【私的名車列伝】第９弾　マツダ・デミオ（初代）

'90年代前半、多角化による販売5チャンネル制⇒車種濫造の大失敗によって窮地に陥ったマツダに、一筋の光明をもたらしたのが、'96年8月にデビューしたこのデミオである。デミオはよく売れ、ファミリアに代わってマツダの “看板車種” となった。

当時、スターレットに代表されるオーソドックスなコンパクトカーしかなかったこの市場に、デミオは少し長く少し高い、スペース優先のボクシーなボディスタイルで登場した。それが、それまでのコンパクトカーの室内や荷室の狭さに不満を持っていたユーザーたちに歓迎され、見事大ヒット作となったのである。

このデミオのヒットを他社が追随する形で 『コンパクトハイトワゴン』 なる市場が生まれ、1999年にヴィッツが革命を起こしたベーシックコンパクト勢と共に、今やコンパクトカーブームを担う市場へと発展。現在のイスト・ノート・フィット・コルトなどがそれに当たる。誤解を恐れずに言えば、かのフィットも “デミオのパクリ” なのである。市場を開拓したデミオは、とても偉大な車なのだ。

デミオは既にあったレビューのシャシーコンポーネントを流用して造られた安上がりな車だったが、ヒットの要因はその “着眼点” に尽きると思う。具体的な例として、ほぼ同時期にデビューしたダイハツのパイザーと対比すると非常に分かりやすい。パイザーはデミオに近いパッケージングながら、立体駐車場に入らない全高（1595mm）や、フェリーで料金が上がる4m以上の全長などがデミオと違っていた。結果デミオは大ヒットし、片やパイザーは全くヒットしなかった。マツダとダイハツの店舗数・顧客数の違いも要因としてあろうが、デミオとパイザーの決定的な差は〝マーケティングの読み〟の差ではなかったのか。車のヒットの分かれ目は、ほんのちょっとの差で決まってしまうのだ。


実用的かつバランスの良いボクシーなスタイル、大きくリクライニング＆スライドするリアシートなど、デミオは良点の多い名車だが、ノーマルグレードだと、個人的にはちょっと物足りない。
　
モデル末期に登場したアレッタ（←写真）なら、今でも結構イケてるかもしれない。ただ、カローラクラスと比べると、やはり装備が落ちてしまうのが玉に瑕だが…。

このデミオ、'02年8月にモデルチェンジされて現在の二代目となったが、ボディサイズがだいぶ大きくなってしまったのが少し残念だ。車とは得てして、モデルチェンジと共に大きくなっていってしまうものだが、それと共に、オリジナリティやアイデンティティを失っていき、果ては消滅してしまうような車が多いのもまた事実。それがコンパクトカーなら尚更だ。

デミオには、いつまでも “初志貫徹” でいて欲しい。
　
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●マツダ・デミオ 1300LX　［FF/3AT］　（'96.8～'02.8）
全長3800mm×全幅1670mm×全高1535mm　ホイールベース2390mm　車両重量930kg
1323cc（83ps/11.0kgm）　　10/15モード燃費16.0km/L　　価格111万円
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（※ルーフレールを除いた全高は1500mm）