
では,
続きです.
前回で課題②の方向性が見えてきたので,続けて課題③に取り掛かります.課題③の内容は「リアのグリップが高過ぎて,リアのスライド量が足りない」というもので,主にブレーキングした後,クルマの向きを変えようとした際に起きているようです.
これは私も乗った時に実際そう感じていて,CR-Sを使い始めた辺りで顕著に感じるようになったので,当初は前後でタイヤの銘柄が違うせいかな?と思っていたのですが,3ヵ月振りにA052に履き替えても同じフィーリングだったのでタイヤのせいではなかったようです.
5月にテストした結果からすると,これは恐らく
アンダーパネル装着による弊害のようで,
ホイールベースの間,特にリア寄りの部分でダウンフォースが発生しているためにリアタイヤがインリフトしにくくなり,ブレーキング時にリアの荷重を抜いて向きを変えるのが困難になっているためと思われます.この推測を裏付ける証拠としては,以前
ヘアピンで右リアがインリフトして白煙を上げていたのですが,最近はそういうった事はなく,また,おだてのまつさん撮影の高解像度画像を見ると(↓),
赤枠の部分を更に拡大(↓).
左フロントのタイヤとフェンダーの隙間がなくなるくらいロールしている状態でも,右リアのタイヤ半分は接地している事が確認出来たので,恐らく間違いと思われます.今後アンダーパネルを外す事がない以上,現状のダウンフォースを前提にして前後のバランスを取り直す必要があるようです.
・・・で,どうするか?ですが,これは今までやってきた事の逆で,積極的にリアタイヤをインリフトし易い状態(荷重が抜け易い状態)にしてやるのだと思われます.具体的には,リアの減衰を強めてリバウンドスピードを遅らせ,積極的にリアを浮かしに行く感じでしょうか.この考え方でテストした結果が以下のような感じ(↓)です.
全体的な印象としては,まずステアリングレスポンスが良くなりました.リアのロールスピードが下がって前後のロールバランスが揃ったのか? 舵の入れ始めでクイッとクルマの向きが変わります.最初あまりにレスポンスが良過ぎるので(今までが悪過ぎたので?),ドライバーがついていけない程でした(苦笑).それでいて,インリフトするほどリアの荷重が抜ける事もなく,ちゃんとタイヤは接地しているので,コントロールが難しいような事もありません.単純に切れ味が鋭くなったような印象で,まさしく尖ったクルマの動きになりました.
データでも細かく見てみましょう(赤:減衰弱 青:減衰強).
両者のコンディションの違いは,気圧:2hPa,気温:1℃なので,ほぼイコールコンディションと見なして良いと思われます.全体的に見てまず思うのが,ブレーキングの開始タイミングがほぼ同等であるにも関わらず,減衰強(青)の方が速度低下が早い点です.乗っている時も「よく曲がるなぁ~」と思っていたのですが,これは速度低下が早いため,タイヤのグリップに余裕があったおかげのようですね.
ただ,「リアの減衰を強めると制動力が上がる」のメカニズムに関しては,最初理解出来なかったのですが,アレコレ考えてみた結果,
減衰を強める事でリバウンドスピードが遅くなり,アンチリフトの効果が得られたためなのかなぁ~?と思いました.ブレーキングで荷重が移動しようとした際,アンチリフト効果でリアの荷重が抜けにくくなれば,その分リアの制動力は増すので,これの効果なのかな?と.今までだと減衰強めたらリアの制動力は,荷重が抜けて落ちていたのですが,逆になったようなイメージです.
余談になりますが,アンパネ付けてからこういった従来のイメージと逆の反応をクルマが示す事が度々あり,正直ずっと戸惑っているのですが,やっぱり空力の効いているクルマを乗りこなすには,今までのドライビング感覚を一度壊さないとダメなんでしょうね(空力を信じてコーナーに飛び込まないと速いコーナリングは出来ない,って言いますもんね・・・).
話を戻して,データを見ると,減衰を強めた効果は「制動力強化」以外に「ボトムスピードの向上」にも繋がっているようです.1コーナー・インフィールド・最終複合とどのエリアでもボトムが上がっています.このボトムが上がった要因としては,狙い通り,リアの荷重が抜ける事で向きを変え易くなった(=アクセルを早く踏めるようになった)ためではないか?と思っています.
各コーナーの舵角を映像で確認してみると(上:減衰弱 下:減衰強),
1コーナー
切り始めるタイミングは一緒(↑)ですが・・・,
切った後,減衰強(下)は即座に向きが変わるので,カウンターを一度当てて(↑),
姿勢が整ったら,即座に同じ舵角に戻る(↑),という流れに変わっています.真ん中の部分でカウンターを当てるくらい,クルマの向きが変わっているのが良く分かりますね.プロが仰っていた「1コーナーの動きはシビアになるけど,そこはドライバーが頑張って!」というのがまさに体現された感じです(苦笑).
2コーナー
リアが不必要に粘らないためか? 同じ位置・同じ速度でコーナリングしているにも関わらず,減衰強(下)の方が舵角が少ないようです.
ヘアピン
進入の舵角は変わらないのですが,エイペックス~立ち上がりの領域で違いが出てます.
エイペックス付近の舵角は減衰強(下)の方が僅かに少なく・・・,
そこから先の舵角の戻しは減衰強(下)の方が圧倒的に早いです.舵を早く戻せるという事は,それだけ早くアクセルを踏めるという事なので,そりゃ,ロガーデータはああいう波形になりますね.
インフィールド
減衰強(下)の方が,進入で向きの変わりが早いので,舵を入れた後,軽くカウンターを当てています(↑).
そこから先は,さほど違いはありませんが,立ち上がりで気持ち減衰強(下)の方が舵の戻しが早い感じです.車速は減衰強(下)の方が3km/h高い点を踏まえれば,よく向きが変わっているという事なんでしょうね.ちなみに,比較動画をスローで再生して見ると分かるのですが,減衰強(下)の方がステアリングを小刻みに揺らしています.恐らくクルマの挙動が尖って,フラフラになっているからなんでしょうね.
なお,ここから先,左高速~最終複合では舵角に違いはありませんでした.「クルマの向きを変える」という意味では,特に最終コーナーで違いが出て欲しかったので残念です.ここのコーナリングは減衰変更では対処出来ないという事なのでしょうから,課題②のトー角変更と組み合わせて効果が出るか確認したいところです.
以上,クルマを尖らせるの第2弾でした.
こちらはプロが仰っていた通り,「
1コーナーはシビアだけど,ヘアピン・インフィールド・最終コーナーで取り分がある」となったようです.実際,これが0.055秒のゲインを生んでいますし,このゲインが
ハンデ戦の0.07秒差の勝利に繋がってもいるので(笑),僅かな違いもバカに出来ないですね.
これで方向性は見えてきました.あとは冬場のリアタイヤが冷えた状態のピーキーさを踏まえて,バランスの落としどころをどこにするか?ですね.引続きテストを行ってセッティングを煮詰めていきたいと思います.