MX-30のアチコチにボルテックスジェネレータ(VG)を装着し、燃費改善効果を検証して遊びました。
結果は
整備手帳に記載の通り、期待していたような劇的な効果は得られませんでした。
みんカラ諸先輩の輝かしい成果と比べイマイチなこの結果に疑念を抱き色々調べてみると、どうもMX-30のアチコチに施されている空力的な工夫が原因ではないかと思い至りました。
専門家でも何でもないニワカ雑魚素人の考察につき、話半分でお聞き下さいませ。
MX-30の見た目は他マツダ車の流麗な鼓動デザインと比べると些かずんぐりした印象を受け、空力が悪そうなイメージを抱いておりました。
それに対し同クラスSUVにおいて世界トップクラスの空力性能を誇るCX-30。
私が勝手に空力悪そうなイメージを抱いていたMX-30ですが、優秀なCX-30とシャシーを共にする兄弟車であり、実は要所要所で兄と同じ工夫が施され、さらには兄に無いオリジナルの工夫も見受けられ、兄ほどとはいかずともそれなりの空力特性になっていたのでした。(どっちが兄かは諸説あり)
以下、MX-30の空力的工夫とボルテックスジェネレータ(VG)との関連性の考察です。
【ドアミラー】
車体から横に飛び出ているこのパーツ、風切り音にフォーカスされがちですが燃費的にも影響しやすいパーツで、VG施工の定番箇所です。今回MX-30のドアミラーの上下左右にVGを貼ってみましたが有意な効果は見られませんでした。
何故か。それはマツダ第7世代商品群のドアミラー形状に施された空力的工夫にあると思われます。

左が第6世代、右が第7世代
マツダ技報によると第7世代のドアミラーは、ミラー後方の空気の速度を上下左右均等になるようにデザインすることで巻き込みを低減しているとのこと。
このデザインにVGを追加するとせっかくの上下左右均等というコンセプトが崩れ、VGによるプラス効果が相殺されると推測します。
【フロントタイヤ周り】
フロントタイヤハウス前側にVGを貼り、タイヤハウス内への空気の乱入防止を目論みましたが燃費改善効果無し。それどころか直進安定性が低下したように感じました。
その謎の答えもマツダ技報に。
フロントフェンダーの穴から取り込んだ空気をタイヤハウス外側に流すことでエアカーテンを張り、タイヤハウス内への空気の乱入を防ぐ設計になっています。
VGを貼らずともタイヤハウス周りの整流はなされていたということ。
【ルーフスポイラー】
屋根沿いに流れてきた空気がリアウインド付近で剥離し、大きな巻き込みが発生するこの場所も鉄板のVG施工箇所ですが、MX-30には効果無し。
調べてみると、MX-30のルーフスポイラーはほんのちょっと跳ね上がった形状になっており、これが空気の巻き込みを低減していたようです。

この記事を見るまでダックテール形状である事に気付きませんでした。それほど微妙な反り。
全体のデザインに影響を与えず、でも空力はちゃんと考えられている、心憎い工夫です。
【テールランプ】
最近のトヨタ車には必ずと言っていいほどテールランプにVGがついているド定番の施工箇所ですが、やはりMX-30には効果無し。
その理由はMX-30リアデザインのアイコンとも呼べる筒型のテールランプにあり。
テールランプの上から流れてきた空気と横からの空気を、このシリンダー形状で上手いことアレを何とかするナンタラ効果で整流させているようです。
詳しい理屈は分かりませんが、こんなイメージでしょうか↓
ここにVGを貼ってしまうと、筒型形状の利点を台無しにしてしまいそうですね。
この筒型テールランプ、お気に入りのデザインの一つですが、よもやこの特徴的な可愛らしい形状にそのような秘密が隠されていたとは・・・開発者の方々の創意工夫にはつくづく頭が下がります。
【リアフェンダー】
車体下を流れてきた空気がリアで空気の渦を作ります。如何に車体から離れた位置に渦をズラすかが燃費を左右するということで人気のVG施工箇所ですが、MX-30には糠に釘。
またまたマツダ技報より。
リアサス付近にカバーを配置し整流。
またマフラーサイレンサーは平らな形状で整流板の役割も兼ねている。
さらにサイレンサー表面に溝をつけて整流効果を増進。
さらにさらにサイレンサー後端にフィンを設けて整流という念の入れよう。
【リアピラー】
車体サイドを流れてきた空気がリアで境界剥離を起こすということで話題沸騰の施工箇所。ここだけは辛うじてMX-30にも効果が現れましたが、やはりここにもデザインと空力を両立させた工夫が。
上図矢印の辺りにわずかな折り目が施されており、これが空気の巻き込みに効いているんだそうな。これみよがしな形状は避けつつの空力的デザイン。そこに痺れ(以下略)。
一応VG施工による燃費改善は見られたものの、著しく景観を損なうため結局取り外しました。デザインと性能の両立の難しさを知り、改めて開発陣の情熱に胸を打たれました。
【その他、私見邪推】
ここからは記事や技報に見当たらない、完全に私の憶測の領域になりますが、他にもリアアンダー付近で空力的工夫と思われる造形がMX-30にありました。
↓の写真はリアフェンダーを地面から見上げた様子です。
矢印が示すパーツは小さな樹脂製の板で、板の裏は何もありません。機械が設置されているわけでもないことから、何らかの空力効果を狙ったパーツ、フェンダー裏側の空間に入り込んだ空気をイイ感じにホニャララするためのパーツと思われます。資料が見つからず全くの想像に過ぎませんが。四角く空けた穴の数々も意味有りげです。
また、フェンダーに刻まれた溝もよくよく考えると怪しい。
これまではただのデザインだろうと見過ごしていましたが、よくよく見ると意味有り気に思えます。
①の反射板の溝。反射板をつけるだけならここまで横に溝を延ばす必要はない。そういう意匠と言えばそれまでですが、横から来た空気の境界剥離を防止する狙いがあるようにみえます。
②の水平に長く伸びた溝、および③の四角い溝も怪しい。下から上がってきた空気に対して何らかの整流効果を狙っていそう。溝の中をよくよく観察すると、中には細かなギザギザが刻まれており、これはゴルフボールのディンプルのような小渦発生を意図しての造形と思われます。
またフロントの方にもこっそりボルテックスジェネレータ的な構造物がデフォルトセッティングされており、下腹部に対する異常なまでの執着が窺い知れます。
↓画像は運転席横から前方を見た様子。
矢印の箇所、ボンネットの立体的造形がサイドに流れて来て、Aピラー付近でスパっと切り落とされた意匠になっています。違和感は無いですが、他にデザイン的選択肢はあったはずなのになぜ?
もうお分かりですね。そう、これはボルテックスをジェネレートするためにわざとこのような意匠にしているに違いありません!
このパーツだけ見てもそんな発想には至りませんが、前述した工夫の数々を知ると、これもそうなのかと思えてなりません。
【まとめ】
以上のように、MX-30には元々隠された空力的工夫が施されており、中途半端なVG施工はそれら工夫を打ち消し、効果が薄いのだと結論付けました。
MX-30にボルテックスジェネレータ
もっと厳密にミリ単位で取り付け位置を変えれば、あるいは効果が出てくるかもしれません。しかし調べるうちに知る事となったデザインに隠された空力工夫の数々。それらを実装するまでの開発者皆様の創意工夫や怨念ともいえる情熱。それらを無碍にしてまでVGを貼るのは、この車のコンセプトに相応しくないと思い至り、VG遊びはこれにて終了とさせていただきます。
【所感】
MX-30開発主査のお方が仰られていました。
「MX-30は技術面をアピールしない。心地よい空間、心地よい走り、心潤うデザイン、そういった感性に響く車、がコンセプトなので」
「でも実は走行性能もかなり拘っていて、新技術・独自技術が採用され随所に散りばめられているんです」
この宣伝方針を知った当時は心配しました。優れたポイントをお客様に伝えないなんてもったいない、と。
憂慮は現実のものとなったか、MX-30の販売台数は鳴かず飛ばず。
MX-30に施された数々の工夫。
それを自然なデザインとして成立させ、車のコンセプトと喧嘩させない巧妙な設計。
それを敢えて言わない昔気質の職人的な心意気。
今回のVG遊びを通じてそれらを知るにつれ、MX-30が尚素敵な車であると思えてくるのです。
また最初から宣伝文句として知らされていたら、この気持ちはもう少し薄かったと思い、開発主査の方針に改めて敬意を覚え、愛着が追加されるのでした。
こうした「でも実は!」が詰まったマニアックな特性を鑑みるに、MX-30という車は20年後くらいに隠れた名車になる可能性を秘めているのではと少しだけ期待しつつ、他の車に隠された思いにも触れてみたい気持ちも強まる今日この頃。