DPFを外さずに化学の力で何とかしようという研究です。実に怪しげな話ですが今回は神回です。
本研究は、尿素SCRを搭載していなく、かつ、DPFが縦に設置されていることを前提とする。条件を満たした場合でも、センサー類の水没は関知しない。
●ピュンピュン号のDPF再生間隔の状況と改善結果
◇ 施工前:170キロスパン。冬場230~270をウロウロしておりましたが、RMCを吹きすぎて吸気シャッターバルブ周りのオイルがDPFへ大量に廻って170キロ台まで悪化、強制燃焼を掛けるが改善せず。
◇ 施工後:1回目284キロ(6.2キロ)。2回目357キロ(5.4キロ)。順調に回復しているが、再生距離がまだ5キロ台なので本調子には至っていない。圧損が大幅減少したので、再生4~5回はECUがもろもろを学習し、その内落ち着くだろう。施工もすすぎ工程途中でまだ完了していない。
●DPFに詰まっている物(アッシュ)
DPFには様々な物が詰まるが、どうしても燃えない物をアッシュという。アッシュにも様々な化合物が含まれていますが、これまでの話の中で、CaSO4(石膏の主成分)がバインダーの役割を果たし、他の化合物を巻き込みDPF内の通風を妨げて圧損が増える事はご理解いただけていると思う。
・アッシュ総量に対し、バインダーとなっているCaSO4は先人の研究により8割前後と推測され、12万キロ走行で30gのアッシュが堆積されるとの報告がある。11万キロのピュンピュン号には27.5gのアッシュが堆積しており、その内CaSO4は22gである事が考えられる。
・最近解かったことはスカDオイルの分析結果では、CaSO4ではなく、ヒドロキシアパタイトというリン酸カルシウム系の化合物がバインダーの役割となっている。このヒドロキシアパタイトが溶けるのか?は不明です。ピュンピュン号は市販オイルでスカDオイルは一切入れておりませんのでアッシュはCaSO4です。
・で、このアッシュは堆積状態によりウォールアッシュとプラグアッシュがあり、ウォールアッシュはぼちぼちですが、それが成長しプラグアッシュ化すると一気にDPF圧損が増加し、皆さん色々ケミカルを入れて迷走を始めます。
・市販の燃料添加系のケミカルでアッシュの堆積を「根本的」に改善できるものは無く、化学的には一切無駄ですので明言しておきます。
・ウルトにアッシュを溶かすというDPFクリーナーがあり成分的には少し期待があるが、リキモリ、ワコーズ含めてアッシュが完全に取れたという話は聞かない。
★本試みは、アッシュ中の各物質のバインダーとなっている溶解性化合物であるCaSO4(石膏)を石膏溶解液で化学的にCa 2+とSo4 2+にイオンとして分解し、薬液と共にDPFを透過させ圧損を改善する化学的手法であり、そこらの話とはアプローチ方法が異なります。
●石膏溶解液
トクヤマデンタルのジップクリーナーを楽天で購入した。
税込み本体2613円+送料698円=3311円
・1000ml
・Na系pH8弱アルカリの発泡タイプ
・最大溶解量:100gで約8gの石膏を溶解できる
これより22g/8g*100g=275gの薬液量でラボレベルでは溶解できることが伺え、溶解率が落ちる現物環境での施工でも1000mlあれば充分と考えた。
・未使用時pH8、使用後pH6。使用後は中性を外れるので溶解物の沈澱が起きるので沈殿対策が必要。
・主成分:Na3[HO-EDTA]、pH調整剤:炭酸水素塩(溶解によるpHの低下により発泡する)記載はないが、林純子氏らの研究によると石膏溶解液の定番。
・固形成分比:21.1% 外気温15℃で水分が1%減少すると結晶が析出し始め、3%を超えると一気に結晶化が進むことが埼玉55の研究で分かった。
・固形分は364.8℃で燃焼気化し、8.1%の減量がある。残りは固形分として排気管内に残留する。固形成分がDPFに残ると圧損が増えてしまい、発生するガスには毒性もあり、DPF内に残らないように薬液の濃度調整と水による十分なすすぎが必要。
●溶解液の調整
Na系の1000mlの石膏溶解液を途中700mlまでは原液のまま試行錯誤しながら施工していたが様々な問題が発生しうまく行かず、別途溶解液の暴露試験を行った結果、溶解液中の固形成分が脱水により結晶化する事を発見した。残りの300mlには対策を施しアッシュを溶解できた。
●アッシュ中の石膏の特性について
アッシュの成分については全て押さえた・・・つもり。CaSO4(石膏)が8割で主成分と言える。調べたところCaSO4は結晶構造の違いより7つに分類されており、DPFの中の石膏の種類を特定した研究論文は見当たらなかった。
・一応生成温度環境からラスボス的な無水石膏Ⅱ型(不溶性無水石膏)が多いのではないかとあたりをつけている。調べると「非常に水和しにくく」とあり、水にほぼ溶けないような話が多い。DPF中の生成環境では他の不純物が多く混ざり強固な結晶化に至っていないとも思われやや難溶性と考えた。
・難溶性とか不溶性は当てている漢字の問題で水に溶けないように誤解されがちだが、実はよく溶けるのだがかなり時間がかかるだけである。それゆえDPF洗浄業者は温度管理をしながら長時間洗浄液を循環させてアッシュの表面を溶かして、逆水洗で物理的に排出している。
●DPF酸化促進剤について
ちなみにDPFの酸化促進剤は金属の酸化還元を利用した燃料系添加剤であり、多くがフェロセンやセリウム系が配合されており、酸化で酸素を集め、還元で酸素を放出し煤の酸化を助ける。
・その還元温度が450℃とか低くても反応するので、DPFの燃焼温度が650℃に達しない冬場でも煤を酸化させることができ効能は本物である。
・半面、成分がFeやCeの燃えない金属であり、常用するとアッシュとしてDPFに堆積するので、冬場のDPF温度が上がらないときに使う物である。商売の邪魔をするつもりは毛頭ないが、年中入れ続けた方が予防になると思っているみん友がいるのでDPFを詰まらせる遠因になる事を明記しておく。
●マツダのDPFの素材
マツダ技報情報ではCeではなくPrを配合している。マツダお得意の独自路線だ。
SiC シリコンカーバイト(炭化ケイ素)の骨材
Zr ジルコニウム(いわゆる貴金属)
Nd ネオジウム(いわゆる貴金属)
Pr プラセオジム(いわゆる貴金属)
O 酸素
★DPFには微穴が無数に開いており、空気は通るが煤やアッシュの類はキャッチします。大切なのはその微穴の口径であり、薬液で分解したCaSO4がその微穴をすり抜けて排出できるのか?という事が本作戦のKFSである。
・DPFの資料では★骨材の隙間は10~15μmが中央値とある。化学的にはずいぶん大きな穴でありCa 2+とSo4 2+イオン水が透過するには楽勝である。
●どの時点でDPFは詰まっているのか?(SH型エンジン)
概ね270キロ間隔の再生でウォールアッシュが全体に廻り、230キロを切ればプラグアッシュが成長し燃費の悪化や振動・吹け上がりの問題が顕在化している。お金の問題があり皆我慢しているだけで、DPF圧損は本来のスカDエンジンを味わう楽しみをスポイルしている。
・もう少し整理すると、トルクプロをお持ちの方はとある整備工場でのDPF洗浄後のDPF差圧が0.06k㎩のデータがあり、それを基準値としてチェックすると解りやすいのかもしれない。0.09だと1.5倍の差圧で溜まってきている、0.2は0.06に対し3.333倍になるのでかなり溜まっているとか・・・。
・埼玉55はトルクプロは持っておらず、DPF差圧パイプにトヨロンホースをつなげて息を吹き込み、自分の肺活量で圧損を測った。
そんなんで解るんかい?
●用意したもの
・工具
・トヨロンホース(内径12mm)
・霧吹き(RMCのセットについてきたもの、ホームセンターでも売っていた)
・石膏溶解剤1L(ジップクリーナー)
・精製水2L
・キリンのアルカリイオン水2~4L
●施工方法
DPF差圧センサーの差圧パイプに繋がる左側のゴムホースから噴霧器(RMCで使った緑の噴霧器)で噴霧する。噴霧量と噴霧時間がミソである。早すぎてもダメ遅すぎるとpHが低下しせっかく溶解した物が沈澱する。
・濃度調整した溶解液とすすぎの水の量を合わせて250mlを最大噴霧量とし、200ml程度に収まるように20回に分け1ケ月に渡り少しずつ施工した。
待ち時間は野良猫に車の番をしてもらうのがイイかな。
●危険事項について
作業自体は実に簡単で誰でもできるが、ここに記載したレベルの情報を元に、セルフ洗浄すると残念ながら★100%DPF閉塞やDPF溶損を起こします。
・DPFチェックランプが点灯している場合やそれに近い場合は、薬液がDPFを通過できずDPF骨材に滞留すると、DPF溶損を起こしますので、DPF洗浄業者へ出してください。まずは、100mlの精製水を繰り返し通水し、容易に水が通ることを確認できないと施工できません。ピュンピュン号に水を飲ませた話です。
・薬液の濃度調整、1回あたりの施工量、施工時間、DPF温度、すすぎ水の量など少し条件をそれると思わぬことが起こります。ピュンピュン号も危うく閉塞寸前になったり、激しく煙を吐いたりしました。
・また、DPFの素材に対する被毒(攻撃性)も成分より直接的には影響が無いと判断しましたが、中間物質やDPF中の数ある物質との作用は判りませんので後々何かあるやもしれません。
・DPFを通過した薬液は排気経路に溜まり、排気熱で水分が蒸発し固形化する。これについては色々問題があるが埼玉55は放置している。気になる場合はDPF下のセンサーを外し、ハンドポンプなどで吸い取る事が必要となります。長期的に問題が出ないか?観察中です。
●今後の方向性
すすぎ工程を完了させ、DPF再生間隔が安定したところで最終効果を特定する。
・資料では11万キロ走行のピュンピュン号のプラグアッシュの長さは≒26mm、アッシュ溶解により10mm減の16mmとすると計算上274キロ毎のDPF再生へ改善される事が期待できる。284、357キロと今のところ好調だが5回連続で274キロ以上で安定すれば大きな効果があったと結論付けたい。
どのような計算でそのようになるんだ!
・今のところ、期待通りの成果が出ているのはないかと考えられる。少し長期的に検証して確実な効果や安全性を確認する必要があるが、★誰か治験レベルの追試して頂ける方を若干名募集致します。勇気のある方は奮ってご連絡ください。ノウハウを個別に連絡させていただきます。
・興味があり質問されたい方はどしどしコメントください。
成功事例が増えれば信頼性も高まるのではないかと思います。
●結語
そもそも、DPF圧損が大きくなったので外してDPF洗浄に出したかったのですが、たまたまお金が無く(いつもだろう!)、怪しげな薬で安く簡単になんとかしたいと思い、世界中でも誰もが無し得ていない事の研究に手を染めてしまいました。
・途中難題が発生した時にはくじけそうになりましたが、自分の仮説を信じて、ピュンピュン号にはいつも苦しい思いをさせて申し訳なかったのですが最後までやり遂げました。
・歯止めとしては、オイルキャチタンクのW化などでDPFに廻るオイル量をコントロールし、再度の圧損増加への時間を稼ぐことが重要だ。埼玉55のようにレッドゾーンまで回す人はW化では追い付かないのも事実であり、今後追加対策を検討する。
・この研究結果が本物であれば、DPFに苦労されているみん友が、わずか3311円でDPF詰まりより開放されるエポッキングな話なので、理論が判らなくてもだれでも安全に施工できるレベルにまとめ上げて公開できればいいな~と思います。
・半面、あまりに広がりすぎると、いつも我々を助けてくれるディーラー以外の民間整備工場では高価な設備を導入して商売されており、ご迷惑がかかりますので考えどころではあります。
●参考文献
・石膏溶解液の選定については林純子氏ら共著の「石膏溶解剤の成分と溶解性能に関する研究」を参考に、成分(金属に対する攻撃性)・溶解性能・固形分量の少なさを検討し、合わせて入手の容易性・市販価格を検討し「ジップクリーナー」を選定した。氏らの本当に貴重な研究に感謝申し上げる。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjdm/23/4/23_KJ00000835811/_article/-char/ja/
・また三次勇太氏著の「DPFに堆積したアッシュの透過メカニズムに関する研究」により、アッシュに対する知見と分解方法の大きなヒントを得られ、貴重な研究に感謝申し上げる。