普通に乗る分にはおススメでも、運転に自信があるなら…
またまた(また)、借り物試乗レビューになります。
今回お借りしたのはボルボ・V60の現行型になります。今回はカーシェアの「カレコ・カーシェア」で導入されている車両から選びました。
お借りできたのは下記のような仕様です。
・「inscription(インスクリプション)」グレード
・2020年モデル(VINコード”L”)
・エンジンは2.0Lガソリンターボエンジン(187kW(254ps)/350Nm(35.7kgm))
・8速AT搭載のFF
・タイヤサイズは前後とも235/40R19、装着タイヤはコンチネンタル・プレミアムコンタクト6
・空気圧は全輪230kPaとなるよう調整(160km/h以下、3名乗車の推奨空気圧)
今回は両親と3人で千葉県・銚子漁港までのドライブ(と、個人レビュー用首都高1周)に使用しました。借受時でオドメーター33000km弱のもので、430kmほど走行しました。
走り出しの印象は結構スポーティーな印象です。
足回りは欧州車としては普通、トヨタ車慣れしている家族の評では「やや硬い」ものです。
ステアリングの操舵感はメチャクチャ軽めで、そのまま首都高を流して乗っている分にはレスポンスも悪くありません。後述の「センターディスプレイ」でステアリングの重さも調整可能で、「重め」に切り替えても操舵感は軽いです。
ギアセレクトは日本車真っ青、または「CVTです」と言われて乗ったら分からないほど変速感がありません。
エンジンの存在感もほとんどなく、パワー感は踏んだら踏んだ分だけ淡々と発せられる感じです。騒音もほとんど気になりません。
滑らかにスルリスルリと、軽快に走っていけます。
それでは…と頭にハチマキを巻いて(←いる気分になって)首都高の都心環状線を(流れに乗る範囲内で)攻め込んでみます。
…クルマの表情は一変します。とにかく「ついてこない」のです。
ステアリングの操舵感覚は軽いままですが、クルマが重さに負けてコーナーから膨らもうとする挙動があります。この時のロール感は「淡々と走る」感覚と変化はありません。
突然、カーリングのごとくカーブで「ツーッ」と滑るような恐怖の感覚があります。
最終的にはちゃんとカーブを曲がっていくのですが、手から伝わる感覚がほとんど皆無で、その割に車両の挙動に一貫性がないように感じます。
その「モード切替」の速度や条件も分からないので、ちょっとオーバースピードで突っ込んだ…なんて時は恐怖そのものです。
車両にも「スポーツモード」の選択ができますが、これまた「変えないでくれ」と言わんばかりに使いづらく(マウスの真ん中にあるローラーみたいなスイッチですが、「押してから回さないと」モードが変わらない)、加えてスポーツに入れても「ギアが1段落ちるだけ」。
エンジン音もほとんど変わらないですし、エンジンブレーキが気持ち強くなるだけでほとんど変化がありません。
それなら…とATセレクターでマニュアルモードに設定してギヤダウンを操作しても変速操作が遅いです。山道で「エンジンブレーキを利かせて…」という瞬発的な操作には向いていません。
つまりこのクルマ、ドライバーを信用していないってことか。(←首都高を3/4走った段階で気付く)
おそらくこのクルマのボディ性能は高いです。遮音性も高いですし、エンジンマウントもごつくて立派(ボルボは総じてこの傾向が強い)です。挙句このエンジンは重りを付けてバランスウェイトまでやっているようです。
それに対するサスペンション・ステアリングの考え方ははっきりと「こけおどし」です。
安全圏内にいるうちはドライバーが喜ぶようなセッティングですが、それを少しでもはみ出すような状況下(例えばオーバースピード、ステアリングを速く操舵した時など)では発売前のテスト不足じゃない?と思うほど車両がついてきません。裏切ります。騙されます。
おそらくはフロントサスペンションのサブフレーム取付剛性が足らない、マウントブッシュが柔らかすぎる(か組立条件が悪い)ことが原因と思います。
そしてこういうクルマは得てして年数を経るか走行距離を重ねるとそれらの劣化でもっと状況はひどくなります。その「裏切りタイミング」がもっと低い速度で、もっと早い段階で訪れるようになります。
なのでこのクルマに乗って、腕に覚えのあるドライバーがドイツ車やスポーティー感に騙されて飛ばしたら「恐怖の瞬間」を体験することになると思います。
ふうん、こういうクルマですか…と割り切ってみたところで日帰りドライブにV60を連れ出します。
そうすると…家族からの評判は上々で「静か」「革シートはいいね(そこ?)」「シートがいい」となかなかの高評価です。
そして黙っておとなしく運転している分には…半分「ドライブしている」ことを忘れて景色を眺め、クルマではなく家族のことを考え楽しみながら運転していられます。
更に返却前、ガソリン30.14Lを入れてトリップメーターを見ると432.8km。
燃費は14.35km/Lとカタログ値(JC08モード燃費12.9km/L)を軽々超えています。
思っていたよりも経済的です。
ただしここで大いに文句を付けたい項目があります。それはセンターディスプレイです。
車両スタートではまずこの画面。
ナビ画面に切り替えるにもディスプレイ操作が必要で…
車両設定(アイドリングストップOFFとか)は画面の切り替えにホームボタン+スライド操作…
オーディオソースの切り替えは同じやり方(でもスライド方向が逆)で…
取説まで入っている(!)のに取説画面からの操作はできず…
エアコンの温度調整もディスプレイ操作(!)
とにもかくにもセンターディスプレイですべて操作するのです。そしてどこにあるのか「直感操作はまず不可能」。
24時間レンタルしている間で操作に馴染めませんでした…。
あと、「ボルボのリアフォグがついたまま眩しいよ!」とお嘆きの周囲を走るドライバー様。
操作レバーがこれ。ヘッドライト操作(はダイヤル式)の真横をなんと「押して」リアフォグONです。
私も間違ってリアフォグONにしかけました。(メーターディスプレイ表示で気付きましたが)
はっきり言ってインフォメーション・エンターテイメント・車両操作系がメチャクチャです。
正直、レンタカーで乗って「慣れろ」のレベルではありません。オーナーでも知らない、分からないことは多いと思います。
このクルマの印象をまとめます。
家族と長距離ドライブを楽しみ、普段はそんなに飛ばさない、危険領域なんて関心も興味もないし近づかない…という世の中の80%のドライバーとその家族には、このボルボを大いに勧められます。いろんな意味で「人畜無害」ですし、家族とドライブを楽しんでもクルマのクセが少なく、変に気になる・引っ掛かるところはありません。
しかしここを読んでいるような辺鄙なドライバー様にはこのクルマ、全く勧められません。
メルセデス・BMWのように「限界近くまでドライバーを信じてくれる」クルマではありません。突然豹変してクルマがダダっ子になってそれまでの運転感覚を裏切ります。
分かっていて乗る分には否定しません。
「じゃあそんな結論を書いたアンタはどーなのよ?」と思った方がいるかもしれません。
私はこういう味は好みではありません。しかし分かって乗る分にはいいと思います。
買うかと言われたら「NO」です。これならどこまでも信じてくれる今のクルマ(プロボックス)の方が、クルマという機械に対して私は信用できます。