
SNSを眺めていたら「ダイシンシルビア」という単語が流れてきて,S15の話かな?と思ったら
ウマの話でした.知っている人は知っている話なんでしょうが新馬戦の出走は1998年のだそうで,もう四半世紀も前の話なのか・・・と目が遠くなるOXです.
さて,先日「富士モータースポーツミュージアム」の話(
前編・
中編・
後編)をしたのですが,話の流れの都合で1つ飛ばしたクルマがありました.
それがタイトル画像の「ローラ B2/00」.
"B"の後ろに来る文字は年式を表しているので,最初「アレッ? B2K/00では・・・?」と思ったのですが,2002年のマシンなので正確には「B02/00」ですね.ゼロの表記を省略するのはよくある事ですが,2桁の意味で理解しているのにゼロを省略されると一瞬迷いますね.
(まぁ,時代は既に2020年代ですし,次に同じ事が起きるのは77年後ですからもう経験しないんでしょうけど).
このクルマは,アメリカのオープンホイールレース(所謂フォーミュラ)で使われたもので,アメリカのフォーミュラというと「インディカー」と言いたくなりますが,これは「チャンプカー」の方です.当時のアメリカンフォーミュラはCARTとIRLに分裂していたので,CART側は「インディカー」の名前が使えず,"チャンピオンシップ"の意味合いから「チャンプカー」と名乗っていました.
いつものように外から見て分かる空力部品をジロジロと見ていたのですが,「そういえば,チャンプカーの空力って真面目に調べた事がないなー」と思い,情報を漁ってみると,
SAEペーパーが見つかりました.珍しく数値もきっちり載っていたので,ミュージアムの見学の話とは分けて纏めておこうと思います.
私が一番興味があるのは,グランドエフェクト(フロア下)の部分ですが,空気は前から当たるのでフロントウイングの話から入ります.
この論文は,1/4スケールの風洞モデルで試験した結果だそうで,実際のフロントウイングはこんな感じですが(↓),
これを一部簡略化して,こんな感じ(↓)にして試験をしたんだそうです.

(Aerodynamic Effects of Indy Car Componentsより)
まぁ,フロントウイングの影響はフラップの角度が支配的ですから,これでも傾向は分かりますね.

(Aerodynamic Effects of Indy Car Componentsより)
フロントウイングの角度を立てていくと(図の左→右),フロントウイングのダウンフォース(CLw)は増えていきます(当たり前ですね).面白いのはフロントウイングのダウンフォースが増えたからといって,車体全体のダウンフォース(CLtot)は増えない点で,このデータだとフラップの角度を24°以上にしたら,逆に車体全体のダウンフォース(CLtot)は減っています.
これは前方から来た空気をフロントウイングが全部上に跳ね上げてしまい,フロア下に空気が入りにくくなるためだそうです.フォーミュラカーの場合,全体のダウンフォースの半分以上はフロア下で稼いでいますから,アンダーステアを消したいからといって,闇雲にフロントウイングのフラップを立てれば良い訳じゃない事がここから読み取れます.
同じ事は空気抵抗を示すCD値でも言えて(↓),

(Aerodynamic Effects of Indy Car Componentsより)
フロントウイングの空気抵抗(CDw)はフラップの角度をつけていくと,どんどん増えますが,車体全体の空気抵抗(CDtot)は23°付近から大幅に減少し始めるのが分かります.箱車の場合,フロアはフロントバンパー付近から始まりますし,フロントウイングはバンパーの前ではなく,左右に付く事になりますから,フロア下への影響は少なく,これとは違った傾向になるんだと思いますが・・・.
次は一番気になるフロア下の話ですが,ここでは「ボルテックスジェネレーター(意図的に空気の流れを乱す装置)」に着目しているようです.
「ボルテックスジェネレーター」はフロアの前端にあるこの部品で(↓),
この論文では,こんな形で試験したそうです(↓).

(Aerodynamic Effects of Indy Car Componentsより)
この論文で面白いのは,実際に採用されている上のようなグランドエフェクトを重視した形状を「インディタイプ(Indy Underbody)」と呼称し,それよりもスタンダードなフラットボトムな形状を「プレートタイプ(Plate)」と呼称して比較している点です.

(Aerodynamic Effects of Indy Car Componentsより)
この両者のフロア形状の違いに,「ボルテックスジェネレーター」の有無も加えた試験した結果が以下だそうです(↓).

(Aerodynamic Effects of Indy Car Componentsより)
横軸は車高です.車高が上がれば上がるほど(左→右へ行くほど)ダウンフォースが減っているのが分かりますが,「ボルテックスジェネレーター(VG)」のない「プレートタイプ(Plate)」の場合は,車高の変化に対してあまり感度がないのが読み取れます(車高が上がってもダウンフォースは変わらない,低め安定という感じ).これに「ボルテックスジェネレーター(VG)」が付くとダウンフォースの絶対値も上がりますし,車高変化に対して感度を持ってくる事が読み取れます.
より複雑な「インディタイプ(Indy Underbody)」の方は,「ボルテックスジェネレーター(VG)」がない状態でも「プレートタイプ」より高いダウンフォースが発生し,車高の変化に対して感度を持っているのが分かります.これに「ボルテックスジェネレーター(VG)」を付けたら尚の事で,車高が1mm違うとCL値が0.1も変わるという高感度っぷりです! 車高をたった3mm上げただけで,ダウンフォースは約半分になる訳ですから,最近のF1でメルセデスがあれだけ苦戦している理由がよく分かりますね.
もう1つ,空気抵抗(CD値)の方も見てみます.

(Aerodynamic Effects of Indy Car Componentsより)
ダウンフォースが少ない=空気抵抗も少ないので,「ボルテックスジェネレーター(VG)」のない「プレートタイプ(Plate)」は抵抗がほとんどないですね.「インディタイプ(Indy Underbody)」に「ボルテックスジェネレーター(VG)」が付くと,この倍くらいの抵抗になる訳ですが,ダウンフォースがざっくり4倍に増えると考えれば,空力効率としては上がる方向なので,こっちの方が速いという事になるんでしょうね.
以上,「チャンプカーの空力」でした.
私のEF8は車検対応の車高ですし,上で言う「プレートタイプ」の形状なので(↓),
フロア下のダウンフォースなんて発生していないんだろうなぁ~と思っていたのですが,やっぱりなぁ~という事が分かりました.この状態で車高を下げればダウンフォースが発生するのか?とも思っていたのですが,フラットな形状のままではベタベタに落としても変わらないという事が知れたのは良かったです.
フラットな形状のまま多少なりとも稼ぎたいのであれば,「ボルテックスジェネレーター(VG)」の装着が効果的なようで,私のEF8は現状「ストレーキ」しか付いていないので(↓),
ここら辺はもう少し工夫する余地がありそうです.一方で,「プレートタイプ」と「インディタイプ」の違いの中には,複雑な形状云々もありますが,ディフューザーの有無という点もあると思っていて(↓),

(Aerodynamic Effects of Indy Car Componentsより)
私のEF8はディフューザーが付いていないので,ざっくりディフューザーの有無によってダウンフォースがどれくらい変わるのか?を感覚的に把握出来たのも良かったです.
最後に,ミュージアムで実車を見た際に思った事を1つ.
「フロントタイヤ前に付いてるフラップがデケェ!」と思いました(↓).
先程出てきた「ストレーキ」と同サイズくらいあるんじゃないのか?と思ったくらいで,私のEF8に付けている「
フェンダーフラップ(↓)」も,
もう少しサイズを拡大した方が良いのかなぁ~?なんて思いました.