
「
FL5がニュルブルクリンクのFF車最速タイムを記録」というニュースが流れてきましたが,最初見た時,「えっ!? あの反則級なメガーヌのタイムを超えたの??」とビックリしました.
よくよくニュースを読んでみると,メガーヌR.S.トロフィーRのタイムは2019年以降に制定された新計測方式の方で,おまけにFL5も軽量版の「
TYPE R-S」仕様との事.「S」の詳細は明らかにされていませんが,FK8→FL5の伸び代を考えれば妥当な数値なんですかね?
ちなみに,ニュルブルクリンクの新旧の計測方式の違いは,最終コーナー部分を含むか? 含まないか?だそうで,
コチラに詳しく纏められていました(新方式は含む).
さて,そんなFL5ですが,ホンダアクセスが昨年ドライカーボン製のリアテールゲートスポイラーを発表していました.当時は高額な事で話題になっていましたが,私は興味がなかったので「ふ~ん」で流していました.
最近になって,ふとしたきっかけでホンダアクセスが掲げる「実効空力(日常の速度域でも味わうことができる空力効果)」の話を目にして,少し興味が湧いたので調べてみたら,先述のスポイラーが出てきました.
この中で一番気になるのが,ウイング裏面に取り付けられたノコギリ歯形状の「シェブロン(↓)」.
曰く「直進から旋回に移った際,通常のスポイラーでは空力的に追従出来ない部分があり,左右輪のダウンフォースにズレが生じるのだが,(シェブロンを加える事で)旋回に対してスムーズにダウンフォースが発生するようになった」との事.この文字だけ読んでると何を言っているのかピンと来ないですが,意訳するとこういう事(↓)なんじゃないかと思います.
①直線を走っている時は,リアウイングには空気は真っ直ぐ当たるので形状通りのダウンフォースが出る
↓
②その状態からコーナリングを始めると,角度がつくのでリアウイングには空気が斜めに当たる
↓
③ウイングに対して斜めに空気が当たると,ウイング下面に空気がキレイに流れない
↓
④ウイング下面にキレイに空気が流れないとダウンフォースが減る
↓
⑤一番欲しいコーナリング開始時にダウンフォースが減るのは困る
↓
⑥ウイングに対して斜めの角度で空気が当たっても,キレイに空気を流したい
↓
⑦シェブロンを付けるとそれが出来る
ここで言っている「キレイに流す」というのは,「気流がウイングから剥離しない」という意味になりますので,「シェブロンを付けると気流が剥離しにくい」という効果を得られるのだと推測しています.
効果が何となく分かったところで,そもそも「シェブロン」って何なの?と調べてみると,「騒音低減のため,いくつかのジェットエンジンの排気ノズルの後縁部に使用される鋸歯状のパターン」だそうです(Wikipediaより).
・・・してそのメカニズムは?と更に調べてみると,「低減の物理的なメカニズムについては未解明の部分もあるが,排気流れに縦渦構造を積極的に導入することによるせん断層の混合促進効果や,衝撃波セル構造が明確に形成されない事による発生音低減効果などが要因と考えられる」そうなのですが,正直,何言ってるんだか,私にはさっぱり分かりません(笑).
図解の説明はないのか~?と更に探してみると,ようやくこんな図(↓)にお目に掛かれました.

(Gauss Centre for Supercomputing:
Reducing Jet Noise with Chevron Nozzlesより)
左が通常のノズル,右がシェブロンノズルです.この両者の比較を化したのがこんなイメージ(↓).

(Gauss Centre for Supercomputing:
Reducing Jet Noise with Chevron Nozzlesより)
上が通常のノズル,下がシェブロンノズルです.通常ノズル(上)の方は「ザ・ジェットエンジン!」という感じで勢い良く気流が後方に向かって噴き出していますね.これに対してシェブロンノズル(下)の方は途中で勢いが弱まってヘニャヘニャと気流が混ざっているような感じです.この「混ざり」がジェットエンジンの騒音低減には効果的なんだそうです.
騒音観点ではそれで良いとして,性能的にはどうなの?とよく見てみると(↓),
ノコギリ歯の直後の気流(赤丸部分)が中心方向に引き込まれている様子が読み取れます.従って,この図で言うと「通常は横方向に流れるはずの気流が,縦方向に引っ張られてノズルの形状に沿って気流が流れるようになった(剥離しにくくなった)」という事のが「シェブロン」の効果なんだと思われます.
こういう気流の剥離を抑制する装置としては「ボルテックスジェネレーター」が有名ですが(↓),

(三菱自動車テクニカルレビュー:
ボルテックスジェネレーターによる空気抵抗低減の研究より)
「ボルテックスジェネレーター」は気流が真っ直ぐ当たっている時にしか,効果を発揮しないのに対し,「シェブロン」の方は気流が斜めに当たっても同様の効果を得られるというのが違いのようです.
なるほど.なかなか良さそうなデバイスですが,今回のFL5が自動車向けとしては世界初なのか?と調べてみると,エンジンルームの熱抜き用途でアンダーパネルに採用している事例(↓)とか,

(wonder driving:
究極の空力性能! SiFo ルノークリオRS CUP試乗レポート(1)より)
ボディ一体のテールスポイラーとして採用した事例(↓)とか,

(ITmedia ビジネスオンライン:
シムドライブのEV「SIM-CEL」、「突き抜ける加速感」でクルマの魅力を追求より)
他にも事例はあるようです.
最後に,「シェブロン」のデメリットはないのか?と調べてみると,先程のジェットエンジンの説明の中で「巡航時の圧力損失が増加する」というのを見つけました.これは先程の気流の絵を見れば分かる通り,エネルギーが全て横方向に排出されるのではなく,縦方向にも使われるので,イコール抵抗増加となるんだと思われます.
なるほど.だから「実効空力(日常の速度域でも味わうことができる空力効果)」なんですね.
以上,「シェブロン」のお勉強でした.
ブログ一覧 |
セッティング(空力) | 日記
Posted at
2023/04/22 19:52:41