静電気除去の主力であるコロナ放電。そのキモは電気を空中に飛ばす発射台となる放電索といっても過言ではないでしょう。トヨタ考案アルミテープから始まり、除電フリーク先達諸兄の奇想天外創意工夫により様々なタイプのものが次々と生み出されており、その発想や知見につくづく敬意を覚えてなりません。
それぞれの放電特性や効能を理解し適切な施工をする事が効率の良い除電に必要に思い、タイプ別特性と施工方法を整理し、ここに記します。
【放電索の形状】
コロナ放電のキモとなる放電索。その形状は様々で、元祖放電索である飛行機の翼に付いてるのはギャンのようなタイプ。
アルミテープや外歯ワッシャーの場合は断面の角が放電索に相当します。
エンジェルリングの場合は金属ワイヤーの先端が放電索になります。(厳密には先端以外からも少し放電します)
放電索の形状と放電効率の関係性は至ってシンプル。鋭角なほど、先が尖っているほど電界が強まり、荷電粒子の放出・吸引する威力が大きくなります。波紋法の水鉄砲理論と似たような感じです。
すなわち同じ電圧でも尖っている方が放電しやすくなり、イオン生成量が増すという事です。
ただし針のような放電索は整備上危険ですし、先端が細いほど放電に伴う電気腐食や不純物付着などの劣化の影響を受けやすいため、闇雲に尖らせればいいという訳ではなくバランスが大事ですね。
【放電索の間隔】
放電索が多いほど放電しやすくなりますが、欲張って密集させ過ぎると却って効率が落ちます。
なぜか。それは電界的に突出しなくなるからです。
コロナ放電のキモは電界的に突出している箇所(放電索)からの電子の吸引・放出ですが、放電索が密集していると隣の放電索の電界が干渉し、電界強度が弱まってしまいます。
電極の間隔とコロナ放電量の関係を調べた中村大輔らの実験(2008年)によると、並行に並べた電極同士の間隔が4mm以下だと一部の電極がコロナ放電しなくなり、放電している電極も勢いが弱まりイオン量が減るとのこと。
放電索が2mm間隔の場合、真ん中の放電索は放電しない、かつ、両端の放電量も低下する。
放電索同士の間隔は5mm以上は開けた方が効率が良いと言えます。その点ガトリングディスチャージャーは理にかなった形態ですね。これを発明した御方は放電索間隔を保つ方が良い事を経験則として知っていたのでしょう。恐れ入ります。
画像は例によってちゃいみみさんより拝借。
ただし密集していても効率が落ちるだけで放電しないわけではないのでご安心を。
除電用に開発された導電性ポリマーテープなどは、放電索(起毛)の間隔は5mmどころか0.5mmもありません。
アースケーブルや炭素繊維をほぐして作るタイプの放電索などは5mm間隔を空けるのは困難でしょうが、それでもなるべく良くほぐして隙間を空けるのが吉。
【並行放電索の留意点】
放電索を設置する際は、帯電物から5mm以上離して設置しましょう。上述の通り放電索は電界が突出してナンボの代物であるからして、帯電物に近すぎると電界的に突出しなくなり除電効率が低下します
ガトリングディスチャージャーのように対象物と放電索が並行するタイプの除電器は注意が必要です。
ちゃいみみさんより拝借アゲイン
これも「その方が効率が良い」だけであってそこまで拘る必要はありません。なにせアルミテープの放電索(断面の角)は対象物から1mmも離れていないのですから。
【放電索の素材】
車の除電用放電索に良く使われている素材はアルミ、銅、ステンレス、カーボンといった所のようです。放電索の素材の違いは放電電圧と耐久性に影響します。
導電性が高いほど放電に必要な電圧(放電電圧)が下がり、放電しやすくなります。
銅はアルミの2倍近い導電率を持っており、安価に入手できる素材の中では最も放電性に優れています。反面、放電による電気腐食耐性が低く、交換等のメンテが必要なデメリットがあります。

カーボン界のサンバルカンことカーボングラファイト、カーボンファイバー、カーボンブラックは耐腐食性に優れ、一度設置すればメンテフリーのメリットがあります。
なお炭素素材は放電の影響で先端が鉛筆のように徐々に丸く短くなっていきますが、除電目的なら数年は大丈夫でしょう。
カーボンのデメリットは2つ。
銅やアルミとくらべ放電が安定しない点(放電したりしなかったりのムラが大きい)という点と、放電電圧(コロナ臨界電圧)が高い(静電気がたっぷり溜まらないと放電しない)点です。
カーボンは非金属の中では導電性に優れた素材ですが、それでも銅やアルミと比べると導電率は1/5程度。その分、放電するために高い電圧を必要とします。臨界まで電圧が溜まらないと除電作用が働かないコロナ放電の特性上、カーボンでの除電箇所はアルミや銅と比べて静電気が多く残ります。
【高放電電圧】
放電に必要な電圧が低いほど除電効率が高いと散々述べてきましたが、放電電圧が高いことのメリットもあります。それは一度の放電で生成されるイオン量が多くなると言う点です。
放電電圧が高い、つまり高電圧をかけないと放電しないということは、いざ放電した時のエネルギーがそれだけ強くなるということです。
エネルギーが強いと、電極に吸い寄せられるあるいは電極から飛び出す荷電粒子の勢いが強くなります。
荷電粒子が空中の酸素や水ぶつかるエネルギーが大きいほどそれら分子が分解されイオン化する数が増えるという事になります。
なので大量の静電気が溜まりやすい場所には、カーボンなどの導電率の低い放電索の方が強力に除電できるでしょう。
また、静電気対策を目的とした放電索にはアルミ等よりも一定の電気抵抗値を持った素材の方が適しているという学説もあります。
クラレリビング(株)研究開発部の秋庭英治氏によると除電に適した電気抵抗値は10の5〜10乗Ω/cm。導電性をうたうカーボン素材は概ねこの範囲に収まります。
【プラス放電とマイナス放電】
車の除電は基本的にプラス放電です。例外的にマイナス放電となるのが、シリコーンのマイナス帯電性質を利用したエンジェルリングスパークです。
プラス放電とマイナス放電、両者の違いは前回ブログに書いた通り拡散するイオンがプラスかマイナスかの違いがありますが、その他にも放電電圧の違いがあります。
放電電圧が低いほどコロナ放電が起こりやすい≒除電効率が良くなります。
放電電圧はプラスとマイナスで異なり、プラス放電の場合は3700Vから。対してマイナス放電は1900Vと、プラス放電の半分くらいのエネルギーで放電が始まる高効率な除電と言えます。
【まとめ】
放電索のタイプ別特性をまとめますと、
・鋭い方が放電しやすい
・放電索の間隔は5mm以上推奨
・導電性が高い方がこまめに放電する
・除電目的ならある程度の電気抵抗値があった方が良い説もある
・マイナスの方が放電しやすい
となります。
以上、皆様のご参考になれば幸いです。
【雑記】
サンバルカンという名称、太陽のSUNという意味のほかに、英単語を知らない幼児にも分かる数字の3も意味するダブルミーニングと勝手ながら推察し、改めて良く考えられていると思います。

タテ!ヨコ!高さ!
3という数字は非常に安定した数字と思い、御三家、三種の神器、三位一体など枚挙に暇がありません。対して「ククク、やつは四天王の中でも最弱」といった定番の台詞からも分かる通り4は不安定な数字と言えます。戦隊モノで4が使われている事例を私は知りません。
サンバルカンでは陸海空を表すイーグル・シャーク・パンサーを戦力として描かれていますが、バビル2世のポセイドンしかり、この手の戦力に海の要素が入ると、どうしてもそれを有効活用しようとする重力に縛られておかしなシナリオになりがちですが、逆にそれゆえにメリハリあるストーリーになっていくのかもしれません。
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2023/08/22 14:58:22