さて前回で予告していました通り、今回はカムリハイブリッドの試乗レポートをお届けします。今回もロングランではなく、一般公道を30分くらい走らせた程度なので、簡易的なレポートであるのを事前にご了承願いたいと思います。
今回の新型の登場でカムリは9代目。新型の登場を機に歴代モデルを振り返って見てみると、紆余曲折様々な事情を経て今に至っている事に改めて驚かされてしまいました。最初はセリカ・カムリ、その後はビスタと姉妹関係を結び(今改めて思うと、日本でのビスタの後継車はアヴェンシスなんですね)、その後はウィンダムと姉妹関係だったり、グラシアなんてサブネームがついたり…今では国内ではウィンダム(レクサスES)も導入されなくなり、9代目でハイブリッド専用車種へ。ちなみに、全チャンネル扱いではなく、新型はHVでもカローラ店専売となっています。世界基準で見ればベストセラー、しかし日本国内では「いい車」と褒められ続けていたものの、地味な存在から脱却することはできず。なのでここは伝家の宝刀「THS」で…!どうせガソリンモデルを入れても、日本人にはマークXもクラウンもありますから、これはこれで賢明な判断といえるでしょう。
っというわけで、まずはエクステリアから。のっけからではありますが、カムリ最大のウィークポイントはここ。先代までにあったアメリカ市場にウケそうな大陸的デザインでもなく、いかにも空力優先CADでちょちょいのちょいで仕上げました!的スタイリング。地味だとかシンプルはむしろ褒め言葉。シンプルなスタイリング、なんて結構難しいですからね実際。別に車のキャラクターを考えて、趣味性がない!なんて事は言いませんが、それにしてももうちょっと素直にすっきりとまとめられなかったものか…このカムリに限って言えば、日本人が好みそうなギラギラメッキ処理が、むしろ北米仕様の何の取り柄もない「無」な印象よりもいいかもしれませんが。ただ、ハイブリッドだからといって、安っぽいクリアテールにしなかったのは◎。SAIよりはマシ、なので、トヨタの中で言えばまだ妥協点なのかなぁ…。プラットフォームが先代と共通、サイズもかなり大柄なのですが、写真で見る限りあまり大きく見えないのも、新型の特徴といえるでしょう。
ということで、少しでもカッコよく見えるように?画像はモデリスタのエアロ+19インチを装着したモデル。こういうちょっと品のない?いじり方も、この車ならアリかもしれません。
ドアを開け続いてはインテリアへ。こちらは外見に反して結構好印象。何よりも「パッと見」の質感・クオリティが大幅アップ。よくよく見れば手抜きが散見、300万クラスなのに物足りない、これのどこが高級なの?というご指摘のある方はごもっともですが、それは今までのカムリを知らずに判断しているのでしょう。少なくとも「大きいカローラ」でしかなかった従来型に比べ、新型はインテリアの造りと高級(っぽそうに見せる努力)感は格段に向上しました。「サイバーカーボン」と呼ばれるインパネの柄も、ブラックの内装色と相まって、木目調とは異なる新たなアプローチとしては上々の仕上がり。レザー仕上げか?と一瞬騙されそうになる、ステッチをあしらったソフトパッドのインパネ表皮はアイデア賞モノ。
ナビは未設定、純正OP品もタッチパネル式、またハイブリッドでありながら、コンベンショナルなゲート式シフトレバーを採用するのも、保守的ユーザーには歓迎される要素。事実こういう奇をてらわない(=プリウスはもちろんの事、レクサスHS・CTやSAIでも拒絶する保守ユーザーが結構多かったとのこと。)フツーの地味セダンでハイブリッド、というジャンルには、確実に需要がありそうです。
リアシートの広さはFFビックセダンの真骨頂。HVの弊害はラゲッジスペースに…といいたいところですが、パッケージングの工夫で440L確保したのは立派。あえてスッキリとスクエアなスペースを設けるのではなく、とにかくいけるとこまでは絶対に広く!という精神なのか、見た目のキレイさ重視ではなく奥行き部分はデコボコ。右側だけトランクスルーを採用したのも意地に近い。トランクヒンジがダンパー式でなく室内に干渉するのが残念…と言いたいところながら、そういえば先駆車のドイツ勢も何故か近年次々に廃止している事を思い出しました。不思議。コストの問題?真相知ってる方いたら教えてください。
さて、車両の紹介も終わりまして、試乗開始。テスト車両は中間グレードのGパッケージ。これが販売の中心となると予想される、また個人的にも1番のお勧めグレード。ベースモデルの304万円より+13万円となりますが、その内容は17インチアルミ・本革巻ステアリング・運転席パワーシートなどなど、価格以上の充実度。絶対に16インチがいい!というのでなければ、素直にGパッケージを選んでおいた方がいいでしょう。もう1つ上の「レザーパッケージ」は、文字通り本革シートや純正HDDナビやクルーズコントロールが標準となりますが、価格もグーンと上がって+63万円の380万円。これはもう明らかにボッタクリ。しかも肝心の本革シートの出来がイマイチという有り様。というわけでお勧めはGパッケージ。これにディーラーOPのナビ+バックモニターなら20万円以下で装着できるので、このパターンが一番買い得感アリでしょう。ちなみに、VSCやサイドエアバッグは全車標準装備。
ボディーカラーは「トゥルーブルーマイカメタリック」と呼ばれる水色。HVっぽさならこれですが、車格に見合っているかと言えば…?ここは無難に白・シルバー・黒が売れるでしょう。ラインナップも恐ろしく地味ですが、クルマのキャラクターを考えれば納得。注目したいのはトヨタ初登場となるアティチュードブラックマイカ。202のソリッドブラックとは違う雰囲気で、なかなか好印象でした。
さて動き出し。ステアリングはテレスコ・チルト調整可能でポジションの自由度は○。エンジンスタートは無音ですが、それ以外はごくごく使い慣れたシフトノブを操作して、フツーのクルマと変わらない操作方法で動き出し始めます。まず初めに実感するのは視界の良さ。ボディサイズ自体はかなり大柄、全幅は1825mmもあるし最小回転半径だって5.5m…なのですが、コンベンショナルなセダンの形でアイポイントもさほど高くなく、Aピラーの角度もさほど寝ておらず閉鎖感もなし。実際街中での扱いやすさはかなり良好。この点で言えば、三角窓があるレクサスHS・SAIは、セダンというよりもどちらかというとミニバン的視界である事に気づかされます。
しかし、1つだけ突っ込んでおきたいポイントが。今回カムリにはドアミラーの根元付近に突起物(エアロスタビライジングフィン)が設けられており、これはなんとF1譲りの技術で、ボディ側面に渦を発生させて左右からのサイドフォースを強め高速域での安定感を向上させる…というもの。なんでカムリみたいなクルマに?という疑問は残りますが、実際ガムテープで覆い隠せば、その有無の効果の違いを実感できるんだとか。
…と話が逸れてしまいましたが、街中の試乗でそんな効果を体感なんてもちろんできるわけもなく。問題はこのドアミラーの形状。これもおそらく空力性能を優先した形になっているんでしょうが、この左右に絞られた「三角形」とも言えるドアミラーの視認性が、終始気になって仕方ありませんでした。燃費命!なのは分かりますが、多少犠牲になろうとも、もっとスクエアな形のドアミラーの方が絶対に見やすいし安全のはず。細かいポイントですが、指摘しておきたいと思います。
走りの印象に戻りまして、まず動き出しの印象は、トヨタHVに共通する、モーターだけで走り出すスムーズさが印象的。モーターの出力はSAIなどと同等ですが、注目は1540kgという車重。THSシステムを搭載しておきながら、この車重で収めた軽量化技術はもっと注目されてもいいはず。かといってボディなどに華奢な印象はなし。この軽さが走り面で多くの好印象を残す結果となります。
また、比較的エンジンがすんなりかかってしまう事も意外なポイント。もっともこれは一概に悪い事ではなく、走り出して一定速度に達した際にエンジンが止まる確率は確実にアップしており、トータルではエンジンストップが短く抑えられているような制御。無理にモーターだけに負担させようとせず、加速するところはスパッと両方使い、ある程度の速度に達すればエンジンはお休み状態を維持。ちょこちょこと放電充電を繰り返さず、ガバっと使ってガバっと充電。無理してどちらかに頼ろうとせず、お互いが上手く制御し合ってくれているおかげで、街乗りでのドライバビリティは大幅に向上しました。
どうせならモーターは絶対たくさん使いたい!という方は、エコモードで。これなら発進時のアクセルレスポンスが抑えられ、メーター上55km/h付近までスルスルーっとエンジンなしで加速する事も不可能ではありません。特筆できるのが、このエコモードが「後続車遅くてすいません」モードになっていない事。これは確実にSAIやHSよりも進化していると感じました。
このカムリ、パワーモードの設定はなし。それもそのはずで、ノーマルモードで加速力は十二分以上。特にFFなだけに、少しでも操舵している状態で大げさにアクセルをポンと踏むと、猛烈なトルクステアに襲われてしまうくらい、かったるいどころか積極的に速いと言える動力性能を備えています。これも軽めの車重が起因しているのでしょう。
そしてもう1つ。新エンジンも走りの好印象要素の1つ。AZ系からAR系に進化した新世代の2.5L4気筒エンジンは、アトキンソンサイクル形式を維持しながらも、パワー・トルクともにアップ。またAZ系2.4Lと比較して、格段にスムーズに回るようになったのも、動力系の滑らかさを演出するのに一役買っています。いい意味で4気筒とは思えない出来。ただ音自体もクルマ自体の静粛性向上の為かなり抑えられていますが、音質サウンド面でいえばマルチシリンダーにはちょっと敵わない…というのは贅沢な欲求か。しかし、噂では次期クラウンHVもこの2.5L4気筒を採用するとのことなので、相当に金と気合を入れて入念に開発されていたことが伺えます。
という事でパワートレーンは想像以上の良さを見せてくれましたが、フットワーク関連で言えば、そこまでの感動はなし。タイヤは215/55R17(ちなみに銘柄は16、17インチともにBSトゥランザ)と、まぁ常識的なサイズですが、乗り心地はコツコツと路面段差を拾って、どこか落ち着かない印象。速度を上げていくと乗り味はフラットになっていきますが、そうすると今度はコーナリング時の、特にロール方向の動きの大きさが目立ってきます。まぁフットワークに関しては一般的なFF大衆車の典型的な動きであり、このあたりは「大きいカローラ」を思わせる…のは、価格を考えれば仕方ないところか。まぁそれでも、HSやSAIがカムリよりいいか、と言われればそうでもありませんが。飛ばすクルマではありませんし、乗り味でプレミアム性はあまり感じません。しかしそんな中でも、軽くも重くもない適度な操舵力の電動パワステのステアフィールや、回生時のフィーリングにも違和感がないブレーキタッチなどは○。このあたりも、保守ユーザーのツボの抑え方としては、ちょうどいい落とし所なのかもしれません。
さて、燃費ですが、今回は限られた時間・ステージなので明確な計測はできず。走行200km程度のド新車の参考数値ではありますが、試乗開始時点での燃費は14km/Lほど。その後30分ほど走って、14.8km/Lまで向上しました。実用的な街乗り燃費数値はこのあたりでしょうか。SAIやHSは実用域の燃費が全然良くない!との悪評がありましたが、カムリはそれよりは少し伸びそうです。また、タンク容量が65Lとかなり大きいので、例えば高速燃費が18km/L程度だったとしても、1回の満タンでの航続距離1000km超えは結構簡単に達成できそうです。
疑問と言えばメーター上の燃費計。3眼式で見やすくシンプルにまとめられており、中央のインフォメーションモニターもこの程度の表示で十分。問題は右側の燃費計。立派なメーターで表示されているものの、これは「瞬間」燃費計ではなく「通算」燃費。つまり、走り出してある程度燃費が落ち着くと、針はほとんど止まったまま。瞬間燃費はその縁がグリーンに点灯して表示するのですが、視認性的に考えて場所配置は明らかに逆。なんでこんな事になったのか、大いに疑問なポイントでした。
さて結論。スタイリングは「?」。フットワークや乗り味は前回乗ったアヴェンシスほどの感動は無く至って普通のトヨタフィーリング、しかし最新世代アッパークラスのTHSシステムの熟成度、燃費性能とドライバビリティの両立はなかなかの見どころ。次世代への提案性は感じられないものの、20世紀的コンベンショナルセダン+21世紀的最新ハイブリッドシステム、という組み合わせを待っていたユーザーは結構いるはず。しかも、このボディのボリュームで、「手の届く」300万円ちょいの価格設定。少なくともこのクルマがあるならば、中途半端な存在となったSAIはその存在価値が無になったのと等しい…と言っていいでしょう。実際、あれほど地味な存在だったカムリですが、初期受注台数で見る限り、かなりの躍進。それだけ国内の「ハイブリッドアレルギー」は顕著…?という不安と懸念もありますが、まぁ今回カムリをハイブリッド1本に絞って国内展開したことは、大正解だったと言えるでしょう。そして全然期待してなかったのですが、パワートレーンの進化は想像以上。思っていたよりも全然いいクルマでした。
さて、そこでトヨタに要望したいのは、もう少し1サイズ小さい、普通のセダンハイブリッド。やはりカムリのボディサイズでは日本のユーザーには大きすぎるというユーザーは少なくないはず。例えば次期プレミオ・アリオンどちらかをハイブリッド専売にしてみたり…そう、ここで気づいたのは、まさしく初代プリウスの「正当な」後継車。ベルタ~プレミオサイズの、日本で扱いやすい運転しやすい、そんなユーザーの気持ちに応えるジャパニーズ和風ハイブリッド…そんな1台に期待したいと思います。
…さて、次回の試乗記は、話題の新車「ダイマツミラウース!」
ではなく(笑)
ダイハツミライース。
こちらを先週末に、早くも徹底テストする機会に恵まれました。
次回、ここでまたお伝えしたいと思います。
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トヨタ | 日記
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2011/10/25 21:35:13