ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以降、その他の地域、国々の国際ニュースが相対的にあまり報じられなくなっていますが、スリランカのデフォルトや政変のニュースがひっそりと伝えられていました。
スリランカが中国によるいわゆる「債務の罠」に嵌まり、港湾を乗っ取られたりしているという話はご存知の方も多いと思います。
欧州や中東と日本を結ぶ航路の途中にあり、インドの隣国でもあるスリランカが中共の強い影響下に入るというのは、日本にとっても由々しき問題です。
なぜそうなったのか?今何が起こっているのか?
日本は今後何をしていくべきなのか?
それを理解するにはまずここまでの経緯について理解する必要があります。
スリランカは人口の75%がシンハラ人、15%がタミル人…という民族構成になっています。
1983年から2009年までの26年間、分離独立を求めるタミル人と政府軍との間で内戦が続きました。
これを終結させたのは2005年から大統領を務めたマヒンダ・ラージャパクサでした。
マヒンダは軍の総力を投入し、一部人道的に問題のある手法まで用いてタミル人勢力の殲滅にかかりました。その結果米国からは人権侵害を理由に支援を打ち切られてしまいますが、中国やパキスタンの援助を得てタミル人勢力を降伏させ、内戦を終結させました。
内戦後の復興に西側諸国の支援は得られず、主に中国の援助により進められました。ここで自国の経済規模を遥かに超えるレベルの対外債務を抱え込むことになり、経済が混乱してしまいます。
結局2015年にマヒンダは大統領選に敗れ下野することとなり、マイトリーパーラ・シリセーナが大統領に就任しました。
しかし、ここで大統領が変わったところで経済状況が激変する訳ではありません。中国に対する債務の返済が滞った結果、南部にあるハンバントタ港が2017年7月より99年間にわたり中国国有企業・招商局港口にリースされる事態になってしまいました。
かつて清国が欧州列強に受けた屈辱を今度は中国がスリランカに対して晴らしたことになりました。
この事態にスリランカ内政は混乱します。シリセーナは当時首相だったラニル・ウィクラマシンハを更迭します。
そしてよりによってマヒンダ・ラージャパクサを後継首相に指名し、挙国一致体制を敷いてこの国難を乗り切ろうとしましたが、ウィクラマシンハはこれに反発し法廷闘争に持ち込みます。
法廷闘争の結果マヒンダの首相就任は認められず、ウィクラマシンハが首相として残りました。
結局2019年の大統領選挙ではシリセーナは立候補を見送り退任します。国内で最大の権力を持っていたのはマヒンダでしたが、マヒンダ自身は大統領選挙には立候補せず、弟のゴーターバヤ・ラージャパクサを大統領選挙の候補に立て当選させます。
ここでマヒンダは首相の座に就き、事実上の独裁体制を築きました。
しかし政局に明け暮れていただけで経済状況が一向に好転しないまま、
さらなる不幸がスリランカに襲いかかります。
コロナ禍です。
スリランカにとって外貨獲得の主たる源であった観光業がコロナ禍で大打撃を受けます。主に中国に対する対外債務が膨らむ中、外貨獲得の手段を失ってしまいました。
更にそこに原油等の資源エネルギー価格の上昇が襲いかかります。
外貨不足で燃料油の輸入がままならなくなった所に更に追い打ちで旱魃が襲います。電力供給の約4割を担っていた水力発電も満足に行なえない状況になり、電力不足から計画停電が行なわれる事態に陥り、ついに国民の不満が爆発します。
外貨流出に歯止めがかけられなくなり、スリランカ・ルピー防衛のため一時的に固定相場制を実施したりしますが持ち堪えられるはずもなく、通貨切り下げ等の小手先の手法を取りますが…
スリランカ、通貨15%切り下げ IMFに支援要請との見方 | Reuters
https://jp.reuters.com/article/sri-lanka-rupee-exchangerate-idJPKBN2L50UN
こんなものが通じるはずもなく、再び変動相場制に戻したところでルピーが大暴落するなど迷走した挙げ句インフレが進行し、外貨不足からスリランカはデフォルトに陥りました。
スリランカ、初のデフォルトに 中国から多額債務、観光業の打撃 | 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20220412/k00/00m/030/266000c
政治経済の混乱とラージャパクサ 一族支配に対する国民の不満を受けてマヒンダは辞任します。
スリランカ首相が辞任 経済危機、一族支配に批判 | 共同通信
https://nordot.app/896366534863454208
とは言っても大統領はゴーターバヤ・ラージャパクサが居座ったままです。ラージャパクサ 一族支配が終焉した訳ではありません。
後継首相に選ばれたのは…ラニル・ウィクラマシンハでした。ウィクラマシンハは燃料不足や電力不足、インフレに対する国民の不満が渦巻く中で現在組閣中ですが、代わり映えしない政権メンバーでこの難局を乗り越えられるのだろうかと思うと悲観的にならざるを得ません。
さすがの中国もここにきてスリランカの支援に及び腰になっているとの話もあります。コロナ禍で上海がロックダウンされたり、不動産バブル崩壊等で中国経済も盤石ではありません。
スリランカは西側諸国にとっても中国やインドにとっても戦略的に重要な位置にあり、政治経済の安定が望まれますが当面は厳しい状況が続きそうです。
シリセーナ時代に日本やインドが支援する動きもありましたが、ゴーターバヤ政権になってその話は立ち消えになり再び中国依存に戻ってしまった経緯もあります。
インド太平洋戦略に基づく対中シフトにとって、スリランカの政治経済の混乱が大きな障害となりそうです。
Posted at 2022/05/18 05:06:09 | |
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