
F1関連のニュースを眺めていたら「メルセデスは特異なサイドポッドの影響でコックピットの位置が他車より5cm前寄り」という話を目にしました.そのせいでドライバーがリアのピーキーさを感じているのだと.
先日の「
パノス LMP-1 ロードスターS」という極端な例を思い出すと有り得るなぁ~と納得したのですが,その一方で「5cmって,普通のクルマの3ノッチ差くらい・・・?」とも思ったOXです.
ちなみに,コクピット位置とサイドポットにどんな因果関係があるのか気になったので調べてみたところ,「サイドインパクトストラクチャー(↓)」の規定によるもののようでした.

(
Craig Scarborough Twitterより)
「サイドインパクトストラクチャー」とは,横(サイド)から衝撃(インパクト)を受けた時にそれを吸収するための構造体(ストラクチャー)の事ですが,これの規定が「コクピット背面から-525mmまで」となっているので,メルセデスだけがやっている「サイドインパクトストラクチャーを整流フィンとして使うアイデア」を活かすのに,コクピットを前に出さざるを得なかったんだろうなぁ~と思いました(他にも前後重量配分の最適化という意味合いもあると思いますが).
さて,前振りが長くなりましたが本題.
エンスト対策でLINK ECUに「
クローズドループラムダ」と「
アイドル目標回転数 3Dテーブル化」が追加されました.これによって複数のクローズドループ制御が同時に作動し,動きが複雑になってきたので,ここで一度考え方を整理しておこうと思います.
まず,そもそも「クローズドループ」って何?という点からですが,これはLINK ECU独特のものではなくて一般的な制御用語です.制御の中にはざっくり2種類の方式があって「クローズドループ」と「オープンループ」があります.
「クローズドループ」とは,読んで字の如く「閉じた輪」の事で,例えば,
①ECUが「空燃比が薄い! 燃料をもっと噴け!」とインジェクタに指示する
↓
②指示を受けたインジェクタが噴射量を増やす
↓
③燃料が増えた結果,空燃比が濃くなる
↓
④濃くなった結果をラムダセンサが検知してECUに知らせる
↓
⑤センサからの知らせを受け取ったECUが「今度は濃過ぎだ! 燃料を減らせ!」と指示する
↓
⑥指示を受けたインジェクタが噴射量を減らす・・・
という感じで,①~⑤の間を1つの輪にしたようにグルグルとループする制御の事を「クローズループ」と言います.
(個人的には同じモノを指す「フィードバック」という単語の方がしっくりきます)
一方の「オープンループ」は「閉じた輪」に対する「開いた輪」という意味合いの対義語ですが,実際は上図の通り輪になってないので,意味を考えるとおかしな言葉ですね(笑).「クローズドループ」のようにグルグルとループするような事はせず,指示を出したら出したっきり,行ったまま帰って来ない放任主義的な感じの制御になります.
次に,LINK ECUの中の「クローズドループ」制御は,空気・燃料・点火の3つがあります.
空気 ・・・ アイドル回転数制御 (回転数に対するフィードバック)
燃料 ・・・ クローズドループラムダ(空燃比に対するフィードバック)
点火 ・・・ アイドル点火制御 (回転数に対するフィードバック)
上記の通り,アイドリング時に回転数を一定に保つための制御が多いので,目標回転数を縦軸にして,実回転数がどう変わると,どういう制御が動くのか?を整理すると,こんなイメージでしょうか(↓).
「クローズドループ」とは実値が目標値に収束するように制御を行っていく訳なのですが,目標値にぴったりと一致する事は稀なので,ある程度ズレても良いように許容誤差として「不感帯」が設定されています.上図だと±50rpmの範囲にいる時は制御を行わないイメージですね.
そこからズレが大きくなってくると(±100rpm),そのズレを直そうと「アイドル回転数制御」が作動します.大抵はこれで元の±50rpm以内に戻るので問題ないのですが,時々,戻し損ねて-150rpmとかなったります(目標値が800rpmなら650rpmとか).この時にLINK ECUの場合は「アンチストール」制御が作動して,そのままエンストしたりしないように通常よりも強い力で回転数を元に戻そうとします.
これで回転数が上がってくれれば良いのですが,それでもダメな場合は「アイドル点火制御」でアンチストール機能を実現します.具体的にはアイドリング時のみ有効となるマップを別に持っておいて,回転数が極端に落ちたら(例えば-200rpmとか),それを使って点火時期を進角させる形ですね.空気量で制御するより,点火時期で制御した方がエンジンの反応は速いので急激に何かをしたい場合は点火を使う事が一般的です.ちなみに,この「アイドル点火制御」は逆の場合(回転数が上がり過ぎた場合)の補正にも使えますが,落ちる側と違い,こちらは急いで元に戻す必要がないので,私は使っていません.
最後,「クローズドループラムダ」はこれら各種制御が動いている中,空燃比を一定に保つように動いています.空燃比が濃くなれば出力が上がりますし,逆に薄くなれば出力は落ちます.空気と点火があ~だ,こ~だ,色々動くと空燃比もズレてきて,そのズレが原因で狙い通りに制御出来なくなり,ハンチングが起きたりもしますので,エンジンの燃焼状態がなるべく安定するように制御を行っています(ロバスト性を高めている訳ですね).
以上,「クローズドループ」の整理でした.
どういう時に誰が動いて・誰が動かないか?をよく考えて設定しないと,それぞれが勝手に動いて「オレは右! お前は左!」みたいなケンカをし出す事もあるので,「クローズドループ」は扱いがホント難しいですね・・・.
ブログ一覧 |
セッティング検討(ECU) | 日記
Posted at
2023/04/01 14:05:36