ダイレクトイグニッション化して,火花が強くなったと思ったのですが,実際に乗ってみると1000rpm以下の極低回転で以前よりもトルクが減ったように感じました.
燃調が合ってないのかなぁ~?と思って空燃比をチェックしてみたのですが,従来よりも濃い目となっており,点火時期もディストリビューターの頃より進角しているのですが,時折急にトルクを失ったかのようにエンストします.やむなくアイドル時の回転数を100rpm程引き上げたのですが,それでも弱弱しい感じでエンストしかかります.
なんとなく症状的に失火しているような印象を受けたので,燃料を濃くしてみたり,点火時期を進角させてみたりしたのですが,一向に解消されず,
「これはまさか火花が弱くなってる・・・?」
と思うようになりました.折角ダイレクトイグニッション化したのに火花が弱くなるというのは意味不明なので,原因は何だろう?と追いかけるうちにLINK ECUの「ドエルタイム」の設定に行きつきました.
「ドエルタイム(dwell time:滞留時間)」とは,イグニッションコイルの1次コイルに通電している時間の事です.

(NGK:
イグニッションコイルの役割より)
そもそもイグニッションコイルがどういう原理で火花を飛ばしているのか?に関しては
NGKのサイトを見て頂くとして,「ドエルタイム」を端的に表すのであれば,「点火コイルにエネルギーをチャージする時間」とでも言えば良いでしょうか.チャージする時間が長ければエネルギーも大きくなりますし,エネルギーが大きくなれば火花も強い・・・みたいなイメージです.
このエネルギーを決める要因には,前述の「コイルに通電している時間(通電時間)」の他に「バッテリー電圧」があり,共に大きくなればなるほど点火エネルギーも大きくなります(↓).
ならば,「通電時間を永遠に延ばし続ければ最強の点火になるじゃないか!」と思いたくなりますが,そんな事をしたらコイルに貯まった強大なエネルギーにコイル自身が耐えられなくなり,壊れます(パンクします).
このため,コイルには貯められるエネルギーの上限が設定されており,「バッテリー電圧」が高いほど「通電時間」は短く,「バッテリー電圧」が低いほど「通電時間」は長く設定する必要があります(↓).
「バッテリー電圧」はオルタネータで発電した値となりますので,基本的には回転数が上がれば値は大きくなりますし(14V前後),回転数が下がれば値は小さくなります(12V前後).この関係性から上図を表現するとこんな感じ(↓)になります.
つまり,これが「ドエルタイム」の設定値(ドエルマップ)になります.
(LINK ECUに入力する際は縦軸が上下逆になりますが・・・)
さて,話を最初に戻して,今回は「1000rpm以下の極低回転で火花が弱いのでは?」と疑っているので,火花を強くしたいのなら「ドエルタイム」の値を大きく(通電時間を長く)すれば良い訳です.「よ~し!」と思ってコイルをパンクさせないように注意しつつ値を大きくしてみると,
余計エンストするようになりました・・・.
_| ̄|○ ガクッ
おかしい.理屈と合わない.なぜ?なぜ?と頭を捻りつつ,試しに「ドエルタイム」の値を小さくしてみると,
エンストしなくなった・・・. (・∀・)??
さっぱり意味が分かりません.ドウイウコト・・・??
物理現象と合わない時は制御を疑うのが近道なので,まずは何か「ドエルタイム」のリミッターみたいなものが存在していないか調べてみます.
点火コイルにエネルギーを貯めるための時間は,エンジンが回転している中で行われるので,回転数が上がるとチャージ出来る時間も少なくなります.もしかしたら回転数を上回る長時間設定になってしまったのかも・・・?と思い,試しに9000rpmの時を試算してみると,
9000 [rpm] = 9000 [rev/min] = 150 [rev/sec] = 0.15 [rev/ms] → 6.67 [ms/rev]
つまり,9000rpmの時はエンジンが1回転するのに6.67msの時間が掛かる,という事です.
一方,ダイレクトイグニッションは「独立点火」ですので(↓の左側),
4サイクルエンジンの場合,2回転する間に各気筒で1回点火するだけ済む訳ですから,1回のチャージに使える時間は2回転分あるという事になります.
6.67 [ms/rev] × 2 [rev] = 13.33 [ms]
以上より,B16Aにおける設定可能な最長のドエルタイムは「13.33ms」で,これ以下の値を設定しないといけない訳なのですが,
今,設定してる値はこれの半分以下だよ・・・.
_| ̄|○ ガクッ
という事で回転数リミッターではなさそうです.他に要因がないか調べてみたのですが,LINK ECUのマニュアルを読む限りリミッターっぽいものは見当たらない.ECU側が原因でないとすると,コイル側か・・・?と思い,私の使っているイグニッションコイルがK20A用である点から調べてみると・・・,
海外のサイトで,以下のように書かれたものを見つけました(↓).
「K20AのGoodなセットアップ値はこれだぜ!」
(b≧∀) Good♪
バッテリー電圧 ドエルタイム
8V ・・・ 4.8ms
9V ・・・ 3.5ms
10V ・・・ 3.0ms
11V ・・・ 2.5ms
12V ・・・ 2.1ms
13V ・・・ 1.8ms
14V ・・・ 1.7ms
15V ・・・ 1.5ms
この値とショップで適合されたLINK ECUの値を比較すると,高回転域はこれに近い値となっていました.
高回転域がこれで合っているならば,現在問題を抱えている1000rpmくらいの低回転域はどう設定すりゃいいんだ?と思い,その後もアチコチ見渡してみますが,回転数の軸がないデータばかりでした.
「これはもしや,回転数(横軸)の設定って要らないのか・・・?」
と思い,LINK ECUのデフォルトデータで,ダイレクトイグニッション仕様のL15Bの値を調べてみると,
(ちなみに,K20A用のデフォルトデータはありません)
「回転数軸使ってないじゃ~ん」
(横軸が全部同じ値になっている)
・・・という事で,「ドエルタイム」の値を増やすとエンストする原因はよく分かりませんでしたが,海外のサイトで見つけたK20A用のドエルタイムを設定して,回転数(横軸)は無効化する方法が良さそうです.
(これだと,結果的に「ドエルタイム」の設定値は現状より小さくなる)
「ドエルタイム」は値が小さい方がコイルへの負荷も小さく,寿命も延びる方向なので,この値に設定してエンスト耐力を確認してみたいと思います.