日本の累積債務問題について書いてきましたが、尋常じゃない政府債務がありながら日本円の信用が失墜せずにインフレを招かないばかりでなく、日本経済はデフレ脱却すらままならずにもがいております。
これが一体何故なのか?
多くの経済学者さんやマーケットの前線で働いている金融関係者もよくわからないようです。
自国通貨建ての債務ですので、日本の政府債務がいくら積み上がってもデフォルトに陥る事はない…というのが、いわゆるリフレ派の人達や現代貨幣理論:MMTの人達が主張している事ですが、これは正しい事のように思えます。
日本の財政危機を声高に主張する人達も含めて、すべての人達が共通して言っているのは、財政危機が限界を越えたらインフレになるであろう事ですが、幸か不幸かその兆候すら見えません。
その理由として日本が経常収支黒字国だからと言う人がいます。
世界経済のネタ帳というサイトに、各種経済統計の推移がまとめられていますが、日本は第二次オイルショックを克服した80年代前半から経常収支黒字を維持してます(冒頭グラフ)。
日本は製造業が製品を輸出して外貨を獲得している加工貿易立国であると思われがちですが、現在の日本はそうではありません。東日本大震災で原発が停止し、火力発電で必要になる石炭や天然ガスの輸入が増えた結果貿易収支は一時的に赤字になり、その後も貿易収支はプラマイゼロ付近で推移してます。
今の日本の経常収支の黒字は主に海外投資によるものです。
日銀サイトの
「2020年の国際収支統計および本邦対外資産負債残高 」
https://www.boj.or.jp/statistics/br/bop_06/bop2020.htm/
から詳細なデータが記載されたpdfをダウンロードできますが、日本の海外への直接投資額が昨年末の時点で206兆円、証券投資額が525.8兆円、日本の対外純資産は357兆円という事になってます。
これらの取引は円建てではなくドル建てであったり現地通貨建てで行なわれているものが殆どと思います。この結果日本は膨大な外貨を獲得してきたことになります。
さてこのように過去40年間経常収支黒字を続けて外貨を獲得してきたわけですが、この黒字分の外貨はどうなるでしょうか?
当たり前ですが日本国内の通貨は円ですので、稼いできた外貨を日本で使おうと思ったら外貨を円に替えなければなりません。外貨を買って円を売ってくれるのは誰でしょうか?主に日本の金融機関でしょう。
外貨の所有者が、海外との取引で外貨を獲得してきた企業から金融機関に変わるだけです。マクロで見れば日本国内の外貨と円の所有者が変わっただけです。
外貨を外貨のまま持っていれば海外との取引にしか使えません。そもそも必要な商品、物資を海外から充分輸入した上で、それでも外貨が余っているから経常収支黒字なのです。国内の需要がもっとあれば海外からもっと買い物をするでしょうが、日本国内の需要がないから経常収支が黒字を維持してるとも言えます。
経常収支黒字分の外貨が何処に行くのかというと、再び海外投資に回ります。海外の証券を買ったり、日本企業が海外に設備投資をして工場を建てたりするのに使われます。
経常収支が黒字であるからこそ日本円の信用が維持され、インフレにもならずに膨大な政府債務を維持できているとも言えますが、国内経済を回す為に財政出動された資金まで海外投資に回り日本の「家計」を潤す事なくデフレが続いて、結果的に経常収支が黒字になり政府債務が膨らんでいるとも言えます。
前回書いた「企業」の貯蓄が増えているということの一部は、「企業の海外資産」が増えているということなのかもしれません。
国内にあった工場が海外に移転し、国内は雇用が失われて家計収入が減り、メーカーは海外で安く生産して利益を蓄えている…という構図が統計に現れているように見えます。
一般的に経常収支は黒字が善で赤字は悪だと思われがちですが、そうとは限りません。
Posted at 2021/07/26 16:35:47 | |
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