
最近の映画のアカデミー賞作品には、
あまり観る価値を感じませんが、
サンダンス映画祭の観客賞を獲った映画となると、
観ないわけにはいきません。
映画
「コーダ あいのうた」は、

フランス映画「エール」のリメイクながら、

サンダンス映画祭で話題を集めた作品。
CODAはこっちの方じゃなくて、

「Child of Deaf Adults」の略で、ろうあの親を持つ子供を指す言葉。
主人公17歳のルビーは、
家族で漁業(漁師)を営む父、母、兄ともにろうあ家族の中で育ち、
必然的に家族の通訳として役割を担うことになります。
ティーンエイジャーがしょう害を持った親を支える
ヤングケアラーとして使命を果たしながらも、
あるできごとをきっかけにこれまで気づかなかった
歌への思いと才能を活かしたいという夢を持つことになります。
しかし、夢のために大学進学をしてしまうと、
耳の聞こえない家族が残されてしまう。
ルビーは家族への思いと、自分の夢の間で板挟みに…。
一方、家族はルビーの歌の才能を理解しようにも、
その歌自体を聴くことができず、どう対処したらいいかわからない。
こうした問題はどの家族にも起こりがちです。
この映画はしょう害者のリアルを描いたように思われがちですが、
むしろ現代におけるコミュニケーションがテーマ。
理解しあっているはずなのに、思いを伝えきれないもどかしさ。
逆にろうあ家族だからこそ、言葉を包み隠すことなく、
ストレートに表現しすぎて、
そこに壁や誤解が生まれてしまうところもしっかりと見せています。
SNSといった安易に感情を絵や写真で表現しがちな現代だからこそ、
2020年代に「エール」(2014)をリメイクする意味を感じます。
主人公のルビーを演じたエミリオ・ジョーンズの魅力的な演技と歌は、
観客をグイグイと引っ張っていきます。
今まで通訳として自分の言葉を発しきれなかったルビーは、
歌うことで言葉との歌を同時に獲得しながら成長していきます。
ルビーを支える支える3人の家族の演技も光ります。
父親役のトロイ・コッツァー、
かつてアカデミー主演女優賞を獲った母親役のマーリー・マトリン、

演技がうますて、今回夫婦でアカデミー助演を獲りそうな感じです。
兄役のダニエル・デュラントも含め、
主人公のルビー以外は実際にろうあ者ですが、
声や手話がなくとも、伝える能力は素晴らしいものがありました。
音のある世界と音のない世界の境界線をスクリーン上で感じられることも、
この映画が絶大な支持を得ている要因となっています。
健常者としょうがい者、聞こえる側と聞こえない側、
子どもの立場、親の立場、兄妹の立場、
さらには友達や教師といった周囲の立場、
さまざまなサイドの視点に立って、
ルビーや家族の抱えている悩みを、
自分たちの問題として捉えることができます。
さまざまにBOTH SIDESの前に立ちふさがる壁を乗り越えて、
ルビーだけでなく、家族が成長していく姿は、
見終わったあと、清々しい気分にさせてくれます。
ところで、サンダンス映画祭の観客賞と同じくらい
カンヌ映画祭「ある視点部門賞」好きとしては、
とある点が気になりました。
それは父親役のロッシはボストン・レッドソックスの帽子を被り、
ルビーはボストン・ブルーインズのウエアを着ている点。
その前に、ルビーの恋人になるコーラス部の男の子が
キング・クリムゾンのTシャツを着ている時点で、
彼がどんな個性かはなんとなく見えます。
そうしたウエアにもこだわったディティール設定から考えると、
マサチューセッツの漁師がレッドソックスの帽子をかぶるのは当然としても、

17歳のルビーがNHLブルーインズのウエアを着ている意味。
これを日本で例えるなら、
お父さんが阪神の帽子をかぶってて、
高校生役の浜辺美波や白石聖あたりが娘役でオリックスのウエアを着てる感じ。
もしくはガンバでもセレッソでもなくて、
Bリーグの大阪エヴェッサのウエアを着ている感じかも(笑)。
野球とアイスホッケーの違いは、世代間ギャップを表しつつ、
2人の気質はとても似ていて闘争心にあふれ挑戦的。

映画の中で、ルビーの父親は祖父から漁師を引き継いだという話が出てきますが、
おそらくルビーの父親も夢や挑戦したいことがあったけれど、
家族との関係、自らのしょう害の問題で諦めざるを得なかった…。
そんな裏ストーリーを想像してしまいます。
だからこそルビーが家族と離れて大学に挑戦したいと言い出した時、
それを理解し、ルビーを力強くを後押しすることにつながったのかなと。
ボストンのプロスポーツチームのアパレルから考察した「ある視点」です(笑)。
映画のトレイラーはあえてアメリカ版で。
というのも音楽映画の側面が強く、選曲がまた素晴らしいものがあり、
コーラスでデビッド・ボウイの曲が流れたりします(笑)。
それでは今日の1曲.
映画のテーマにつながるジョニ・ミッチェルの名曲「BOTH SIDES NOW」。

ジュディ・コリンズをはじめ、多くの人がカヴァーしています。
ジョニ・ミッチェルをリアルタイムで聴いたのは80年代に入ってからですが、
ザ・バンドとともにルーツたどりとして聴きました。
「BOTH SIDES NOW」のカヴァーは、
日本人の
Rie Fuや羊
毛とおはなが
歌っているヴァージョンがYoutubeにあります。
Rie Fuや羊毛とおはなもすごく好きなアーティスト。
自分の女性シンガーソングライター好きになったのは、
むしろジョニ・ミッチェルのおかげかもしれません(笑)。
いろいろなカヴァー・ヴァージョンがありますが、
ここではもちろん映画の主人公ルビー役のエミリオ・ジョーンズver.。
ルビーがこれを歌うシーンだけでも、この映画を観る価値がありました。