
「アッカーマンに反対な人から学ぶ」という意味ではなく(笑),ジオメトリーのお話です.
以前,
トー角のセッティングを考えていた時に,「アッカーマン・ジャントー機構」の勉強をしたのですが,理論が難しくて私の頭では理解出来ず,「ステアリングを切った時に内側のタイヤが外側よりも切れる機構」とだけ覚えていました.
その後,トー角のセッティングも方向性が見え忘れつつあったのですが,別なところで思い出させられました.
それは今年5月のF1モナコGPで,フェルナンド・アロンソ選手がミラボーでクラッシュした時で(タイトル画像参照),この映像を見た一部の人達が「フロントタイヤが同じ方向を向いてない!」と話をしていたのですが,私自身は「そりゃ,クラッシュしたんだからタイヤは同じ方向を向いてないだろ・・・」と流してました.
ところが,どうやらそういう意味ではなく,クラッシュ直前のタイヤの角度を見て(↓),「(クラッシュ前に)左右で同じ方向じゃない!」と言いたかったようです・・・(汗).
確かに,ステアリングを切った状態で,外側のタイヤが内側のタイヤよりも切れ込んでいます・・・.以前勉強したアッカーマンステアリングとは内・外の関係性が逆で,「なんじゃ,こりゃ?」と思い調べてみると,
こんな記事を見つけました.
英文なので意訳すると,
コーナリング中,内側のタイヤは旋回中心に近いため,外側のタイヤに比べて移動距離が短くなる.このため,クルマには所謂「アッカーマンステアリングジオメトリー」が備わっている.ステアリングホイールを回すと,内側のタイヤが外側のタイヤよりも大きく切れるのだ.

(F1Technical:
A curious F1 tech detail - The Anti-Ackermann steeringより)
しかし,F1ではこの現象は起こらない.
F1では性能が優先される.「アッカーマンステアリング」はタイヤのスリップを最小限に抑え,摩耗を低減するが,性能としては理想的ではない.コーナリングフォースを生み出すためには,タイヤは横方向に滑る必要があり, タイヤの荷重が増えると,グリップを最大化するためのスリップ角も増えるためだ.

(F1Technical:
A curious F1 tech detail - The Anti-Ackermann steeringより)
コーナリング中は「遠心力」によって内側のタイヤの荷重の一部が外側のタイヤへと移動する.従って,タイヤのグリップを最大化するためには,外側のタイヤが内側のタイヤよりも多く滑る必要がある.これを実現するためには,外側のタイヤが従来の「アッカーマンステアリング」よりも多く切れる「アンチアッカーマンステアリング」が必要となる.
F1 はこれを極端にしたものを使用している.「アンチアッカーマン」のレベルが非常に高く,外側のタイヤは内側のタイヤよりも大きく切れている.これによりタイヤの摩耗は悪化するが,横方向のグリップは向上する.モナコのような(抜けない)サーキットでは摩耗は重要ではなく,グリップの方がより重要となる.
「へぇ~,これは知らなかった・・・」と興味が湧いたので,続けて「アンチアッカーマン」に関して調べてみたところ,こんな特徴(↓)がある事が分かりました.
・F1に限らず,スリックタイヤを履くレーシングマシンはアッカーマンジオメトリーを採用しない傾向がある.
・スリックタイヤを履くようなクルマは,旋回時の内側のタイヤの荷重が限りなくゼロに近い.
・このため,「アッカーマンジオメトリー」を取り入れてもあまり意味がない.
・例えば,パドックでクルマを押して動かす際は「アッカーマンジオメトリー」の方が移動は楽.
・ただ,強力なLSDが組み込まれたマシンは,元々小回りが利かないので大した問題ではない.
・「アッカーマンジオメトリー」を取り除くと,舵を入れた瞬間の応答性が向上する.
・これはレーシングマシンだけではなく,市販車でも同様である.
・ただ,フルロック状態からハンドルが戻らなくもなるため,市販車では採用されない.
・また,F1は構造上,「アッカーマンジオメトリー」を取り入れる空間的余裕がないためでもある.
・スリックタイヤを履いたマシンに限定されるのは,タイヤの特性によるものである.
・スリックタイヤは特に温度管理が重要で,ちょっとした差でタイヤのグリップが変わる.
・「アッカーマンジオメトリー」は,過大なスリップアングルを生む.
・このため,タイヤの左右で温度差を生む要因となり,温度管理には不都合となる.
「へぇ~,なるほどねぇ・・・」と思いつつ,スリックタイヤ前提だから,市販のラジアルタイヤ前提の市販車には,この考え方を取り込むのは難しいんだろうなぁ~と思って調べていたら,市販車でもこれに似た「パラレルステアリング」というのを採用している事を知りました.
切れ角ベースで要約すると,こんな感じ(↓)みたいです.
アッカーマン ・・・ 内側のタイヤ > 外側のタイヤ
パラレル ・・・ 内側のタイヤ ≒ 外側のタイヤ
アンチアッカーマン ・・・ 内側のタイヤ < 外側のタイヤ
この「パラレルステアリング」はドイツ車に多く,その代表例として981/991系ポルシェが上がっていました.
ただ,どちらかというとあまり良いイメージはないようで,パラレルステアリングによって低速域で外側のタイヤが引っ掛かってしまい,ゴリゴリ音(↓)がするという指摘に繋がっているそうです.
これに対して,「これは低速域よりも高速域を重視するポルシェだからこそ!」.すなわち,
「ゴリゴリ音はスポーツカーである証!」
とまで言ってるのを見て,モノは言いようだなぁ~と思いました(苦笑).
それはさておき,「アンチアッカーマン」まで行かなくとも「パラレル」レベルまでは市販車・ラジアルタイヤでも採用されている訳ですから,それなりに効果がある(デメリットも許容出来る)という事なんでしょうね.勿論,ジオメトリーの変更は素人レベルでは出来ませんが,トー角を考える時の1つの考え方として少し勉強になりました.
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セッティング検討(アライメント) | 日記
Posted at
2022/08/12 17:28:09