
「A052はA050のMコンパウンド(以下,Mコン)相当」と言われて久しいですが,比較した人達は「いや,やっぱりMコンの方が上」と言い,最近は「横のグリップは同等だけど,縦のグリップはMコンの方が明らかに上」と情報の解像度が上がってきました.
A052とA050でサイドウォールの固さは全く違うので,アレで横のグリップが同等になる原理がイマイチよく分からず,気になったのでタイヤの勉強をし直してみる事にしました.
以前勉強した
「タイヤ構造」の話だと,A052もA050は「ラジアルタイヤ(≒カーカスの角度は真横を向く)」の分類なのですが,厳密にはA052もA050もカーカスの角度は真横を向いておらず,少し斜めになっているとの事でした.
このカーカス角度は「A050 > A052」となっており,角度がついている方が捻じれにくくなるので剛性が高いのは何となく理解出来ます.
ただ,そもそもの話として「剛性のあるタイヤとないタイヤ,どちらがグリップするの?」という事があると疑問に思ったのですが,これは間違いなく「剛性のあるタイヤ」なんだそうです.
これを説明する概念として「緩和長」というものがあります.
「緩和長」とは,ステアリングを切ってタイヤに角度がついた時に,安定して曲がる力が発生するまでのタイムラグみたいなもので,このタイムラグの間にタイヤが転がる距離(空走するイメージ?)の事を指します.
この距離が短ければ短いほど,空走距離が少ない=力を発揮するまでの時間が短いという事になります.「力を発揮するまでの時間が短い」という事は,ステアリングレスポンスが良い=少ない舵角で曲がれるという事で,ステアリングレスポンスが良い状態で大きく切れば,レスポンスが悪いものよりも,より大きな曲がる力が得られるという理屈になります.従って,良好なレスポンスを得るためにはタイヤの横剛性が高い方が良い,という事のようです.
ところで,タイヤの横剛性の事を厳密には「張力剛性」と呼ぶのだそうです.
「張力」とは,物体を長さ方向に引き伸ばす力の事で(↓),

(建築学生が学ぶ構造力学:
張力とは?1分でわかる意味,向き,単位,応力,求め方,問題より)
この「張力」はサイドウォールの形状が関係していて,垂直に切り立っていると剛性が高いが,丸くたわんでいると剛性は低くなるのだそうです(↓).
左の図のように垂直に切り立っていれば,2本の柱が立っているような状態になるので2本分の張力で高い剛性を発揮します.一方,右の図のようにたわんでいると,外側は強く引っ張られますが,内側はたるんでしまって張力が発揮出来ません.つまり,2本の柱→1本の柱に減ってしまうので,これが「たわんでいると剛性が落ちる」という理屈なんだそうです.
更に,この「たわみ」は「扁平率が下がれば下がるほど大きくなる」のだそうで(↓),
タイヤを風船に見立ててみると分かり易いのですが,空気が入っていない時は凹形状になると思います(↓の左側).

(Hankook:
タイヤの空気圧より)
これに空気をどんどん入れていくと力は均等に掛かるので真ん中が膨らんでいき,凸形状になります(↑の右側).
この風船のような膨らみ方の理屈に従うと,低扁率のタイヤはサイドウォール部分が短いので変形しにくい一方,トレッド面は長いので変形し易くなり,高扁平のタイヤより低扁平率のタイヤの方が自然と凸型形状になり易い(=たわみやすい),という事になるとの事.
でも,実際は低扁率タイヤの方が固い印象があるんだけどなぁ~?と疑問に思ったので調べてみたところ,タイヤメーカーは低扁平率タイヤのトレッド面に強いベルト(↓)を入れて,凸型にならないように無理やり矯正しているのだそうです.

(横浜ゴム:
タイヤの構造より)
つまり,本来は以下(↓)の関係性であるところ,
高扁平率の張力剛性 > 低扁平率の張力剛性
高扁平率はベルトを強化する事でイーブンに持ち込んでいる(↓),
高扁平率の張力剛性 ≒ 低扁平率の張力剛性 + ベルトによる剛性補強
という事のようです.このため,人の手で触った印象だと「低扁平率タイヤの方が固い!」となるのですが,本来は逆なんだそうです.そして,ベルトによる矯正はあくまでトレッド面にしか施せない事から,サイドウォール部分は変形し易いままとなり,結果的に「低扁平率タイヤの方がたわんでいる」となるのだそうです.
故に,同じ構造のままタイヤの横剛性を上げたければ,扁平率は「上げる」のが正しく,これがとてつもない負荷がタイヤに加わるドラッグレースで高扁平率のタイヤが使われている理由なのだそうです(↓).

(確かに,重量物を運ぶトラック用のタイヤ等も高扁平率ですね・・・)
以上,タイヤの横剛性のお勉強でした.纏めると,
・タイヤの横剛性(張力剛性)は高い方がグリップも高くなる
・サイドウォールがたわむと張力剛性は落ちる
・扁平率を下げるとサイドウォールはたわむ
・以上から,タイヤの横剛性を上げたければ扁平率を上げると良い
という事のようです.タイヤの横のグリップに扁平率が強く影響しているのであれば,同サイズのA052もA050を比較した場合,横グリップが同レベルになるのは理屈として合っていそうです.ただ,タイヤのグリップは構造だけでなく,コンパウンドも影響しているので,それらを踏まえると,
A052の「構造」による横グリップ < A050の「構造」による横グリップ
A052の「コンパウンド」による横グリップ > A050の「コンパウンド」による横グリップ
上記のトータルで,A052の横のグリップ ≒ A050の横のグリップ という事なのかなぁ~?と思いました.
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セッティング検討(タイヤ) | 日記
Posted at
2023/06/05 01:27:32