
先日,「
ブレーキペダルが奥にスコッ!と入る」症状の対策として,
NA1用マスターシリンダー&マスターバックに交換しました.
何らかの性能向上を狙ってNA1用を選んだ訳ではなく,単純にEF8用が手に入らないからNA1用を選んだだけなのですが,マスターバックの仕様自体がEF8用と異なるので,これがどうフィーリング面で変わるのか気になったため,
灼熱のTC1000でテストしてきました.
まず,仕様のおさらいですが,EF8用は9インチの"シングル"ブレーキブースターであるのに対し(↓),

(出典:全国自動車整備専門学校著 山海堂発行,自動車教科書「シャシ構造 2-3訂」より)
NA1用は7インチ+8インチの"タンデム"ブレーキブースターとなります(↓).

(出典:全国自動車整備専門学校著 山海堂発行,自動車教科書「シャシ構造 2-3訂」より)
ここで言う"シングル"・"タンデム"とは,ブレーキ油圧をブーストする(上げる)ダイアフラムの数の事で,"タンデム"はその名の通りダイアフラムが直列に2個並んだ形となります.1個よりも2個の方がブースト量が多くなりそうなのは何となく想像出来るかと思いますが,2個並べるに当たってダイアフラム1個当たりの大きさは,9インチ→8インチへと小さくなっているため,直径で1インチ小さい分のブースト量を,更に2インチ小さい(7インチの)ダイアフラムを追加する事で補えるのか?というところがポイントです.
事前にこの辺りの情報を調べてみたのですが,「マスターシリンダー」が"タンデム"になっている話はよく目にするものの,「マスターバック」が"タンデム"になっている話はほとんど見当たらず,実際にどんな違いを生むのか分からないままテストに臨む事となりました.
一応机上で試算してみると,外径が1インチ小さい場合の面積は(↓),
9 [inch] = 228.6 [mm],8 [inch] = 203.2 [mm]なので,
9インチ ・・・ 228.6 × 228.6 × π ≒ 164090 [mm2]
8インチ ・・・ 203.2 × 203.2 × π ≒ 129651 [mm2]
9インチ - 8インチ = 164090 - 129651 = 34439 [mm2]
9インチを基準に考えると,
34439 / 164090 ≒ 0.21 = 21 [%]
となり,ようは面積にして約20%小さくなる試算でした.ブレーキ油圧のブーストに使っているのはエンジンの負圧(単位:N/mm2)なので,面積の低下=力の低下となりますから,こんな感じ(↓)になりそうです.
ただ,これは"シングル"で比較した場合の話で,"タンデム"の場合はこれにプラスして,7インチ(177.8mm)分の変化が加わりますから,
7インチ ・・・ 177.8 × 177.8 × π ≒ 99264 [mm2]
こんな感じでしょうか?(↓)
7インチ + 8インチ = 99264 + 129651 = 228915 [mm2]
9インチを基準に考えると,
228915 / 164090 ≒ 1.40 = 140 [%]
という感じでしょうか.なんだか非常に強力そうですが,「圧力を利用しているのに,特性がこんな一次線形になるか?」という疑問もあるので,実際はこんな感じ(↓)の二次線形になるんじゃないのかなぁ~?と予想していました.
・・・で,実際に試してみた結果なのですが,こんな感じとなりました(↓).
ペダルの踏み始め,最初の5~10%くらいは全然制動力が立ち上がらず,「アレッ?」と思って踏み増すと,途中からEF8仕様と同じフィーリングになります.「同じなんだなぁ~」と思ってそこから更に踏み込んでいくと,今度は途中で制動力が抜ける(ペダルを踏み増しているのに制動力がリニアに立ち上がらない)ようなフィーリングとなりました.これでは想定よりも制動力が出ていない事になるので,「おっと,マズイ!」と思い踏み足していくと,再びEF8仕様と同じフィーリングに戻るのですが,今度は踏み代の80%を超えたような辺りでEF8仕様よりも前傾姿勢が強まる(=制動力が増す)印象でした.最後90%以上の領域はABSがないのでロックするのですが,このロックのタイミング自体はEF8仕様と大して変わらなかった気がします.
つまり,EF8仕様に比べて,タンデムブースターとなったNA1仕様はリニアに制動力が立ち上がらず,「癖のあるフィーリング!」という事になるのですが,ドライビング面でもう少し補足するなら,ブレーキがロックするポイント自体はさほど変わらないので強めのブレーキング(TC1000で言うと1コーナー)は特に問題がないのものの,ブレーキを抜いてコントロールする領域(TC1000で言うとヘアピン)は,ペダルの抜き具合に対してリニアに制動力が落ちないため,違和感がありまくりでした.
まぁ,「効き方がリニアじゃない!」と文句を言ったところで,元に戻せる訳でもなく,このフィーリングに慣れるしかないのですが,難易度が上がる方向なのは少し残念な感じですね.
一応,ロガーデータでも確認してみると(↓).
上が車速,下が縦G,青線がEF8仕様,赤線がNA1仕様です.
ちょうどヘアピンにアプローチする部分の切り抜きなのですが,ブレーキングの最初の方(ペダルの踏み込み量が多い領域)は,EF8仕様(青)・NA1仕様(赤)ともに減速の傾きに大きな違いはないのですが,80km/hを下回った辺りでEF8仕様(青)の方は減速Gが徐々に小さくなっている(≒踏力を抜けている)のに対し,NA1仕様(赤)の方は同じ減速Gのままである(≒踏力を抜けない)事が分かります.
乗っている側としては,ココで「アレッ? 止まんない」と感じて,踏力を抜くのではなく,むしろ踏み足している(≒減速Gが更に大きくなっている)んでしょうね.ただ,絶対値で見ると一定の減速Gは出ているので制動力が出ていない訳でもない.単純に自分のイメージと減速Gの出方が合わない,という事なんでしょうね(慣れの問題?).
以上,これがタンデムブースターの特性?でした.
実際に走ってみて,全体的に想定していたよりもEF8仕様に近いフィーリングだった点は安心しました.過剰なロックに苦しむ事もなく,反対にロックさせらない事もなく,大枠で見れば大してフィーリングは変わりませんでした.ただ,微妙なコントロールの領域に入ると違和感は結構あって,ペダル踏み始めの板踏み感は街乗りレベルでも割と困りますし,ペダルコントロールの途中で「アレッ? 止まらない」と感じるのは合わせづらくて,ちょっと嫌ですね.
どうしてこういうフィーリングになるのか? これが"タンデム"のせいなのか?は正直分かりませんが,勝手な想像をすると,タンデムになっているダイアフラムは2個同時に動くのではなく,初め1個・途中から2個動くような感じなのかなぁ~?と思いました.また1個1個のダイアフラムのサイズはEF8仕様よりNA1仕様の方が小さいので,動き始めのレスポンスも若干弱く,それが板踏み感や途中の違和感を生んでいる・・・という事なんじゃないかと.
ま,アレコレ言ってもどうしようもないので(多分ビート用の6インチよりはマシなはずなので),この特性に早く慣れて,使いこなしていくしかないですね.