記者の眼
ギリシャはドイツの食い物にされた
怒るアテネ市民、露呈した欧州拡大戦略の暗部
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120228/229251/
欧州のユーロ危機対応が佳境を迎えている。ギリシャの無秩序なデフォルト(債務不履行)を回避するための、欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)による1300億ユーロ(約14兆円)の第2次支援策が合意に達したことなどにより、金融市場は落ち着きを取り戻しつつあるかに見える。
だが、仮にギリシャがデフォルトを回避できたとしても、今回の危機は、これまでユーロ導入よる経済成長が覆い隠してきた、欧州統合の暗い側面を浮き彫りにした。それは、ギリシャなど欧州周辺国の一部の国民が抱く、「ドイツに食い物にされた」という不信感だ。
EUが進める欧州の統合・拡大戦略には、分かりやすく言えば2つの側面がある。何世紀にも渡って戦争に明け暮れた欧州に平和をもたらそうという政治的な側面と、巨大な単一市場を創造し持続的な成長を可能にしようという経済的な側面である。
確かに、リーマンショックが起きるまでは、ドイツなど欧州の中心国もギリシャなどの周辺国も、平和と成長を謳歌していた。だが、ユーロ危機によって、その2つが崩れ始めているようにも見える。
火を放たれたアテネ、アナーキストがデモに便乗
2月12日、ギリシャの首都アテネは、まるで内戦でも起きているかのような騒ぎだった。国会議事堂をアナーキスト(無政府主義者)が占拠しようとしているという噂が流れ、暴徒が乱入しないように警官隊が四方を固めた。数多くの民間銀行に加え、中央銀行、財務省、さらにはスターバックスなど外資企業を狙い撃ちするかのように、建物に火が放たれた。
(写真)ドイツやEU(欧州連合)がギリシャに対する第2次支援策を提供するために様々な条件を付けたことにギリシャ国民が怒りを爆発。2月12日、アテネで起きた暴動では、銀行や外資系企業の建物に次々と火が放たれた。写真は燃やされたスターバックス店。
きっかけは、ドイツ、オランダなど欧州のトリプルA諸国やIMFが、第2次支援策を実施する条件としてギリシャ側に迫った財政緊縮策だ。メディア各社は、トリプルA諸国の一部で、「ギリシャがデフォルトし、ユーロを離脱することもやむなし」といった意見まで出始めていると報道し始めていた。こうした外圧に抗議するため、アテネ市民は大規模なデモを開始し、そこに一部の無政府主義者が便乗して大混乱に陥った。
デモの翌日、アテネ市内は無残な姿をさらけ出していた。高級ホテルやオフィスビルの玄関を飾る大理石の階段や壁は、ことごとく破壊されていた。警察に投石するための“武器”に、大理石が使われたからだ。携帯電話ショップなど、ショーウィンドウのガラスが割られた店舗も少なくない。略奪行為もあったのかもしれない。火を放たれた銀行などからは、机や椅子など焼け崩れたオフィス家具が次々と運び出されていた。
欧州統合の過程で地場産業が壊滅
政府債務を返済するためにEUやIMFから強いられる緊縮策を、アテネ市民はどう思っているのか。街中で声を拾うと、「借金は返さなければ仕方がない。そのためには我慢が必要だ」という肯定派もいれば、「仕事がなければカネを稼げない。稼げなければ借金を返せない。緊縮策だけを押し付けるドイツのやり方には頭にくる」という反対派もいる。
だが、双方に共通して言えるのは、将来への不安だ。借金を返しても、踏み倒しても、今後、ギリシャは成長し続けることができるのか。その答えが見出せない。この先、経済成長を牽引する産業がこの国には育っていない。観光業と海運業だけでは力不足だ。
「国家の近代化という点では、ギリシャは取り残されてきた」と話すアテネ大学ヤニス・ファロファキス教授
ギリシャが近代化への道を本格的に歩み出したのは、軍事政権が崩壊し民主化された1974年以降である。当時はオイルショックの影響で経済的にも苦しく、自由化が進められた。アテネ大学のヤニス・ファロファキス教授は、「国家の近代化の程度は、産業化の進展具合に依存する。その点で、ギリシャは長く取り残されてきた」と話す。50年代以降、産業育成の取り組みも始まったが、70年代のオイルショックで産業は壊滅状態となり、ギリシャは自国の産業を育てる間もなく、欧州統合の波に急速に飲み込まれていった。
例えば、かつてギリシャにも白物家電を作っていた工場があったが、やがてドイツの企業に買収されて、その工場はドイツからの輸入製品を保管する倉庫となった。80年代、ギリシャの債務のGDP(国民総生産)比率は約20%と低かった。「他の欧州諸国にとって、ギリシャは借金を増やせる有望な顧客に映った。ギリシャは、潜在的な購買力が期待され、ドイツなど他の欧州諸国で作られた商品の消費地として欧州に統合されていった」とファロファキス教授は言う。
闇経済、ドイツも“共犯”
賄賂や脱税などが横行する闇経済の大きさも、近代化の遅れを象徴している。実に、GDPの約3割に相当する規模の闇経済(シャドーエコノミー)が存在していると言われている。緊縮策の影響で薬などの必需品が手に入りにくくなっているが、背景には闇経済が蔓延していることで製品が正常に流通できない状況がある。
産業が育たないから、政府は公的部門で雇用を吸収し、優遇された給与や年金で「公務員天国」とも言われる状況を作り上げてきた。それに伴い、労働組合が大きな力を握るようになり、構造改革を阻んできた。経済協力開発機構(OECD)によれば、ギリシャの年間平均労働時間は2109時間と、ドイツの1419時間よりもかなり長い。ギリシャ人は働かないと言われるが、実は働いている。問題は、まっとうな市場原理が働かなくなり、生産性が上がらないことだ。
アテネ市民に経済危機の原因は何かと問えば、そうした自らの働き方にも問題があると認める声が多い。肥大化した公的部門と構造改革を阻む強力な労働組合の弊害は、多くの市民が認識しているところだ。
しかし、それと同時に、こうしたギリシャ経済の構造的な問題を巧みに利用してきた外資企業を批判する声もある。闇経済の存在をドイツなどの企業も知りつつ、むしろ活用してきたというわけだ。一例として指摘されるのが、独シーメンスのスキャンダルである。シーメンスはアテネ五輪におけるギリシャの政府調達で、ギリシャ政府高官に賄賂を贈ったとされ、「贈収賄で私腹を肥やす政治家の陰に、独企業あり」との印象をアテネ市民に植え付けている。
アテネ大学のファロファキス教授は、「ドイツは自国企業の市場拡大のために、ギリシャを欧州の一員に迎え入れたかった。そしてギリシャにカネを貸し、消費させ、独企業の輸出を促進した」と、ドイツとギリシャの経済的関係を単純化して見せた。
「食い物にされた」のはギリシャだけじゃない
どこかで聞いたような話である。約3年前、リーマンショック後の通貨暴落で危機に陥ったハンガリーなど東欧諸国を取材していたときのことを思い出した。当時、東欧諸国は民主化20周年を迎えようとしていた。その間、経済で何が起きたかを単純化すると、まさにギリシャとドイツの関係と相似形にある。
(写真)デモで焼け落ちた店舗(アテネ)
民主化後の東欧諸国には、ドイツなど西欧諸国から金融機関が続々と参入し、猛烈な勢いで市民にカネを貸していった。共産主義時代に借金もせず、モノ不足に耐え忍んできた東欧の市民にとって、西欧の商品やライフスタイルは喉から手が出るほど欲しかった。しかも、共産主義時代に市民が「金利」について十分な知識を学べるはずもなく、借金に対して無防備だった。
西欧の金融機関が借金に不慣れな市民にカネを貸し、共産主義から解放された購買意欲の高まりを追い風にして不動産や商品を売りつけるという構図だ。それがバブルを生み、リーマンショックの勃発とともに経済危機へと転落した背景にあった。住宅ローンなど莫大な借金を抱え途方に暮れる市民を取材すると、カネを貸した側、商品を売った側の責任を感じずにはいられなかった。
ギリシャは身近な「新興国」だった
ドイツなど西欧の中心国から見れば、ハンガリーなどの東欧諸国、そしてギリシャなどの南欧諸国は、新興国そのものだ。市場は未整備で、消費者の購買意欲は高く、地場の産業は弱い。西欧企業にとっては東欧・南欧は身近な新興市場で、参入の余地が大きく魅力的だった。足りなかったのは購買力、つまり、カネだ。そのカネを上手く借金で増やしさえすれば、そこは西欧の企業にとって有力な市場に化ける。欧州拡大を推進する西欧の中心国には、そんなしたたかな狙いがあったはずだ。
(写真)デモで壊された信号(アテネ)
外部から流れ込んだカネで、東欧・南欧諸国の生活水準は向上し、道路などのインフラも改善された。その意味で、ギリシャ市民がドイツなど中心国に対し、一方的に「食い物にされた」と批判するのは、言い過ぎかもしれない。しかし、欧州の平和と成長という大義名分の下に、欧州域内の成長格差が抱える問題を後回しにして、欧州統合の果実を早急に得ようとしたドイツを始めとする中心国にも、危機の責任はあるだろう。
「アテネの新しい遺跡を見たか」。アテネでタクシーを拾うと、運転手がそう語りかけてきた。それは、パルテノン神殿などアクロポリス周辺の遺跡のことではない。デモによって燃やされたいくつもの建物のことだ。その運転手は、観光の町アテネのイメージを悪化させた一部の無政府主義者の仕業を許せないと語りながらも、緊縮策を押し付けるドイツやIMFに対して悪態をつき、「俺もいつかデモに参加し戦うつもりだ」と断言した。アテネを取材すると、危機は終息するどころか、欧州統合すら危うい状況にあると思えてならない。
---------
数日後には1ページ目しか見れなくなるので全文転載。
やっぱEUと言う名の収奪の構造だったんだなー。
でもギリシャも情けないぞ。
そう言うシステムだと言う事を早期に認識して抵抗しなきゃ。
まあラテン系の脳天気さで借りても返さないぞ、って感じだったのかもね。
で、ひるがえってTPPだ。
これもアメリカによる収奪システムだと思うぞ。
自由化と言うと聞こえは良いけど自由ってなんだ。
「規律有る自由」と「無節操な自由」の違いを明確にしないとね。
んでもって規律を打ち倒すシステムがTPPには組込まれてるからね。