折角仕入れたネタの裏取りが出来ないので,しょうがないので時間軸を戻します.
先日のTC1000で,205幅と195幅の比較を行った結果,両者の差はたったの0.05秒でした.この原因に関してサーキットアドバイザーに相談した結果,「タイヤに掛かる負荷が大き過ぎ」との見解で,バネレートアップ→乗り心地悪化→低反発スプリングの採用→ステアリングレスポンス低下という話の流れから,最後「プリロードで対策」というアドバイスを頂きました.
「なるほど! プリロードで対策か!!」と目から鱗になった訳なのですが,今まで周囲から「プリロードはハマるよ」と言われ,ゼロプリロードしかやった事がなかったので,何が・どう変わるのか? 理解していなかったため,この機会に勉強してみます.
まず,「プリロード(preload)」とは,その名の通り"pre(予め)"の"load(負荷を掛ける)"なので,サスペンションに付いているスプリングに予め負荷を掛けておく事です.
通常,車高調のスプリングを組み合わせる場合は,スプリングの長さを活かしたいので負荷が全く掛かっていない状態(=自由長の状態)で組まれるのですが,プリロードを掛けたい時は,意図的にスプリングの長さを縮めた状態(=負荷を掛けた状態)で組みます(↓).
具体的には,車高調のスプリングシート(スプリングの下側に来る調整用のシート)を上に持ち上げて長さを縮める訳なのですが,この際,スプリングシートを回して(ターンして)縮める事から「プリロードを1ターン掛ける」なんて言い方をしたりします.
では次に,プリロードを掛けると何が変わるのか?ですが,スプリングの縮み始めのポイントが変わります(↓).
例えば,12kgf/mmのスプリングをゼロプリロードで組んだ場合,荷重が0kgf/mmの状態から自由長そのままの長さ(7インチ=178mm等)の分だけストロークさせる事が出来る訳なのですが,これに120kgf分のプリロードを掛けてスプリングは10mm縮めると,178 - 10 = 168mmで使えるストロークが10mm減ります.使える長さが減ってしまうと何だか損をしたような気分になっていまいますが,その代わりとしてサスペンションに荷重が120kgf掛かるまではスプリングは動かない特性となります.
クルマとして見た場合,この特性の違いがどういう事を意味するか?というと,「車高が上がる」という事です(↓).
左がゼロプリロードの場合,右がプリロードを掛けた場合の例ですが,クルマのサスペンションはタイヤが地面に着くと(1G掛かると),クルマの車重の分だけスプリングに力が掛かります.
例えば,フロントの軸重が644kgだとすると,1本のスプリングに掛かる荷重はその半分なので322kg.
12kgf/mmのスプリングをゼロプリロードで使っていれば,322 / 12 = 26.8mm 縮まる事になります.
これに対し,同じスプリングで120kgf分のプリロードを掛けたとすると,120kg分は縮まらない事になるので,
(322 - 120) / 12 = 16.8mm となり,スプリングの縮まる量が10mm減って,車高が10mm上がります.
但し,車高調はその名の通り「車高を調整する事」が出来るので,スプリングシートの更に下にあるロックシートを上げれば,プリロードを掛けた状態で同じ車高にする事も出来ます(↓).
車高を同じにした状態で,ゼロプリロードとプリロード状態を比較した場合,スプリングの伸び代(リバウンドストローク)が10mm減るだけで,スプリングを縮める側の特性としては何も変わらないはずなのですが(↓),
不思議な事に,全開加速中のリアとか,ブレーキング中のフロントとか,プリロードよりも遥かに大きな荷重が掛かっている領域であるにも関わらず,乗ってるドライバーはプリロードの有無で違いを感じるのだそうです.この違いはサスペンションの専門家でも未だ理屈を説明出来ないそうで,そういった原理を解き明かせない人間の感覚が介入するため,「プリロードをやり始めるとハマる」なんて言われるんでしょうね・・・.
ちなみに,「プリロードを掛けるとスプリングが固くなる」と仰る方もいるそうなのですが,上記の通り1G状態での縮み量が変わるだけで,スプリングは別に固くなりません.
プリロード以上の荷重が掛かれば,その通りにスプリングは縮まるため,スプリングレートが上がったりする事は当然ないそうです.これは恐らく,荷重の掛け始めで力を加えてもスプリングが縮まない(動かない)事から,その動かない感覚を「レートが上がった!」と錯覚してしまうからなんでしょうね.
さて,プリロードを掛けると「リバウンドストロークが減る」「荷重の掛け始めで動かない」といった特徴が分かったところで,これの使い方となる訳なのですが,分かり易いのはリバウンドストロークの方ですよね.
クルマの姿勢が浮き上がり方向になった時(リフトした時)に,タイヤが地面から離れやすくなる(=荷重が抜ける)という事です.FFのフロントであればトラクション不足といったデメリットがありますが,リアであればインリフトを使ってクルマを積極的に曲げるなんてメリットもあったりしますね.
一方,やや難解なのが「荷重の掛け始めで動かない」の方ですが,こちらはバリアブルレートのスプリングだと多少イメージし易いかもしれません.
バリアブルレートは,その名の通りレートが途中で変化するので,プリロードを掛けてスプリングの長さを変えると,それに応じて発生するレートも変える事が出来ます.つまり,プリロードの量でクルマの姿勢(ロールやピッチ)を微調整出来るようになる訳です.
例えば,バリアブルレート特有の,動き始めのフニャフニャした領域をプリロードを掛けてなくす事でステアリングレスポンスを上げる事が出来るでしょうし,サスペンションの動き始めの初期をガチッと動かなくする事で,姿勢変化を遅らせてブレーキングを安定させるなんて事も出来るかもしれません.どこでどういう姿勢を作りたいのか?をちゃんとイメージする必要はありますが,手持ちの武器が純粋に増えるのは良い事なんじゃないでしょうか.
以上,プリロードのお勉強でした.
私のドライビングスタイルからすると,リアにプリロードを掛けても(リバウンドストロークを減らしても)メリットがなさそうなので,フロントに掛けてクルマの姿勢作りに使うのが良さそうです.最終的には,HAL springsのバレルタイプのスプリング(低反発)を投入してプリロードでの調整代を増やそうと思いますが,直近は現状のスプリングにプリロードを掛けて,プリロードセッティングに対する理解を深めていく事から始めようと思います.
TC1000において,プリロードで狙いたい効果としては2つあり,1つは1コーナーでのブレーキロックの低減(↓).
もう1つは,左高速コーナーでのロール量の低減(↓).
前者はロックするか?しないか?で判断基準が明確なので,後者
はtaka@黒インテ(元)さんのGK5との比較から効果を見極める感じですかね.あと,この効果をよりはっきりした形で体感するためには,限界の低いタイヤを使った方が分かり易いので,
ZⅢを投入するか?
A052のまま195/55R15にサイズダウンするか? タイヤ代と投入時期を踏まえながら判断する感じになりそうです.
もうやれる事は何もなさそう(=限界)だと思っていましたが,まだやれる事が見つかって嬉しいです♪(アドバイザーに重ねて感謝).やった事がない事をやるので,トライ&エラーで暫くの間はタイムが落ちるとは思いますが,アタックシーズンもそろそろ終わりですし,来シーズンを見据えてセッティングを詰めていこうと思います.