイアス寄りの特性を持ったタイヤなんだなぁ~」と判断出来るかもしれません.ただ,BRIDGESTONEのように,カーカスに角度を付けていても「ポリエステル(POLYESTER)」を使用しているケースもありますし,一概には言えず,やっぱり素人には難しい世界だなぁ~と実感しました.