TC1000でのテストは生憎と不向きな路面コンディションでしたが,GTウイングの有無でデータを取ったので一応分析してみます.
2年前にやった比較では,「最高速は全く変わらず,ただただリアが不安定で踏めない」という結果で,「TC1000でもウイングありが有効」というのが結論でしたが,アンダーパネルでダウンフォースの総量が増えた状態ではどうか?という事になります.
まず,コンディションですが,走行枠が異なるので以下のような感じです.
ウイングあり ・・・ 気温:31.5℃ 湿度:56% 路温:45.6℃ 気圧:1002.3hPa
ウイングなし ・・・ 気温:29.9℃ 湿度:63% 路温:44.6℃ 気圧:1003.5hPa
ほぼ誤差範囲内かな?という数値です.厳密に言うなら「ウイングなしの方が若干有利」と言ったところでしょうか.
あと,問題の路面ですが(ドリフト走行後でスリッピー),「GTウイングあり」時のロガーデータから推測すると,各コーナーの以下の部分(↓)で不自然な加速停滞があるので,この辺りが喰わない路面だったっぽいです.
【1コーナーを抜けた先】

(あおたまさん・こもりん.さんコメントからの裏取りと一致)
【ヘアピンの立ち上がり】

(kame@118kgさんのコメントからの裏取りと一致)
【インフィールド出口】

(しょこさん・いつさんのテールスライドポイントの裏取りと一致)
【左高速コーナー入口】

(2日前のドリフトの車載映像からの裏取りと一致)
【最終コーナー立ち上がり】

(kame@118kgさんコメントからの裏取りと一致)
こうして見ると,ほぼ全コーナーダメですね(苦笑).ドリフトは逆走なので,彼らの進入はグリップにとっての出口.グリップ側からしたらコーナリングを終えて横Gがなくなり,さぁ~これからアクセル開けるぞ!というポイントでズルッと滑るんですから,特に後輪駆動は走りづらい事この上なかったでしょうね.
こういった状況から,各コーナーの立ち上がりに注目しても先に繋がらなさそうなので,各コーナーの進入にフォーカスして分析してみる事にします.
さて,ウイングの有無で一番気になる最高速ですが,今回は差がはっきりと出ました.ただ,ホームストレートエンドの最高速は最終コーナー立ち上がりの成功・失敗も影響するので,ベストラップだけでなく,同じセッションのTOP4分のデータで比較してみます.
【ウイングあり】
1st ・・・ 127.25km/h
2nd ・・・ 126.77km/h
3rd ・・・ 126.71km/h
4th ・・・ 126.58km/h
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Ave. ・・・ 126.82km/h
【ウイングなし】
1st ・・・ 129.95km/h
2nd ・・・ 129.49km/h
3rd ・・・ 128.51km/h
4th ・・・ 127.73km/h
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Ave. ・・・ 128.92km/h (+2.1km/h)
「ウイングなし」の方が平均で約2.1km/h上回りました.前述の通り,気温・気圧の差は誤差レベルなので,この結果はそのまま鵜呑みに出来そうです.また,ざっくり計算になりますが,TC1000のホームストレートエンドで2km/h差だと大体0.09秒といったところです.結構無視出来ない値ですね.
「ウイングなし」の方がトップスピードが伸びるという順当な結果が見えたので,次はコーナリングスピードを見てみます.TC1000一番の高速コーナーは2コーナーなので,ヘアピン手前の終端速度で見てみます.こちらも同じくTOP4で比較.
【ウイングあり】
1st ・・・ 117.73km/h
2nd ・・・ 116.63km/h
3rd ・・・ 116.16km/h
4th ・・・ 115.69km/h
―――――――――――――――――――
Ave. ・・・ 116.55km/h
【ウイングなし】
1st ・・・ 115.58km/h
2nd ・・・ 115.49km/h
3rd ・・・ 115.18km/h
4th ・・・ 114.92km/h
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Ave. ・・・ 115.29km/h (-1.26km/h)
「ウイングあり」の方が平均で1.26km/h上回りました.やはりウイング付けるとコーナリングスピードは上がるんですね.後輪駆動のクルマなら理解出来るのですが,後傾姿勢になると失速するFFでも上がるというのは,少し意外な結果でした.ただ,こちらはホームストレートと異なり,区間が短い事もあってそれほどタイム上のゲインはなさそうです(0.03秒未満の誤差レベル).
では,「ウイングあり」がどこでタイムを稼いでいるのか?というと,どうやらブレーキングのようです.一番分かり易いのがヘアピンの進入で,距離にして約5m程度「ウイングあり」の方が奥まで突っ込めている(ブレーキングを遅らせている)ようです.
この要因は何なのかな?と考えてみたところ,最初はリアウイングで押さえつけているおかげでリアの接地性が上がってブレーキが良く効くから(制動距離が短いので奥まで突っ込めるから)なのかな?と思ったのですが(↓),
なんとなくドライバー側の心理的な要因がありそうだなと思い,車載を見返してみると,ブレーキングを開始する際のポジショニングが微妙に違う事に気づきました.
【ウイングあり】
【ウイングなし】
コースの左側の白線の位置で比べてみると,「ウイングあり(上)」に比べて「ウイングなし(下)」の方が少し外側に位置しています.「ウイングなし(下)」の方がダウンフォースの絶対量は少ないので,同じ旋回速度でコーナリングしようとすると自然と外側に膨らんでしまうのは当然の結果だと思いますが,これは見方を変えると,「ウイングあり」に比べて「ウイングなし」の方はリアタイヤのグリップが限界ギリギリの状態になっている,とも言えます.
この「リアタイヤのグリップが限界ギリギリの状態」でハードブレーキングを行うとどうなるか?というと,リアが不安定になって「暴れる」という事です.リアが暴れれば,それを抑え込むのにカウンターを当てるので,そういう目線でもう一度車載画像を見返してみると,
【ウイングあり】
「ウイングなし」
「ウイングあり(上)」の方がカウンターの量が少ない(右手の位置が低い)事が分かりました.カウンターを当てる量が少なければ(リアが暴れる心配がなければ),そりゃ思い切って飛び込んで,ハードにブレーキングも出来る訳で,こういう安心感の差(リアのスタビリティの差)が制動距離5mの短縮に繋がっているのだと思われます.
ちなみに,たった5m(約1車身)の差ですが,車速115km/h(≒32m/sec)の世界における5mの差なので,単純計算で0.15秒,ロガーデータで0.3秒のゲインが得られますので,バカに出来ません.これをホームストレートで取り戻そうとしたら,最高速を少なくとも3km/h上げないといけない訳で,私のEF8にとって,ブレーキング時のスタビリティが如何に重要であるかを実感させられました.
以上,リアウイング有無の比較結果でした.
今回テストした時は路面が非常にスリッピーな状態でしたが,こういった条件だとリアのスタビリティの高さは特に効果的で,TC1000のようなミニサーキットであっても,リアウイングがある方がラップタイムは0.25秒速い結果となりました.この要因は主にブレーキング時のリアのスタビリティの高さによるもので,ブレーキングの開始を遅らせてタイムを稼ぐ事が出来るようです.仮にウイングの抵抗でホームストレートの最高速が2km/h落ち,0.1秒失ったとしても,ヘアピンで5mブレーキングを遅らせられれば0.15秒稼げるので,コーナー1個で遅れは十分取り戻す事が可能である事が分かりました.
これらを踏まえると,「リアのダウンフォースを削ってバランスを取る」というのはあまり得策ではなさそうですね.今のリアの状態に合わせてフロントの限界をどうやって引き上げていくか?という方向性で進めた方が結果はついてきそうです.
結局,終わってみれば,当たり前の事実が当たり前のように分かっただけで,振り出しに戻っただけなのですが,今回は変な迷路に迷い込まないための事実確認(検証)という意味合いだったので,これはこれで意義があったと思う事にします(笑).